現場はドローン、事務は紙のまま──建設業バックオフィスに残る「3つのムダ」
建設の現場は、この数年で驚くほどデジタルが進みました。ドローンで測量し、スマホ1台で出来形を管理し、画面越しに現場を確認する。ところが事務所に戻ると、机の上には紙の請求書と電卓が並んでいる──そんな会社、まだ多いんですよね。
株式会社インフォマートが建設業で働く362名に行った調査では、請求書を「紙でやり取りしている」会社が37.8%。さらに、各種書類をシステムへ「手作業で転記している」割合が最も高かったのも請求書で、6割を超えていました(出典:デジコン/インフォマート調査)。現場が未来へ進む一方で、事務だけが時間に取り残されているんです。
建設業のバックオフィスに残る「3つのムダ」
この調査を読んで、私が一番うなったのは、建設ITジャーナリストの家入龍太さんのコメントでした。バックオフィスには「移動のムダ」「ひと手間のムダ」「物を探すムダ」という3つの無駄が残っている、という指摘です。データも、それをはっきり裏づけています。
・1日のうち時間がかかる業務の1位は「図面や報告書の作成」で38.1%
・2位が「現場と事務所のあいだの、書類のやり取りのための移動」で31.8%
・営業職にいたっては、28.6%が書類のやり取りの移動に1日3時間以上を費やしている(出典:デジコン/インフォマート調査)
ハンコをもらうために紙を届けに車を走らせる。請求書の数字を目で見ながらExcelに打ち直す。あの書類どこだっけ、と棚を探す。1回はほんの数分でも、毎日積み重なれば膨大な時間です。仮に1日3時間が250営業日続けば、年750時間。営業日のまるまる1か月分以上が、書類の移動だけで消えていく計算になります。
もうひとつ、見逃せないデータがあります。2024年4月から建設業にも残業の上限規制(時間外労働は原則で月45時間・年360時間まで)が始まりましたが、同じ調査では、この制度を「知らない」と答えた事務員が58.3%。一方で経営者・役員は71.4%、施工管理者は76.5%が「知っている」と答えていました。現場や経営層には情報が届いているのに、いちばん書類に追われている事務の方が、制度から取り残されている。この温度差そのものが、バックオフィスが後回しにされている象徴のように見えるんですよね。紙が減らない理由と、ツールより先にやること
では、なぜ紙は減らないのか。理由はシンプルで、「紙はその場では速い」からなんです。書いて、渡して、ハンコをもらう。目の前の1件だけを見れば、紙のほうが手っ取り早い。問題は、それが積み上がったときの全体のコストが、誰にも見えていないことです。
実際に経営者の方と業務の話をしていても、現場側はアプリやクラウドが入っているのに、請求や支払いの照合だけは社長か事務の方が一人で手打ちしている、という会社は珍しくありません。仕組みが入っていないわけではなく、「事務だけ手つかずで残っている」のが実態に近いんです。
だからといって、いきなり会計ソフトや電子化ツールを入れればいい、という話でもありません。建設業界でも受発注のデジタル化は確実に進んでいて、たとえば施工管理のスパイダープラスと、企業間取引のインフォマートが資本業務提携を結ぶような動きも出ています。ただ、道具を入れる前に自社の仕事がどう流れているかを掴んでいないと、「高い仕組みを入れたのに、結局また紙に戻った」という、いちばんもったいない失敗になりがちです。
私がおすすめしたいのは、ツール選びの前に、請求まわりの仕事を1枚の紙に「書き出す」ことです。やることは、難しくありません。工程ごとに、次の4つを書くだけです。
・誰がやっているか
・何のツール(紙・Excel・ソフト)でやっているか
・月に何時間かかっているか
・その人が休んだら、止まるかどうか
そして色を塗ります。止まる・時間がかかる工程は赤、まあ大丈夫は緑。たったこれだけで、「どこから手をつけるか」が一気に見えてきます。ツールはそのあとで選べばいい。順番が逆だと、お金も時間も無駄になってしまうんですよね。
利益を最後に削るのは、事務の手作業かもしれない
現場のDXがここまで進んだからこそ、これからの利益を最後にじわじわ削るのは、実は事務の手作業なんじゃないか──私はそう思っています。派手ではないけれど、毎日確実に時間を奪っていく。だからこそ、ここに手を入れる価値があるんです。
ShakeHandsで私がいつもお伝えしているのは、「人を増やす前に、まず仕事を分けましょう」ということです。事務が大変だから人を一人雇う、その前に、いまある事務を3つに仕分けてみてほしいんです。
・自社の人にしかできない仕事(判断・信用・現場の勘が要るもの)
・外に出せる・自動化できる仕事(転記・集計・定型の連絡)
・そもそも、もう要らない仕事(昔の名残で続いている作業)
請求書の転記を「全部やめろ」という話ではありません。3つに分けたうえで、まん中の「外に出せる仕事」だけを手放す。それだけで、社長や事務の方が、本当に自社でしかできない仕事に時間を使えるようになります。あなたの会社の請求まわりは、いま誰が、何時間かけて回しているでしょうか。一度、棚卸ししてみる価値は、十分にあると思います。まとめ──現場が進んだぶん、事務も身軽に
現場はドローン、でも事務は紙のまま。これは、どこか1社だけの話ではなく、建設業の多くが抱える「次の伸びしろ」だと感じています。手作業の転記や書類の移動は、減らせば減らすほど、そのまま時間と利益になって返ってきます。
派手なシステムを入れる前に、まずは紙とペンで、自社の業務を1枚に書き出してみる。そこから「これは外に出せる」「これは要らない」が見えてくる。遠回りに見えて、これが一番たしかな第一歩なんですよね。現場が前に進んだぶん、事務も、いっしょに身軽にしていきましょう。
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