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任せると危ない仕事ほど、渡し方を整えなければいけない

「人に任せるより、自分でやった方が早い」

この言葉は、あまり良い言葉として扱われません。

仕事を抱え込む人。
人に任せられない人。
部下を育てない人。
全部自分で持ってしまう人。

そう見られることもあります。

確かに、何でも自分で持ってしまえば、周りは育ちません。
仕事も属人化します。
休んだ時に誰も分からない。
確認も、その人を通さないと進まない。

良い状態ではない。

ただ、現場にいると分かります。

「自分でやった方が早い」と言いたくなる場面は、本当にあります。

説明して、確認して、途中で止まって、最後に直す。
それなら最初から自分でやった方が早かった。

そう思ってしまう気持ちは、かなり現実的です。

特に、失敗した時の責任が自分に返ってくる立場なら、なおさらです。

任せた相手が悪い、では終わらない。
最終的に怒られるのは自分。
納期が遅れた時に説明するのも自分。
お客様に頭を下げるのも自分。
現場を止める判断をするのも自分。

そうなると、人に任せること自体が怖くなります。

任せたら危ない、には理由がある

「任せると危ない」と感じる仕事には、だいたい理由があります。

過去にクレームがあった。
判断を間違えると大きな損失になる。
相手先の癖が強い。
図面が複雑。
前回と仕様が少し違う。
どこまで現場判断してよいか曖昧。
失敗した時のリカバリーが難しい。

こういう仕事を、何の準備もなく渡せば、確かに危ない。

接客なら、過去に揉めたお客様の情報を知らずに対応する。
営業なら、相手が一番気にする条件を知らずに提案する。
事務なら、間違えると支払いに影響する項目を知らずに処理する。
製造なら、見落としやすい寸法や変更箇所を知らずに作り始める。

これでは、任された側もつらい。

本人は真面目にやっている。
でも、見えていない地雷を踏む。
すると、任せた側は思う。

「やっぱり任せると危ない」

そして次から、その仕事を自分で持つようになります。

これは、よくある流れです。

抱え込む人だけを責めても解決しない

仕事を抱え込む人を責めるのは簡単です。

「任せればいいのに」
「人を信用していない」
「自分で抱えるから周りが育たない」
「もっと手放した方がいい」

言っていることは間違っていません。

ただ、それだけでは現場は変わりません。

なぜなら、抱え込んでいる人の中には、過去に任せて失敗した経験があるからです。

任せたけれど、思った通りに進まなかった。
説明したつもりだったけれど、伝わっていなかった。
途中で確認してほしかったのに、そのまま進んでしまった。
最後に手直しが増えて、結局自分が火消しをした。

そういう経験が積み重なると、人は慎重になります。

そして、慎重さがいつの間にか抱え込みに変わる。

本人としては、職場のためにやっているつもりです。
失敗を減らしたい。
迷惑をかけたくない。
お客様に怒られたくない。
後工程を困らせたくない。

だから自分で持つ。

ところが、これが続くと仕事はその人の頭の中に溜まっていきます。

注意点も、過去の経緯も、判断の線引きも、客先の癖も、図面を見る時の勘所も、その人だけが知っている状態になる。

周りから見ると、こうなります。

「あの人に聞かないと分からない」
「あの人がいないと進まない」
「あの人しか判断できない」

そしてまた、その人に仕事が戻ってくる。

抱え込んだ結果、さらに抱え込むしかなくなる。
なかなか嫌な循環です。

任せる力と、渡し方を整える力はセット

人に任せるには、ただ仕事を手放せばいいわけではありません。

任せる前に、その仕事を相手が扱える形に整える必要があります。

何をすればいいのか。
どこで迷いやすいのか。
何を間違えると危ないのか。
どこまで自分で判断してよいのか。
どの時点で確認に戻ればいいのか。
完成した状態はどういうものなのか。

これが見えていない仕事を渡すと、任せる側も任される側も怖くなります。

逆に、ここが整理されていると、少しずつ任せやすくなる。

最初から完璧に任せる必要はありません。
危ないところだけ先に伝える。
判断に迷うラインを決めておく。
過去に揉めた点を共有する。
見落としやすい場所に印を付ける。
初回だけ一緒に確認する。

こういう小さな準備があるだけで、任せる側の不安も減ります。

仕事を任せる力と、仕事を翻訳して渡す力はセットです。

ここを飛ばして、いきなり
「任せろ」
「手放せ」
「育てろ」
と言っても、現場ではなかなか動きません。

任せると危ない仕事ほど、渡し方を整えなければいけない。

本当に危ない仕事は、人に任せてはいけない仕事ではありません。
任せられる形にしないまま渡すと危ない仕事です。

ここを間違えると、いつまでも同じ人が仕事を抱えます。

属人化は、仕事が翻訳されていない状態でもある

属人化というと、特定の人だけができる仕事、という意味で使われます。

でも、その中には本当に特殊な能力だけでなく、言葉にされていない注意点が多く含まれています。

このお客様には、最初にこの話をしない方がいい。
この書類は、金額より日付を先に見る。
この図面は、正面図より断面を見た方が早い。
この作業は、先にやっておかないと後で取り付けづらい。
この案件は、前回と同じように見えて少し違う。

こういう情報が、その人の頭の中だけにある。

本人は経験で分かっています。
でも、周りには見えない。

だから任せられない。
任せても失敗する。
失敗するから、また自分で持つ。

これは、単に人を信用していないという話ではありません。

仕事が、相手に渡せる形に翻訳されていない状態です。

属人化を減らすには、手順書を作るだけでは足りないことがあります。
なぜなら、本当に大事なのは手順そのものではなく、迷いやすい場所、判断に困る場所、失敗しやすい場所だからです。

そこを拾わないまま手順だけ書いても、現場では使いづらい。

自分でやった方が早い、の先にあるもの

「自分でやった方が早い」は、短期的には正しいことがあります。

忙しい時。
納期が近い時。
相手がまだ慣れていない時。
失敗すると大きな損失になる時。

そういう場面では、自分でやった方が早い。

ただ、それをずっと続けると、職場は変わりません。

仕事は減らない。
人は育たない。
判断できる人も増えない。
休めない。
任せられない。
そしてまた、自分で抱える。

どこかで、仕事を渡せる形に変えていく必要があります。

それは、大きな仕組みを作ることだけではありません。

過去のクレームを一言添える。
判断に迷う線を共有する。
見落としやすい項目に印を入れる。
初回だけ完成形を一緒に見る。
失敗しやすい場所を先に教える。

そういう小さな翻訳を積み重ねることです。

任せると危ない仕事ほど、渡し方を整えなければいけない。

その整え方がないまま人に任せると、ミスが起きる。
ミスが起きると、任せる側は怖くなる。
怖くなると、仕事を抱え込む。
そして最後には、「あの人しか分からない仕事」がまた増えていく。

抱え込む人を責める前に、その仕事は本当に任せられる形になっているのか。

そこを見るだけで、職場の育ち方は少し変わると思います。


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