「FAXやめたい」のに変われない会社の共通点
「うちもそろそろFAXやめたいんだけどね……」。中小企業の経営者と話していると、こんな言葉をよく耳にします。
AI inside株式会社が製造業の受発注担当者を対象に行った調査によると、受注業務でFAXによる書類受領があると答えた企業は73.3%。月に届くFAXが1,000枚以上という企業も43.0%にのぼります。そして、その書類を基幹システムやExcelに手で打ち込んでいる担当者は、60.4%。つまり、届いた紙を見ながら、品番・数量・納期を一つひとつ入力している人が今も大半なのです(出典:AI inside株式会社「製造業の受注業務に関する実態調査」2024年)。
「やめたい」のに、なぜ変われないのか。ここに、中小企業の業務改善を阻む構造的な問題が隠れています。
なぜFAXは「やめたくても、やめられない」のか
同調査では、FAXでのやり取りをやめたいと回答した担当者は88.4%にのぼりました。ほぼ全員が「やめたい」と思っている。それなのに、63.0%が「取引先がFAXを利用しているため、他のツールに移行できない」と答えています。
ここが重要なポイントです。FAXが残っている理由は、自社の問題ではなく「相手がFAXだから」という外部要因なのです。
皆さんの会社でも、こんな状況はないでしょうか。取引先から届くFAXの注文書を、担当者が毎朝手作業で基幹システムに打ち込む。品番の入力ミスで誤発注が起き、納期遅れや再発注のコストが発生する。でも「取引先がFAXしか使えないから仕方ない」と、誰もその業務フローを見直そうとしない。
実はこの「仕方ない」が、一番の落とし穴です。取引先がFAXを使い続けることと、自社側の処理を手作業で続けることは、まったく別の問題だからです。
「届く側」の工夫で、手入力はなくせる
最近注目されているのが、AI-OCR(AIを使って紙の書類を自動でデータ化する技術)を活用したFAX受注のデジタル化です。取引先にFAXをやめてもらう必要はありません。届いたFAXを「受け取る側」がAI-OCRで読み取り、自動でシステムに入力する。この発想の転換が、多くの中小企業で成果を上げています。
具体的な事例を紹介します。
調味料メーカーのオタフクソース株式会社では、毎日約500枚のFAX注文書が届き、20人体制で午前中に処理を完了させなければなりませんでした。同社はAI-OCRシステム「AnyForm OCR」を導入し、注文書の読み取りと入力を自動化。導入から4年が経過した現在も安定して運用を続けています(出典:内田洋行ITレポート)。
また、食用加工油脂を扱う太陽油脂株式会社は、FAX受注業務にスマートOCRを導入し、月あたり約80時間の工数削減に成功しました(出典:スマートOCR導入事例)。
木造住宅用の耐震金物メーカーである株式会社タナカは、キヤノンのAI OCRソリューション「CaptureBrain」を活用して、FAX注文書の処理をデジタル化。注文データの基幹システムへの入力作業を自動化し、営業事務の役割を再定義する取り組みを進めています(出典:キヤノン導入事例)。
いずれの企業にも共通しているのは、「取引先にFAXをやめてもらう」のではなく、「届いた後の処理を変える」というアプローチを取ったことです。
「まずツール導入」の前にやるべきこと
ただし、私はAI-OCRをすぐに入れればいい、とは考えていません。
ツールを入れる前に必要なのは、「今、受発注業務がどう流れているのか」を正確に把握することです。
・FAXが届いてから、誰が、何を見て、どこに入力しているのか
・入力ミスが起きたとき、どんな手順でリカバリーしているのか
・その業務に、1日何時間・月に何時間かかっているのか
これらを洗い出さずにツールだけ導入しても、うまくいきません。東京商工会議所の「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査2025」でも、ITを「導入」した企業は82.3%に達している一方で、ITを「活用」できている企業は52.7%にとどまると報告されています。導入と活用の間にある30ポイントのギャップは、「業務フローの整理」をせずにツールだけ入れた結果だと私は見ています。
業務フローを見える化すると、「そもそもこの確認作業は必要なのか」「この転記は二重作業ではないか」といった発見が必ず出てきます。ツール導入は、業務を整理した後のほうが確実に効果が出る。これは、私がこれまで経営や業務改善に向き合ってきた中で強く感じていることです。
小さく始めて、確実に変える
「FAXをやめる」と大きく構える必要はありません。まずは、自社の受発注業務がどう回っているかを書き出してみる。それだけでも、今まで見えなかったムダやリスクが浮き彫りになります。
そのうえで、「取引先はそのまま、自社側だけ変える」という現実的な一歩を踏み出す。AI-OCRのようなツールは、月数万円から導入できるものも増えています。
大事なのは、「仕方ない」で思考を止めないことです。変えられないと思っていた業務の中にこそ、経営を楽にするヒントが眠っています。
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