#2|生まれる、ということ|彼女が母になるまで、僕は何を知らなかったか
Episode1|第2話「出産は、突然始まる。」
「ちょっとお腹痛いから病院行ってくる」
そのLINEを見たとき、僕は何も気づかなかった。
あれが“出産の始まり”だったなんて、
このときの僕は、想像すらしていなかった。
妻は2ヶ月の入院を終え、自宅で安静に過ごしていた。
あとは、赤ちゃんが生まれてくる日を待つだけだった。
ある日の午後、仕事中に妻からLINEが届いた。
「ちょっとお腹痛いから病院行ってくる」
僕はそれを軽く受け取った。
入院もしていたし、
少しの変化でも心配になるだろう。
そんな程度にしか思っていなかった。
このとき僕の中に、
「陣痛」という言葉はなかった。
ただ、
何もなければいいなと思いながら、
仕事を続けていた。
そして2時間後。
「生まれるかも!」
思わず声が出た。
「え?なんでそんな急に?」
僕は慌てて仕事を切り上げ、
電車とタクシーを乗り継いで病院へ向かった。
そのとき初めて、
現実として迫ってきた。
——出産って、こうやって突然始まるんだ。
でも正直に言えば、
一瞬だけ、こう思ってしまった。
——もっとちゃんと伝えてほしかった、と。
でもそれは、
状況を理解できていなかった僕の側の問題だった。
「ちょっと痛い」が陣痛だということすら、
このときの僕は分かっていなかった。
知識としては知っていたはずなのに、
自分のこととしては、何も理解できていなかった。
「立ち会いたい」
その一心で、
最後のタクシーに乗った。
このとき、僕はまだ、
“出産が始まっている”ということを、
ちゃんと理解できていなかった。
── 第2話 おわり
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