製造業向け|「考えろ」と言う前に、考えられる仕事の渡し方をしているか
「もっと考えて動いてほしい」
人に仕事を任せる立場になると、こう思う場面があります。
こちらが言うまで次に進まない。
少し見れば分かりそうなことも確認してくる。
周りの状況を見て、先に動いてほしいのに動かない。
現場にいると、こういうもどかしさはあります。
私も、人に仕事を教える立場になってから何度も感じました。
忙しい時に同じようなことを聞かれると、正直なところ、
「そこは自分で考えてくれ」
と思うこともあります。
ただ、ある時から少し引っかかるようになりました。
こちらは本当に、相手が考えられるだけの材料を渡しているのか。
作業のやり方だけを伝えて、仕事を渡した気になっていないか。
手順だけでは、仕事のゴールが伝わらない
現場では、どうしても指示が短くなります。
「そこ、きれいにしておいて」
「終わったら次に進めて」
「このあたりを確認しておいて」
急いでいる時ほど、こうなります。
言っている側の頭の中には、理由があります。
何を見てほしいのか。
どこを気にしてほしいのか。
どの程度なら止めるべきなのか。
でも、それが相手に伝わっているとは限りません。
こちらは「後工程で困らないように見てほしい」と思っている。
相手は「汚れがなければいい」と思っている。
こちらは「品質に関わるから止めて確認してほしい」と考えている。
相手は「早く終わらせた方がいい」と受け取っている。
同じ作業をしていても、見ているゴールが違うことがあります。
その状態であとから、
「そこじゃない」
「なんで気づかなかった」
「普通分かるだろう」
と言ってしまう。
でも、その「普通」は、教える側の頭の中にしかなかったのかもしれません。
最初は言われた通りにやることも必要
新人や経験の浅い人には、まず手順を教える必要があります。
いきなり自由に考えて動かれても困ります。
安全もある。
品質もある。
納期もある。
だから最初は、決められた通りにやる。
先輩の指示を守る。
手順から外れない。
これは大事です。
ただ、手順だけを覚えた人は、手順の外にある意味までは見えにくい。
その順番には理由がある。
その確認には目的がある。
その作業には、後ろの工程を守る役割がある。
ここが分からないと、少し条件が変わっただけで動けなくなります。
現場では、毎回きれいに同じ条件で仕事が来るわけではありません。
材料が少し違う。
形が少し違う。
納期が近い。
後工程が詰まっている。
いつもより急いでいるけれど、品質は落とせない。
こういう場面で必要になるのは、手順を覚えていることだけではありません。
何を優先する仕事なのかを理解していることです。
意味が分かると、見る場所が変わる
以前、作業を任せていた人が、こちらが思っていたよりも細かいところに気づくようになったことがありました。
最初から特別に作業が早かったわけではありません。
むしろ、少し慎重に見えるくらいでした。
でも、作業の目的を伝えると、見方が変わりました。
「ここは後で見えなくなるところですよね」
「先に確認しておいた方がいいですか」
「このまま進めると、次の人がやりにくくないですか」
こういう言葉が出てくるようになる。
その時に思いました。
人は、意味が分かると見る場所が変わるのだと。
ただ手を動かしている時は、目の前の作業しか見えません。
でも、その作業が何を守っているのかが分かると、少し先を見るようになります。
これは、作業が早い遅いだけの話ではありません。
自分の仕事が、次の工程にどうつながるのか。
自分の確認が、どこで効いてくるのか。
自分が止めなかったことで、誰が困るのか。
そこが見え始めると、仕事の質が変わります。
「考えろ」は、材料を渡してから言う言葉
意味を伝えないまま手順だけを渡し続けると、言われたことはできるけれど、少し外れた時に考えにくい人になります。
それなのに、教える側はある日こう言います。
「もっと考えて動いてほしい」
ここにズレがあります。
考えてほしいなら、考える材料を渡す必要があります。
判断してほしいなら、判断の基準を渡す必要があります。
周りを見てほしいなら、その作業が周りとどうつながっているのかを伝える必要があります。
何も渡さずに「考えろ」と言うのは、仕事を任せているようで、実は相手の勘に頼っているだけかもしれません。
もちろん、毎回すべてを説明するのは難しいです。
現場は忙しい。
人も足りない。
納期もある。
一つひとつの作業に、毎回長い説明をしていたら仕事は進みません。
それでも、重要な作業だけは意味を添える。
最初の一回だけでも、目的を伝える。
迷いやすいところだけでも、判断の基準を教える。
それだけで、受け取る側の見方は変わります。
「今回は早さより、ここを外さないことを優先してほしい」
この一言があるだけで、作業者は迷いにくくなります。
「これは後で見えなくなるから、今の段階で気づいてほしい」
そう言われれば、見る目が変わります。
仕事を渡すとは、意味も渡すこと
人に考えて動いてほしいなら、まず考えられるだけの意味を渡す。
これは、相手を甘やかすことではありません。
むしろ、責任を持って仕事をしてもらうために必要なことです。
意味を知らない仕事は、ただの作業になりやすい。
意味を知った仕事は、判断の入口になります。
手順書は必要です。
作業指示書も必要です。
最初は言われた通りにやることも大事です。
でも、手順を守らせることと、人を育てることは同じではありません。
手順で仕事は安定します。
意味を知ることで、人は考え始めます。
「もっと考えて動いてほしい」
そう思った時ほど、相手を見る前に、自分の仕事の渡し方を見直した方がいいのかもしれません。
言われたことだけをやる人が悪いのか。
それとも、言われたことの先を見られるだけの意味を、こちらが渡していなかったのか。
人が育つかどうかは、教わる側の能力だけで決まるものではありません。
教える側が、仕事の意味をどこまで渡せるか。
そこにも、大きく左右されるのだと思います。
関連して読んでいただきたい記事
今回の記事と近いテーマとして、過去に書いた記事もあわせて読んでいただけると、より伝わりやすいと思います。
製造業向け|なぜ新人は育たないのか|教えない現場ではなく“教えられない現場”の正体
https://note.com/millennium_bird/n/n1e1333e0984d
“知識があるのに判断できない人”が増えている理由 ― 現場で差がつく瞬間 ―
https://note.com/millennium_bird/n/nb62030ba7c45
新人が最初に理解すべきこと― 第一印象は“入口”であり、仕事は“人”で決まる ―
https://note.com/millennium_bird/n/ndef89cbe0bc6
今回の記事では、仕事の「やり方」だけでなく「意味」を渡すことについて書きました。
上の記事では、新人教育、判断できる人の育て方、現場で信頼される入口について触れています。
関連して読んでいただきたい本
現場で人を育てること、考えて動ける人を増やすことは、精神論だけでは続きません。
教える側が疲弊しないためにも、仕事の渡し方や判断基準を整理しておく必要があります。
そのあたりをもう少し体系的にまとめたものとして、Kindleで
『現場リーダーが疲弊しないための工場マネジメント入門』
を書いています。
現場リーダー、教育係、管理する立場で悩んでいる方に向けた内容です。
自己紹介
現場で感じたこと、工場で起きる違和感、数字や記録で仕事を守る考え方を少しずつ書いています。
