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あなたの人生は、いつか大切な人の希望となる②すれ違う思い

麻由美と一人娘の美咲との物語
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あなたの人生は、いつか大切な人の希望となる自分の居場所はどこに|ミカモ(Mica Moriya


麻由美は、美咲と過ごしてきたこれまでの日々を思い返していた。
いくつもの記憶の断片が、浮かんでは消えていく。

はじめての授業参観。
子どもたちが、我先にと手を挙げるなか
身を縮めて背なかを固くして
美咲だけが手を挙げなかった。

ただ、おとなしいだけ。
テストの答案用紙には、ちゃんと正しい答えを書いているのだから。

「美咲は、優秀な子」
麻由美はそう思っていた。

本当は――
そう思いたかったのかもしれない。

クラブ活動も積極的に参加して
休まず学校に通っている。

「だから、大丈夫」

そう、自分に言い聞かせるたびに
――本当にそれでいいの?
と、胸の奥で問いかけてくる声に気づいていた。

少し、子育てで難しい面はある。
けれど――
深く理由を探すことを
避けていたのかもしれない。

美咲は、何を思っていたのだろう。
何を感じていたのだろう。
毎日どんな顔をして
学校に通っていたのだろう。

今、思い出そうとしても
上手く思い出せない。

ほんとうに美咲のことを思っていたなら
もっと寄り添っていたなら

「分かっている……つもりだった」

でも、あの時は、それが精一杯だった。
どこに頼ればいいのかさえ、分からなかった。
あの頃の自分をなぐさめてあげたい。

美咲に、発達に特性があると分かったのは
それから何年も経ってからだった。

診察結果を聞いたあの日
何も言葉が出なかった。

「ああ、この子は、ずっと」
「だから、あの時――」

すべての答え合わせが、始まるようだった。

辛い思いをしていたのは、美咲だった。

「ちゃんと育てなきゃ」
「私がしっかりしなければ」
そう思ってやってきた。

美咲には、私しかいないのだから。
周りから何か言われないように。
きちんとしなければ。

そうやって、いつの間にか
世間という顔の見えない誰かの
“正しさ”に、合わせようとしていた。

他の母親たちの何気ない会話に敏感になって
何を言われたわけでもないのに
誰かと比べられている気がして
胸が苦しくなっていた。

その談笑する明るい声そのものが
自分には手にすることの出来ない
遠い憧れのようにさえ思えていた。

比べていたのは自分だった。

全てを美咲のためにと、過ごしてきたはずだった。
けれどもそれは、自分が納得するための
道のりだったのかもしれない。

「ほんとうに、一生懸命がんばっていたのに」
でも、それは誰のための子育てだったのだろう。

麻由美は、手を止めて
雨に滲む窓の景色に目を向けた。



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