「研修しても7割が活かせない」──教育投資を無駄にしないたった1つの準備
新年度を目前に控え、社員研修の計画を立てている経営者の方も多いのではないでしょうか。AI研修、DX研修、マネジメント研修……。「うちも何かやらなければ」という焦りから、研修会社のパンフレットを取り寄せている方もいるかもしれません。しかし、ここでひとつ衝撃的なデータをお伝えします。研修を受けた社員のうち、学んだ内容を業務で活用できたと答えたのは、わずか31%。残りの69%は「あまり活用できなかった」「ほとんど活用できなかった」と回答しているのです(株式会社EdWorks「企業研修と研修効果に関する実態調査」)。
せっかくお金と時間をかけて研修を実施しても、7割が現場で活かされない──。これは中小企業にとって、決して見過ごせない問題だと私は考えています。
中小企業の研修費は「安くない」
「うちは大企業じゃないから、研修費なんて大した額じゃないよ」と思われるかもしれません。しかし実態は違います。
企業規模別の1人あたり年間教育研修費を見ると、意外な傾向が浮かびます。
・大企業(1,000人以上):31,397円
・中堅企業(300〜999人):41,278円
・中小企業(299人以下):40,588円
(出典:産労総合研究所「2023年度 教育研修費用の実態調査」)
中小企業のほうが大企業より1人あたりの研修費が高いのです。従業員20人の会社なら年間約80万円。決して小さな金額ではありません。この投資の7割が現場で活かされないとしたら、年間約56万円が「消えている」計算になります。皆さんの会社では、研修に使ったお金がきちんと成果につながっていると言い切れるでしょうか?
なぜ研修は「やりっぱなし」になるのか
研修が定着しない原因について、複数の調査が共通して指摘しているポイントがあります。
・研修後にフォローアップを実施している企業はわずか2割(株式会社EdWorks調査)
・研修後に上司と振り返りをする機会があったと回答したのは22%のみ(同調査)
・研修後に「明確に実践した」と回答した受講者は13.5%にとどまる(リ・カレント株式会社調査)
つまり、8割の企業が「研修をやったら終わり」にしているのです。
しかし、私はこの問題の根っこは「研修後のフォロー不足」だけではないと考えています。もっと手前の段階──「研修の前」に原因があるケースがとても多いのではないでしょうか。
研修の前に「何を学ぶべきか」が整理されていない
たとえば、「AI研修をやりたい」という経営者の方とお話しすると、こんなやり取りになることがあります。
「AIで何を効率化したいですか?」
「うーん、とりあえず全般的に……」
「今、一番時間がかかっている業務は何ですか?」
「それがよくわからないんですよね」
これが、研修が活かされない最大の理由だと私は思っています。
社員が「何を学ぶべきか」が明確でないまま研修を受けても、現場に戻った途端に「で、何に使うんだっけ?」となる。研修の内容と日常業務がつながっていないから、学んだことが宙に浮いてしまうのです。
逆に、研修前に「うちの会社では毎月の請求書作成に1人あたり8時間かかっている。ここをAIツールで効率化したい」と具体的に整理できていれば、研修での学びは翌日から実践できます。
「業務の棚卸し」が研修効果を3倍にする
研修前・研修中・研修後のすべてに取り組んでいる企業では、研修内容の業務活用率が5割を超えるというデータがあります(EdWorks調査)。一方、何もしていない企業では2割未満。つまり、事前準備があるかないかで、研修の効果は2.5倍以上の差がつくのです。
では、研修前の「事前準備」とは具体的に何をすればいいのか。私が提案したいのは、たった1つのシンプルなステップです。
それは「業務の棚卸し」。
具体的には、以下の3点を洗い出すだけです。
・今、社内で誰が・どんな業務に・どれくらいの時間をかけているか
・そのうち、ムダや重複が発生している業務はどれか
・研修で学ぶスキルを、どの業務に・どう適用するか
これだけで、研修の「的」が定まります。「とりあえずAI研修」ではなく、「請求書処理の自動化のためのAI-OCR(AIを使って紙の書類を自動でデータ化する技術)研修」というように、目的が具体化されるのです。
実際に、東京商工会議所の「従業員研修の実施状況に関するアンケート」でも、研修の効果を実感している企業ほど「自社の課題を明確にしたうえで研修テーマを選んでいる」という傾向が報告されています(出典:東京商工会議所)。
たとえば、従業員15人の製造業の会社を想像してみてください。毎月の受発注処理に経理担当者が20時間かけているとします。年間で240時間、人件費に換算すれば約48万円分の労働時間です(時給2,000円で計算)。もしこの業務をAI-OCRとクラウド会計ソフトで半分に短縮できるなら、年間24万円分の時間が浮く。1人あたり4万円の研修費をかけても、十分にお釣りがくる計算です。こうした「投資対効果の見通し」が立つのは、業務の棚卸しをしているからこそ。棚卸しなしに「なんとなくAI研修」を受けても、この計算はできません。
新年度の研修計画、今からでも間に合います
4月の新年度に向けて研修を計画中の経営者の方に、ぜひお伝えしたいことがあります。
研修会社を選ぶ前に、まず自社の業務を棚卸ししてみてください。「うちの会社で一番時間がかかっている仕事は何か」「それは本当に人がやるべき仕事か」──この問いに答えられるようになってから研修を選んでも、決して遅くはありません。
むしろ、この準備をした会社こそが、研修費を「投資」として回収できる。私はそう確信しています。
教育投資は、正しい順番で行えば必ずリターンを生みます。「まず業務を知る。そのうえで、何を学ぶかを決める」。このシンプルな順番を守るだけで、研修の成果は大きく変わるはずです。
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