製造業向け|どれが最新版か分からない仕事は、作る前から危ない
納品先で、営業から電話がありました。
「この図面のものは作りましたか?」
確認すると、こちらが持っている最終図面には、その内容はありません。
当然、現場では製作していません。
「その内容は図面にありません」
そう伝えると、
「そんなのは言い訳にならない」
と怒られました。
ところが、あとから確認すると、営業が見ていた図面が古かった。
こちらが見ていた最終図面ではなく、更新前の図面を持っていたのです。
図面どおりに作っても怒られる。
図面にないものを作らなくても怒られる。
では、現場は何を信じればいいのでしょうか。
これは図面の話ですが、形を変えればどの職場でも起きることだと思います。
指示している側の情報が古い。
実際に動いている側の方が、今の状態を分かっている。
それなのに、最後は動いた人が責められる。
こういうズレは、仕事の中で意外とあります。
どれが最新版か分からない仕事は、作る前から危ないです。
危ないのは、作業そのものではありません。
作業に入る前の情報が、すでにズレていることです。
古い図面で現場を責められても困る
先ほどの話でいえば、現場は最終図面に従っていました。
図面にないものを作らなかった。
それだけです。
もちろん、現場にも図面を確認する責任はあります。
最終図面を見ずに作っていいわけではありません。
ただ、現場が最終図面に従っているのに、依頼する側が古い図面を見て責めてくる。
これはかなり怖いです。
図面にないものを、現場が想像で作るわけにはいきません。
何を作るのか。
どの図面が最新版なのか。
どこが変更されたのか。
今回の最終仕様は何なのか。
ここが見えないままでは、作業に入る前から不安が残ります。
現場は、作る前にすでに迷っている。
でも、外から見ると「まだ何も作っていない時間」に見えます。
この時間が、けっこう危ないのです。
変更点を探すのは、現場の仕事ではない
前回と同じ仕様で再製作するなら、指示する側が「リピート品」と書けばいいと思います。
変更があるなら、変更箇所を明記する。
新しい図面が来たなら、どこが変わったのかを示す。
未確定なら、未確定と分かるようにしておく。
それだけで現場はかなり助かります。
ところが、何も書かれずに図面だけ渡されることがあります。
「前回と同じかどうか見ておいて」
「新しい図面が来たから確認して」
「変更があるかもしれないから見ておいて」
こうなると、現場は作る前に比較作業から始めることになります。
もちろん、現場も図面は見ます。
確認もします。
でも、何十枚もある図面の中から、指示する側が書かなかった変更箇所を探し続けるのは、本来の製作作業ではありません。
新しい図面が来るたびに、変更箇所を探す。
これはもう、ほとんどウォーリーを探せです。
ただし、こちらは遊びではありません。
見つけられなかったら手直しになる。
後ろの工程が止まる。
場合によっては、工場責任になる。
図面の差分を探して、推理して、判断して、そのうえで製作する。
そこまで現場に背負わせておいて、間違った時だけ「工場責任」と言われるなら、それはかなり厳しい話です。
打ち合わせで話しただけでは、最新版にはならない
打ち合わせで話したから大丈夫。
これも危ないです。
その場では全員うなずいた。
各自メモを取った。
なんとなく決まった雰囲気になった。
それで仕事が進むことがあります。
でも、打ち合わせで話した内容も、誰かのメモの中にあるだけでは最新版とは言えません。
Aさんのメモには「前回同様」と書いてある。
Bさんのメモには「一部変更」と書いてある。
Cさんは、その部分を重要だと思っていない。
同じ打ち合わせに出ていたはずなのに、持ち帰った内容が少しずつ違う。
現場では、こういうことが普通に起きます。
議事録と呼べるほど立派なものでなくてもいいと思います。
ただ、決まったこと。
まだ決まっていないこと。
確認が必要なこと。
このくらいは、メールや共有メモで残しておいた方がいい。
「ここまでは決定」
「ここは未確定」
「この部分は誰が確認する」
「変更が出た場合は、ここで止める」
これだけでも、現場の迷いはかなり減ります。
言った。
聞いていない。
そういう意味ではなかった。
この水掛け論は、仕事としてはかなり幼いです。
仕事は記憶力勝負ではありません。
最終決定事項は、依頼する側がまとめる
打ち合わせ後の内容は、できれば受け取った側ではなく、依頼する側がまとめるべきです。
現場側が、
「この内容で進める認識です」
「ここは未確定と考えています」
「この部分は確認が必要です」
と確認メールを出すことはあります。
それは現場を守るためには大事です。
ただ、それはあくまで受け取った側の解釈です。
本来、最終決定事項をまとめるべきなのは、仕事を依頼する側です。
何が決まったのか。
何がまだ決まっていないのか。
どこまで現場判断でよいのか。
誰が最終判断するのか。
ここを依頼する側がまとめて共有しないと、現場は作業に入る前から推理を始めることになります。
しかも、その推理が外れた時に、なぜか現場が責められることがある。
受け取った側が解釈して、その解釈が違っていたら現場の確認不足になる。
それでは、最初から責任だけ現場へ移しているようなものです。
最新版とは、単に一番新しい図面のことだけではありません。
その時点で、何が決まり、何が変わり、どこが未確定なのか。
それが分かる状態になっていて、初めて現場で使える情報になります。
現場に“仕様の推理”をさせてはいけない
現場にも判断は必要です。
作業の順番をどうするか。
どこで確認を入れるか。
危ないと感じた時に止めるか。
段取りをどう組むか。
こういう判断は、現場の力です。
ただし、要求条件そのものを現場に考えさせてはいけません。
何を作るのか。
どの仕様が正しいのか。
どこまでが決定で、どこからが未確定なのか。
最終判断は誰がするのか。
これは、要求している側が出すべき情報です。
そこを出さずに、
「現場で判断して」
「うまくやって」
「前と同じ感じで」
「できるところまで」
と言うのは、任せているのではありません。
押し付けているだけです。
現場は、決まった条件をもとに作る場所です。
何を作るべきかまで想像しながら進める場所ではありません。
もちろん、現場から気づいたことを返すことはあります。
「ここは決まっていますか」
「この仕様だと後ろの工程で困ります」
「この寸法は前回と違います」
こういう確認は必要です。
でも、最初から現場が推理しないと進められない仕事は、渡し方に問題があります。
確認しづらい相手だと、現場は黙る
最新版や変更点を整理することは大事です。
ただ、それだけでは足りません。
現場が図面を見て、
「ここ、前回と違いますか」
「この図面が最新版で合っていますか」
「この構造だと作りにくいですが、このままでいいですか」
と確認した時に、
「図面通りで」
「ここに書いてある」
「ちゃんと見て」
と返されると、次から聞きづらくなります。
もちろん、現場が見落としていることもあります。
図面に書いてあるのに読めていない場合もある。
ただ、毎回突き放すような対応をされると、現場はだんだん確認しなくなります。
おかしいと思っても、聞かない。
違和感があっても、気づかなかったことにする。
設計構造に無理がありそうでも、指摘すると面倒なのでそのまま進める。
こうなると、誰も得しません。
そして、そういう相手に限って、
「分からなかったら聞けばよかったのに」
と言うことがあります。
でも、聞いた時の対応が悪ければ、次から聞かれなくなります。
現場が黙るのは、気づいていないからとは限りません。
気づいても、言うだけ損だと思っている場合もあります。
どれが最新版か曖昧なまま、責任だけ現場に落ちる
変更箇所が書かれていない。
リピート品なのかも分からない。
打ち合わせで決まった内容も、誰かのメモの中にあるだけ。
そのうえ、どれが最新版なのかまで曖昧になっている。
ひとつひとつは、小さな手間に見えるかもしれません。
でも、その小さな穴は、後ろの工程に落ちます。
営業が整理しなかったことを、設計が迷う。
設計が決めきれなかったことを、製造が拾う。
製造が判断したことを、組立や出荷でまた確認する。
最後にお客様から指摘されて、全員で戻る。
その頃には、最初の小さな情報不足が、かなり大きな問題になっています。
そして最終的に、
「図面を見れば分かったはず」
「現場で確認すべきだった」
「工場責任だ」
となる。
どれが最新版か曖昧だったことは、いつの間にか薄れていく。
最後に残るのは、作った現場の責任だけです。
現場は、比較し、推理し、判断し、そのうえで製作までしています。
それで間違えば、責任だけが現場に残る。
そんな進め方をしていたら、現場は安心して作れません。
仕組みだけでも、人柄だけでも足りない
指示する側も人間です。
勘違いすることもあります。
古い図面を見ていることもあります。
変更点を追えていないこともある。
だから、完璧な指示を出せないこと自体を責めたいわけではありません。
ただ、分からないことが、分からないまま現場に渡される。
その状態で現場に推理させる。
間違った時だけ責任を現場に残す。
これは避けなければいけません。
誰か一人を悪者にしても、同じことはまた起きます。
図面が古かった。
変更点が伝わっていなかった。
聞いた時の返し方がきつくて、次から確認しづらくなった。
こういう小さなズレが重なると、最後は現場で止まります。
だから、最新版を分かるようにしておく。
変更点を残す。
未確定なら未確定と書く。
そして、気づいた人が「ここ違いませんか」と言える空気も必要です。
仕組みだけで仕事は回りません。
でも、人柄だけに頼っても危ない。
結局は、その両方が必要なのだと思います。
どれが最新版か分からない仕事は、作る前から危ないです。
現場は、情報の穴を埋めるためにあるわけではありません。
まして、責任の穴に落ちるためにあるわけでもありません。
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