「入れたのに使われない」が6割──デジタル化の前にやること
「便利なツールを入れたのに、結局みんな使っていない」。中小企業の経営者から、こんな声を聞くことが増えました。
株式会社kubellが2025年11月に中小企業(従業員10〜299名)の経営者・従業員1,093名を対象に実施した調査によると、デジタル化に着手したものの失敗した経験があると答えた企業は、57.5%にのぼります。約6割が「やってみたけど、うまくいかなかった」と感じているのです(出典:株式会社kubell「中小企業のデジタル化に関するアンケート調査」2025年12月)。
では、なぜ「入れたのに使われない」が起きるのか。そこには、ツールの問題ではなく、業務そのものの問題が隠れています。
失敗の原因は「ツール選び」ではない
同調査で明らかになった失敗理由の上位を見てみます。
・「利用が一部の人だけにとどまり、全社展開できなかった」34.2%
・「期待した効果が得られなかった」27.5%
・「既存システムとの連携ができず手間が増えた」26.2%
・「ほとんど使われずに放置された」17.7%
・「社員の抵抗が強く、運用が定着しなかった」16.9%
注目すべきは、失敗理由のほとんどが「ツールの性能が悪かった」ではないことです。「使われなかった」「定着しなかった」「手間が増えた」。つまり、ツールと現場の業務がかみ合っていなかったということです。
皆さんの会社でも、こんな経験はないでしょうか。勤怠管理のクラウドサービスを入れたのに、結局エクセルとの二重管理になっている。チャットツールを導入したのに、重要な連絡は相変わらずメールと電話で飛び交っている。導入前と同じ業務フローのまま、ツールだけが上に乗った状態──これでは「便利になった」と感じられるはずがありません。
「まず業務を整理する」が最優先
では、デジタル化がうまくいっている企業は何をしているのか。同調査では、生産性を高めるために取り組んでいることの1位が「仕事の簡素化・不要な手順の廃止」(37.7%)でした。2位は「働き方の見直し・改善」(36.3%)、4位に「業務の手順書作成と標準化」(27.8%)が入っています。
一方、「デジタルツールやクラウドサービスの導入」「AIの活用」といった項目は、いずれも2割以下にとどまっています。つまり、多くの企業が「ツールを入れる前に、まず仕事のやり方を見直す」という順番を選んでいるのです。
この傾向は、帝国データバンクが2026年1〜2月に実施した経営課題調査(有効回答5,241件)でも裏付けられています。「業務改革・DX」カテゴリで最も選択率が高かったのは「業務の標準化」で58.3%。「AI活用」(40.4%)や「業務プロセスのDX化」(40.1%)を大きく上回りました(出典:帝国データバンク「企業の経営課題に関するアンケート」2026年3月公表)。
経営者の過半数が「まず業務を標準化しなければ」と感じている。これは非常に重要なメッセージだと私は考えています。
業務を「見える化」してから変えた企業の成果
具体的な事例を紹介します。オートバイチェーンや自動車部品を製造する大同工業株式会社(石川県加賀市)では、技術部門の品質評価業務がベテラン社員に属人化していました。紙の作業手順書では細かなノウハウが伝わらず、新人の教育に膨大な時間がかかっていたのです。
同社はまず、ベテラン社員の作業を動画で撮影して「見える化」するところから着手しました。いきなり高度なシステムを導入するのではなく、「今、誰が、どうやっているか」を記録することから始めたのです。その上で動画マニュアルを整備した結果、教育工数の80%削減を実現。マニュアル作成自体にかかる工数も半分以下に短縮されました(出典:tebiki株式会社 大同工業導入事例)。
ポイントは、ツール導入の前に「業務の棚卸し」をしたことです。何を、誰が、どんな手順でやっているか。どこに時間がかかり、どこでミスが起きているか。これを把握してから手を打ったことで、ツールの効果が最大化されました。
「整理する」は地味だが、最もリターンが大きい
私がこの調査結果を見て強く感じるのは、「デジタル化の成否は、ツールの良し悪しではなく、導入前の業務整理で決まる」ということです。
kubellの調査でも、生産性向上の障害として「業務の属人化、標準手順の未整備」を挙げた企業は24.7%。さらに「常に多忙で業務改善に割く時間がない」が23.3%。つまり、整理が必要だとわかっていても、日々の業務に追われて手がつけられない。この状態でツールを入れても、混乱が増えるだけです。
ここで、「業務の棚卸し」の具体的なステップを整理しておきます。
・ステップ1:部署ごとに、日常の業務を一覧に書き出す(まずは箇条書きでOK)
・ステップ2:それぞれの業務に「誰がやっているか」「月に何時間かかっているか」を書き添える
・ステップ3:「その人しかできない業務」にマークをつける(=属人化ポイント)
・ステップ4:マークのついた業務から、手順書・チェックリストを作り始める
最初から完璧なマニュアルを作ろうとする必要はありません。まずはA4用紙1枚のチェックリストからでも十分です。大事なのは「暗黙知」を「文字」にすること。それだけで、業務の引き継ぎやすさが劇的に変わります。
まず1つの業務を「書き出す」ことから
デジタル化もAI活用も、その効果を最大限に引き出すには、土台となる業務の整理が欠かせません。6割が失敗しているという現実は、裏を返せば「整理をしてから取り組めば、成功する側に回れる」ということでもあります。
大がかりなプロジェクトにする必要はありません。まずは、自社で最も属人化している業務を1つ選んで、やり方を書き出してみてください。それが、デジタル化を成功に導く最初の一歩になります。
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