判断する人ほど、誰かの味方になってはいけない
職場には、なぜか空気を持っていく人がいる。
役職があるわけではない。
最後に責任を取る立場でもない。
それでも、その人が少し不満そうな顔をすると、周りが様子を見る。
「あの人がそう言うなら、やめておいた方がいいか」
「あまり言うと面倒だから、今回は合わせておこう」
「また機嫌が悪くなると厄介だし」
こうして、いつの間にかその人基準で話が進むことがある。
昔の言葉で言えば、お局様のような存在かもしれない。
ただ、これは女性に限った話ではない。
男性でもいる。
若くてもいる。
役職がなくてもいる。
自分の都合を、全体の都合のように話す人。
自分の不満を、みんなの不満のように見せる人。
声が大きいというより、空気を先に取ってしまう人。
現場を見ていると、こういう場面は意外と多い。
「みんな困っています」は、本当にみんななのか
工場の中でも、こういう言葉を聞くことがある。
「みんな困っています」
「前からみんな言っています」
「現場ではそういう話になっています」
この「みんな」は、なかなか便利な言葉だと思う。
言われた側は、少し身構える。
一人の意見ではなく、全体の声のように聞こえるからだ。
ただ、管理する側としては、ここで一度止まらないと危ない。
本当に全員がそう思っているのか。
一部の人が強く言っているだけなのか。
言いづらいから、周りがうなずいているだけなのか。
その場の空気に合わせて、反対しなかっただけなのか。
ここを見ないまま話を進めると、声の大きい人の都合が、いつの間にか職場の意思になる。
そして後から出てくる。
「実は、私はそこまで思っていませんでした」
「あの場では言いづらかっただけです」
「本当は別のやり方の方がいいと思っていました」
こうなると、何を信じればいいのか分からなくなる。
でも、本当は最初から見誤っていたのだと思う。
声の大きさと、事実の重さを同じものとして扱ってしまった。
味方になると、少し楽になる
判断する立場になると、誰かの味方になった方が楽な時がある。
声の大きい人に寄れば、その場は早く収まる。
揉める回数も減る。
面倒な反発も避けられる。
逆に、黙って我慢している人を見ると、そちらを守りたくなる。
いつも飲み込んでいる人。
言い返さない人。
真面目にやっているのに損をしている人。
そういう人を見ると、「今回はこの人の側に立ってやらないと」と思うこともある。
人としては自然だと思う。
私も、現場で何度もそう感じてきた。
強く言う人に流されそうになったこともある。
逆に、我慢している人を見て、そちらに肩入れしたくなったこともある。
ただ、工場の責任者として見ると、ここが難しい。
声の大きい人の味方になると、職場はその人に寄っていく。
黙っている人の味方になりすぎると、今度は別の事実を見落とす。
どちらかを守っているつもりで、判断そのものが傾くことがある。
だから、判断する人ほど、誰かの味方になってはいけないのだと思う。
中立は、冷たいことではない
中立という言葉は、少し冷たく聞こえる。
困っている人を助けない。
傷ついている人に寄り添わない。
ただ事務的に処理する。
そんな印象を持たれることもある。
でも、私が現場で必要だと思う中立は、そういうものではない。
誰が言ったかではなく、何が起きたのかを見る。
どちらがかわいそうに見えるかではなく、どこで仕事が止まったのかを見る。
声が強いか弱いかではなく、次に同じことが起きないために、何を変えるべきかを見る。
それができないと、管理する側まで空気に飲まれる。
たとえば、古くからいる人が新しいやり方に反対する。
理由を聞くと、確かに一部は正しい。
現場の手間が増える。
今までの流れが変わる。
慣れるまで混乱する。
一方で、若い人や別の工程から見れば、今のやり方の方が分かりづらいこともある。
確認が属人化している。
説明を受けないと分からない。
ミスが出ても「昔からこうだから」で止まってしまう。
どちらにも言い分がある。
ここで「昔からいる人が悪い」と決めるのも違う。
「若い人のために変えるべきだ」と一気に寄るのも危ない。
見るべきなのは、誰の顔を立てるかではない。
そのやり方で、仕事が安定するのか。
次に入る人でも迷わずできるのか。
品質や納期に影響が出ないのか。
そこに戻らないと、判断ではなく調整ごっこになる。
空気ではなく、事実に戻る
現場で判断に迷う時ほど、私はできるだけ事実に戻るようにしている。
誰が不満を言っているのか。
いつから起きているのか。
実際に止まった工程はどこなのか。
困っているのは作業そのものなのか、人間関係なのか。
ルールが悪いのか、伝え方が足りないのか。
もちろん、毎回きれいに整理できるわけではない。
その場では急いで決めなければいけないこともある。
納期もある。
人の感情もある。
言い方を間違えれば、余計にこじれることもある。
それでも、管理する側が空気だけで決めてしまうと、あとで現場に残る。
「あの人が言ったから変わった」
「結局、強く言った人が得をした」
「黙っている人の方が損をする」
こういう感覚が残ると、職場は少しずつ冷めていく。
人は、完璧な判断だけを求めているわけではないと思う。
ただ、見てほしいところを見てくれているか。
声の大きさではなく、事実を拾おうとしているか。
そこは、意外と見ている。
誰かの味方にならないから、守れるものがある
判断する人は、好かれるためにいるわけではない。
かといって、冷たく切り捨てるためにいるわけでもない。
声の大きい人を黙らせることが仕事ではない。
我慢している人を無条件に守ることだけでもない。
どちらの言い分にも飲まれず、仕事が正しく進む場所を探すことだと思う。
これは簡単ではない。
強く言う人に押されることもある。
黙っている人の表情が気になることもある。
自分の中に「こちらの方が正しそうだ」という感情が出ることもある。
それでも、そこで一度立ち止まる。
誰の味方をしたいのかではなく、何を見落としてはいけないのか。
その問いを持っていないと、判断する側まで職場の空気に流される。
声の大きい人がいる職場は多い。
気を遣って黙る人も多い。
その間で、物事がなんとなく決まっていくこともある。
でも、その「なんとなく」で決まったことほど、あとで誰かが苦しくなる。
判断する人ほど、誰かの味方になってはいけない。
それは、人に寄り添わないという意味ではない。
人ではなく、事実を見る。
空気ではなく、仕事の流れを見る。
その場の納得ではなく、後に残る歪みを見る。
その方が結果的に、人を守ることもあるのだと思う。
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