製造業向け|現場リーダーは、上司の正論を“作業に変える”役目がある
会議で出てくる言葉は、だいたい正しい。
「品質意識を高めよう」
「スピード感を持とう」
「お客様目線で考えよう」
「主体的に動こう」
反対する理由は、あまりない。
品質は大事だ。
納期も大事だ。
お客様のことも考えた方がいい。
自分で考えて動ける人が増えた方が、職場は楽になる。
ただ、現場に戻ると少し困る。
作業台の前に立った時、さっきの言葉だけでは手が動かないことがある。
「品質意識を高める」と言われた。
では、この小さなキズは止めるのか。
磨けば出せるのか。
作り直しなのか。
誰に確認すればいいのか。
「スピード感を持つ」と言われた。
では、確認を減らして先に進めるのか。
材料確認を早めるのか。
後工程へ早く渡すことなのか。
言葉は分かる。
でも、作業にすると急に迷う。
正しい言葉ほど、そのままでは使いづらい
正論は強い。
間違っていないから、誰も反対しづらい。
言われた側も、分かったような顔をする。
でも、正しい言葉ほど、現場では幅が広すぎることがある。
「丁寧にやってください」と言われても、どこまでが丁寧なのかは人によって違う。
ある人は、少しでも気になれば止める。
別の人は、納期を見て流す。
経験のある人は、自分の感覚で判断する。
新人は不安になって、何度も聞きに来る。
それぞれが勝手に動いているわけではない。
同じ言葉を聞いても、頭の中に浮かぶ作業が違うだけだ。
ここをそろえないまま「品質を上げよう」と言っても、現場は同じ方向に動きにくい。
言葉は一つでも、作業は人の数だけ分かれてしまう。
伝えたことにはなる。でも、動けるとは限らない
上から来た方針を、そのまま伝えることはできる。
メールを転送する。
朝礼で読む。
会議で共有する。
掲示板に貼る。
これで、伝えたことにはなる。
ただ、現場で仕事が変わるかどうかは別だ。
「お客様目線で」と言われて、梱包を丁寧にする人がいる。
見た目を気にする人もいる。
納期を最優先だと受け取る人もいる。
問い合わせが来ないように表示を増やす人もいる。
どれも間違いとは言えない。
だから余計に難しい。
その仕事で、何を優先するのか。
どこまでやれば十分なのか。
どこからは報告が必要なのか。
そこがないと、現場はそれぞれの解釈で動く。
そして後から言われる。
「そういう意味じゃなかった」
これは、言われる側からするとかなりきつい。
聞いていなかったわけではない。
考えていなかったわけでもない。
ただ、考えるための線がなかった。
リーダーが一度、作業の言葉に直す
現場リーダーは、伝言係だけでは足りないと思う。
もちろん、上の方針を勝手に変えてはいけない。
都合よく曲げるのも違う。
でも、そのまま流しただけでは、現場が迷うことがある。
「品質を上げる」と言われたなら、今回の仕事ではどこを見るのか。
「急ぐ」と言われたなら、何を先に終わらせるのか。
「任せる」と言われたなら、どこから先は相談が必要なのか。
そこを一度、作業の言葉に直す。
たとえば、
「今回は出荷前に、この面だけは二人で見る」
「午前中に材料確認を終えて、午後から加工に入れる状態にする」
「迷ったら、止めた理由を添えて報告する」
「付属品は袋を分けて、相手が迷わないようにする」
こうなると、現場は動きやすい。
きれいな言葉ではない。
会議資料に書くと少し地味だ。
でも、作業には近い。
現場で必要なのは、立派な方針よりも、今日の仕事でどう動くかだと思う。
迷いは、作業者の能力不足だけではない
確認が多い人を見ると、判断できないように見えることがある。
作業が止まる。
何度も聞きに来る。
自分で進めてほしい場面でも、手が止まる。
見ている側は、少しイライラする。
でも、本人の能力だけで片づける前に、確認したいことがある。
判断の線は渡していたのか。
どこまで任せるか決めていたのか。
止めるべき状態を伝えていたのか。
急ぐ場所をそろえていたのか。
そこが曖昧なままなら、迷うのは自然だ。
特に新人や経験の浅い人は、正しい言葉ほど困ることがある。
「考えて動いて」
「品質を意識して」
「お客様の立場で」
言いたいことは分かる。
でも、現場で何を見ればよいのかが分からない。
そのまま動けば、あとで違うと言われるかもしれない。
止めれば遅いと言われるかもしれない。
確認すれば、考えていないと言われるかもしれない。
これでは動きづらい。
正論を渡したつもりでも、判断の線を渡していなければ、現場だけが迷う。
上と現場の間で、言葉を一段下げる
上の言葉は、どうしても大きくなる。
会社全体に向けて話すからだ。
方向性を示す言葉になる。
細かい作業までは入りきらない。
それは仕方ない。
だから、現場に近いところで一段下げる必要がある。
方針を否定するのではない。
現場が動ける形にする。
「品質」なら、今回見る場所。
「スピード」なら、急ぐ順番。
「お客様目線」なら、相手が困らない状態。
「主体性」なら、任せる範囲と報告の線。
そこまで落ちると、現場は少し動きやすくなる。
逆に、この一段がない職場では、言葉だけが流れていく。
上は伝えたつもりになる。
リーダーは共有したつもりになる。
現場は分かったふりをする。
そして、結果が出てからズレに気づく。
これでは遅い。
現場は、言葉ではなく作業で動いている。
だからこそ、上司の正論をそのまま流すだけでは足りない。
現場リーダーには、それを今日の作業に変える役目がある。
派手な仕事ではない。
誰かに褒められやすい仕事でもない。
でも、その一段があるかどうかで、現場の迷いはかなり変わる。
正しいことを言っているのに仕事がズレる時、言葉が悪いとは限らない。
作業に変わる前で、止まっているだけかもしれない。
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