バックオフィスを外注する前に、やるべき「業務の切り出し」という仕事
中小企業の経理担当者の50.1%が「経理部門で人手不足を感じている」というデータがあります(Bill One「経理担当者実態調査」)。驚くのはその数字だけではなく、「深刻な状況だ」と感じている割合がそのうち約9割に達するという事実です。
では、その解決策として多くの会社が最初に考えるのは何でしょうか。おそらく「採用」です。求人票を出し、面接をし、採用コストをかけて人を探す。でも、その前にやるべき仕事が一つあります。それが「業務の切り出し」です。
バックオフィスが「後回し」にされる構造的な問題
なぜ経理・総務などのバックオフィス部門は、これほど人手不足が放置されがちなのでしょうか。答えは構造にあります。
経営の視点から見ると、営業や製造など「売上に直結する部門」に採用リソースを集中させる判断は合理的に見えます。結果として、バックオフィスの人材確保は後回しになり、気づけば「経理担当が1人しかいない」という状態に陥ります。
実際、中小企業における経理担当者数の実態調査(マネーフォワード)によると、58.2%の企業が経理担当者1名体制であることが明らかになっています。1人体制の経理担当者は有給を取ることも難しく、その人が退職すると業務が止まるリスクもあります。
帝国データバンクの2025年1月の調査では、正社員が「不足」と感じている企業は51.6%と、4年連続で半数を超えました。この「人手不足」は一時的な景気変動ではなく、人口減と産業構造の変化による構造的な問題です。採用すれば解決する時代は、もう終わっています。
では「採用できないなら外注だ」という発想はどうでしょうか。確かに外注(BPO=業務プロセスの外部委託)は有効な手段です。しかし、ここでも多くの会社がつまずく落とし穴があります。
外注は「整理された業務」にしか機能しない
BPOを導入した企業の9割が「経営効率が向上した」と回答しているというデータもあります(ベルシステム24「BPO実態調査」)。
しかし、現場での失敗パターンを聞くと、共通した課題が浮かびます。「何を外注すればいいかわからない」「外注したけど思っていたものと違った」という声です。
なぜこうなるのか。原因は業務が整理されないまま外注しようとするからです。
たとえば「経理業務を外注したい」と思っても、自社の経理業務が「何のために、誰が、いつ、どんな形でやっているか」が整理されていなければ、外注先に渡せる情報がありません。担当者の頭の中にしか業務フローがない、いわゆる「属人化」の状態では、外注はスタートすらできないのです。
経理プラスの調査によると、バックオフィス担当者の49.5%が紙書類の処理に月10時間以上費やしています。この時間を削減したいという動機はわかります。ただ、その業務が「誰でも再現できる形」に整理されていなければ、外注先もどう動けばいいかわかりません。
実際にBPO導入を成功させている企業の共通点は一つです。外注する前に「業務の切り出し」をきちんとやっていること。つまり、自社の業務を可視化し、「外注できる部分」と「社内で判断が必要な部分」を明確に分けているのです。
業務の切り出しから見えてくること
業務の切り出しとは、要するに「自分たちがやっている仕事を言語化する作業」です。これが地味に見えて、実は経営の本質に近い仕事だと私は考えています。
「うちの経理は複雑だから外注できない」という経営者の声を聞くことがあります。でも、よく話を聞いてみると、複雑なのは業務そのものではなく、業務が整理されていないために複雑に見えているだけ、というケースが少なくありません。
たとえば「月次の請求書作成→入金確認→仕訳処理→試算表作成」という流れを書き出してみると、前半2ステップは外注できるが、後半の仕訳・試算表は経営判断に関わるので内製化した方がいい、という判断ができます。これが「切り出し」の本来の意味です。
あなたの会社のバックオフィス業務は、誰かが辞めた瞬間に止まりますか?もしそうなら、それは「人手不足」ではなく「業務設計の問題」かもしれません。採用や外注の前に、まず業務を言語化する機会を作ってみてください。
まとめ
人手不足の解決策を「採用か外注か」の二択で考えている間は、根本的な問題は解決しません。採用しても定着しない、外注しても期待通りに動かない、という悪循環に陥るリスクがあります。
まず取り組むべきは「今の業務をきちんと見える化すること」。それができて初めて、採用が必要なのか、外注で補えるのか、あるいはAI(人工知能を活用した自動化)で代替できるのかが見えてきます。
バックオフィスが回らない会社は、社長も担当者も目の前の処理に追われて、本来やるべき経営判断の時間が削られていきます。その状況を変えるための第一歩は、高額なシステムでも採用費でもなく、業務の棚卸し、つまり「何をやっているかを書き出すこと」から始まります。
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