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あなたの人生は、いつか大切な人の希望となる➀自分の居場所はどこに

麻由美と一人娘の美咲との物語
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あなたの人生は、いつか大切な人の希望となる(プロローグ)|ミカモ(Mica Moriya


入学式の朝。
降り続く雨が、街を静けさの中に閉じ込めていた。

「ずっと晴れ女だったのにな……」

麻由美は朝食を作る手を止め、窓の外を眺めた。

遠い昔の記憶がよみがえる。
美咲が幼稚園に通っていた頃、春の運動会、秋の遠足、冬のマラソン大会。

いくつも行事があったけれど、てるてる坊主の出番は、一度もなかった。
その後も、小学校、中学校に進学しても変わらなかった。天気は、いつも味方してくれていた。

けれど、行事を首尾よくこなすことは、母娘にとって簡単なことではなかった。

それでも、その頃の麻由美は、自分の子育てはうまくいっていると思っていた。
少なくとも、そう信じたかった。

美咲は幼いころから、何にでも興味を示す子どもだった。教えなくても、一人で絵本を読み、麻由美を喜ばせた。

「どうして?」と、とことん知りたがり、やがて絵本だけでは物足りなくなっていった。

「美咲は優秀な子」そう思わせてくれることが、育児に明け暮れ、疲れのたまっている麻由美の自尊心を満たしてくれた。

公園でおままごと遊びをしているときでさえ、心の中でほかの子どもたちと比べては、優越感に浸っていた。もちろん、まわりの子どもたちや親たちは、ただ目の前の遊びに夢中になっていただけだというのに。

ところが、そのささやかな自信は、あっけなく崩れていった。

幼稚園の入園式。

真新しい制服を着た美咲は、周囲の子どもたちと同じ行動がとれなかった。麻由美のスカートの裾を、指が白くなるほど握りしめ、園児の席に座るのを拒んだ。

先生のやさしい声さえも、美咲には恐怖を伴う音に聞こえているようだった。

そのうち慣れる。
一人っ子だから、今は仕方ない。

そう言い聞かせることで、麻由美は自分の不安に蓋をした。
そんな折、周囲の保護者たちから、少しずつ距離を感じるようになっていた。

同じクラスの親に挨拶をしても、目を逸らされ、返事が返ってこないことがある。
勇気を出して園の役員に立候補しようとしても、やんわりと断られてしまった。

何がいけないのか、思い当たることはなかった。
次第に、園への送り迎えの時間が憂鬱なものになっていった。

後になって思えば、この土地は、地元で生まれ育った人が多かった。
途中から引っ越してきた麻由美と美咲は、もしかしたら「よそ者」と思われていたのかもしれない。

それに、美咲は集団生活が苦手だった。
帰宅した子どもたちが
「美咲ちゃんって、ちょっと変わってるの」
そんな話をしていたのかもしれない。

確かめようのない想像だけれど、 麻由美の胸には、言葉にできない居心地の悪さだけが残った。

家に帰れば、いつも静かな時間が流れていた。
美咲は、おとなしく絵本を読んでいる。

園から解放されて、まるで自分自身を取り戻そうとしているかのようなその姿に、麻由美は胸を締め付けられる思いがした。
それでも、「美咲なら、大丈夫」と、信じようとした。

美咲の良いところを、伸ばしてあげなければ。
もう読み書きができるのだから、きっと素晴らしい才能があるに違いない。
麻由美は自分にできることは何でもやる。
母親の役目をはたさなければ……。
その思いから、幼児教育の教材を次々と美咲に買い与えるようになった。

麻由美は、孤独から目を背けるように、ことさら美咲の才能に意味付けをして、自分の居場所をつくろうとしていた。

美咲の集団生活の始まり。
それは、麻由美にとっても、もう戻れない始まりだった。



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