今日こそはと思った日の話
今日こそは散歩かマラニックに行こう、と朝のうちは思っていた。
気がつくと、午後になっていた。
マラニックはやめた。散歩にした。それも、グラバースカイロードを使った。あの斜めに動くエレベーターと、垂直のエレベーターを乗り継げば、坂をほとんど登らずに上まで行ける。長崎の坂の街が本気で作った、登る人の味方である。
ズルをした、と自分では思っている。でも乗った。

エレベーターを降りたら、結局そこから階段だった。手すりがずっと先まで続いていて、緑のトンネルの奥に、まだ上がある。雨上がりで段が湿っていた。苔も乗っていた。ズルをしたつもりが、ちゃんと足で登ることになる。世の中はそういうふうにできているらしい。
鍋冠山の展望台に着いた。喉が渇いていた。お茶を持ってきていないことに、そこで気づいた。

港はもやっと霞んでいた。曇り空のせいで、海が銀色に沈んで見える。対岸の稲佐山も、山並みがやわらかくぼやけている。晴れていたら、たぶん全部くっきりして絵葉書みたいになっていた。今日はこれでいい、と思った。
喉は渇いたままだった。
そういえば、家を出る前にホットケーキを食べていた。なのに、ベンチに座ってオートミールパンを取り出していた。一応、ヘルシーなものを選んでいるつもりらしい。ホットケーキを食べた後でそれを言うのも変な話だが。
パンはお茶がないと、少しパサついた。
下りは別のルートにした。同じ階段を下りるのは膝にくる。大浦の方へ抜ければ、途中に自販機があるし、家の裏に出られる。ふもとまで行けばセブンもある。セブンのコーヒーを飲もう、と歩きながら決めていた。

セブンまでは、思っていたより遠かった。三十分くらいあった。
途中の自販機で、ジョージアの微糖を買った。セブンのコーヒーを飲むと決めていたのに、その手前で渇きに負けた。缶をいったん地面に置いて、写真を一枚撮ってから、一気に飲んだ。微糖を選ぶあたり、やはり一応ひかえめのつもりらしい。
それでも、セブンまでは歩いた。

着いて、アイスコーヒーを買った。さっき缶コーヒーを一本飲んだばかりなのに、もう一杯飲んでいる。
朝から喉が渇いた、お茶がない、と言い続けてきたわりに、最後まで飲んだのはお茶ではなくコーヒーが二杯だった。
家に帰り着いて、玄関でひと息ついた。それから、また買い物に出た。三十分かけて帰ってきたばかりだというのに。卵とキャベツが要る。それだけのつもりだった。

最近、味噌ラーメンが食べたくなる。毎日でもいいくらいに。
卵とキャベツを買うのも、たぶん半分は無意識にそこへ向かっている。買い物カゴには、晩酌用の刺身と、ワインも入っていた。卵とキャベツを買いに出たはずだった。

帰って、先にシャワーを浴びた。汗を流してから、味噌ラーメンを作った。サッポロ一番。キャベツをざく切りで入れて、卵を落として、七味を振る。台所で湯気が立つ。お店の味噌ラーメンではない。これでいい。これがいい。
食べた。
今日は、よく歩いた。鍋冠山に登って、三十分歩いて、買い物にも二回行った。グラバースカイロードでズルをしたぶんは、たぶん取り返したのだろう。
刺身とワインは、まだ手をつけていない。
晩酌はこれからだ。

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