「営業に自信がある」経営者、たった14%の現実

「御社の営業、うまくいっていますか?」

この質問を中小企業の経営者に投げかけると、多くの方が苦笑いを浮かべます。株式会社給与アップ研究所が2025年に実施した調査(従業員10〜300名の企業で営業部門の業績を把握している経営者107名が対象)によると、「自社の営業部門の生産性が高い」と感じている経営者は、わずか14%でした。つまり、86%の経営者が自社の営業に満足できていないということです。

ここで注目したいのは、多くの経営者が「営業力=営業マン個人の能力」だと考えている点です。実は、営業の成果が安定しない原因の多くは、人ではなく「仕組み」の不在にあります。

なぜ営業は「人頼み」になるのか

中小企業の営業部門には、ある共通した課題があります。同調査では、営業の課題として以下の結果が出ています。

・「営業プロセスが標準化・効率化されていない」:24.2%
・「営業社員への教育・指導が不十分」:24.2%
・「営業活動に集中できる環境が整っていない」:18.2%

(出典:株式会社給与アップ研究所「中小企業における営業生産性の実態と向上策に関する調査」2025年)

これらの数字が示しているのは、多くの中小企業では営業のやり方が「できる人の頭の中」にしか存在しないという現実です。

皆さんの会社では、こんな状態になっていないでしょうか。新しい営業担当が入っても先輩の背中を見て覚えるしかない。提案資料の作り方や見積もりの出し方が人によってバラバラ。「なぜあの人は売れるのか」を誰も言語化できていない。

これは「営業力がない」のではなく、「営業の仕組みがない」状態です。個人の能力に依存した営業は、その人の調子や在籍状況によって売上が大きく揺れます。経営としてはかなり不安定な構造だと、私は考えています。

仕組み化で変わった企業の実例

では、営業プロセスを仕組み化するとどう変わるのか。実在する企業の取り組みを紹介します。

あるSaaS(インターネット経由で使えるソフトウェアサービス)系企業では、営業ナレッジの共有の仕組みがなく、営業支援のフローが完全に個人任せになっていました。そこで、次のような取り組みを行いました。

・営業の業務フローチャートを作成(誰が、いつ、何をするかを図にする)
・案件の進捗ステージを定義(「検討中」「提案済み」「契約直前」など、全員が同じ基準で判断できるようにする)
・提案資料の共通フォーマットを作成
・育成研修のカリキュラムを策定

その結果、案件対応の期日完遂率が約20%向上し、営業メンバー全体の提案の質が底上げされたと報告されています(出典:パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社)。

また、ある保険会社の事例では、飛び抜けた実績を持つ営業チームの商談手法を徹底的に分析し、社内メソッドとして言語化。これを全営業担当者に共有して実践したところ、会社全体の成約率が10%向上しました(出典:Mer株式会社「Mer LABO.」)。

どちらの事例でも、やっていることの本質は同じです。「できる人のやり方を、みんなができるようにした」──ただそれだけなのです。特別なITツールに大きな投資をしたわけではありません。

「営業の見える化」から始める

私がここで強調したいのは、営業の仕組み化は大企業だけの話ではないということです。むしろ、営業担当が数名しかいない中小企業こそ効果が大きい。なぜなら、一人ひとりの成果のバラつきが、そのまま会社全体の売上のバラつきに直結するからです。

営業プロセスの仕組み化は、以下のステップで進めることができます。

1. 現状の営業フローを「見える化」する:受注に至るまでの流れを書き出す。初回の問い合わせからクロージングまで、何段階あるか把握する

2. 成果が出ている営業のやり方を言語化する:提案のタイミング、ヒアリング項目、フォローの頻度など、成功パターンを具体的に書き出す

3. 共通のフォーマット・手順書に落とし込む:誰がやっても同じ品質で対応できる状態をつくる

4. 全員で使い、定期的に見直す:実際に運用して、うまくいかない部分を都度改善する

特に重要なのはステップ1の「見える化」です。営業プロセスが見えていなければ、何を改善すべきかもわかりません。自社だけでは難しい場合、業務整理を専門とする外部パートナーに相談するのも有効な選択肢です。

ちなみに、先の調査では、営業生産性が120%向上するなら「営業業務の一部を外注・アウトソーシングしたい」と回答した経営者が約4割いました。営業の「すべてを自社で抱える」という前提を見直す経営者が、確実に増えているということです。

まとめ

営業力は、優秀な人を採ることだけでは解決しません。「仕組み」があってはじめて、一人ひとりの力が最大限に発揮されます。

まずは自社の営業フローを紙1枚に書き出してみてください。商談の入り口から受注までの流れを整理するだけで、どこにムダがあり、どこに改善の余地があるかが見えてきます。

「うちの営業はこうなっている」と、経営者自身が言語化できる状態をつくること。それが、86%から抜け出すための第一歩です。


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