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【寄付を文化に】 最終話 静かに響く


最終話 静かに響く

火曜日の昼下がり、喫茶ハウディ。
いつものカウンター席は空いていた。
13時、この時間が一番空いている時間らしい。

「じゃあ、私、今日の夕方に帰るね」

美帆がコーヒーをひと口飲んでから、あっさりと告げた。純は、しずかに頷いた。

「けど、弘高遅いね。自分が呼び出したのにさ。」
「まあ、そのうち、来るんじゃない。」

ハウディに昼の1時。美帆が今日、関東に帰るから、ちょっと会おうと弘高が言ったので集まった。

「いや、あいつは火曜日定休だけど、ボクは、有休にしたのにさ。まあいいけど」

カラン、 コロン♪

その時、典型的な純喫茶の扉の音が響いて、弘高が入ってきた。その姿をみて、純も美帆も驚いた。

「いや〜、ごめん、ごめん。いろいろ苦戦しちゃった。オレが呼び出したのにごめんね。」

「……お前、それ」

「おどろいた?ギターだよ。この姿20年ぶり?」

純より先に美帆が声を上げた。

「まさか、歌ってくれるの?ん?曲つくった??」

「作ったというか、作ったのかな?2人の話、メモってて、また、昨日、夜電話したじゃん。すると、いろいろ浮かんだんだ」

「作曲は、俺」
「でも、作詞は2人かな?二人との会話や想いを歌詞にした。作詞、純と美帆」

「は?」

「なんか、もうこだわらなくていいかな。ってさ、みんなにウケる歌作らないと意味ないと思ってた。けど、違った」

「ふたりに喜んでもらえたらいいかなってさ、趣味ってそういうもんだろ」

ギターの弦が、カラン、と軽く鳴った。弘高は照れ隠しのように笑いながら、ポロンとコードを鳴らし始めた。

「哲平さん、ここで歌ってもいい」
「いいよ」

本来、ハウディは、12時半から13時半まで配達中だ。いまは、13時。弘高はマスターに頼んでたのか。なるほどね。

静かなカフェに、誰かの歌が流れた。


たった1秒 遅れただけで
夢は夢のままだった
だけど1秒 速くなれたら
誰かの声が 追い風になる

So I run, I fight, I tilt
もう、ひとりじゃないから

Tilting Tomorrow

ズらした明日、光がある
手を伸ばせば そばにいる
Change the story of my life

Tilting Tomorrow

「やっぱり、ヒロ、歌上手いな」
「おい。美帆、どうした?なんで泣いてんの?」

「ギター、嫌ってたのに。乗り越えたんだ。あのキオクを…」
美帆は、どこか自分にも重ねてるようだった。

「まだ、途中だよ。感情も整理も、全部、途中。でも、途中を見せてもいいって思えた」

ヒロが笑顔で言った。

「途中を見せる?」

「そう。完成してなくても、悩みも答えも出てないままの途中をそのまま出す。」

「いいね。それ、帰省してよかった。ふたりに会って良かった」

「あっ。ボクも思い出したわ。書くわ。話。二人の物語。小説家になる」

「それはもう、途中じゃないって!」

三人は笑った。
誰かが誰かの「主人公」ヒーローだったことに、誰もが少し驚きながら。

人生は変わらない。
認められたわけでもない。
でも、仲間との時間は、どこにも消えない。

思い出は、奪われない

「……いい曲じゃん」
「完成したら、送ってよ」

「そう言うと思って、YouTubeに上げといた」
「YouTube??」 
「チャンネルあったの?」

「昨日、作った。Studio Yet 」
「みんな夢の途中のYet」
「ヒロ!!最高かよ!」

みんな、笑っていた。
その笑い声がハウディに満ちていく
いつもより少し胸を張って見えた。

 作詞:サイレント・フィン & 純
 作曲:弘高
 録音:喫茶ハウディ
 配信∶Studio Yet

誰かの夢を応援する日がきても
自分が夢をみてもいい

信じられること
それは、幸せ

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