#9-3 命の鎖|追憶のオリジン~氷の女王の眠る街

9-3 命の鎖
冷たく白い床にボタボタと血が滴り落ちる。
「キャーーーッ!タト!!」
ルリの悲鳴がドームに突き刺さった。
氷の刃に貫かれたタトの体は、ガクリと膝をついた。
「ルリ!タトの手当てを!」
レイがルリを振り返る。
「歌えない……こんな状況で、歌なんて歌えないわ!!」
ルリは取り乱し、頭を抱えた。
「ひどすぎる……タト! だから言ったのに、言葉が通じない相手もいるんだって! 」
ルリの瞳は、怒りで深い碧色になった。
その瞬間、その怒りに呼応するように氷の刃がルリへ方向を定め、迫った。
ルリは腰の短剣を抜き、力任せに氷を砕いた。
「イオ!こいつらをやっつけて!
ミミ、全部、全部溶かしてしまいなさい!!」
その言葉にかぶせるようにレイが叫んだ。
「ミミ! 炎で傷口を焼いて!」
「で、でも…中は?
ミミ、たくさん動物やっつけてるから知ってる。外だけふさいでも、だめだよ…レイ」
タトの顔は歪み、息は荒い。
「くそっ……!
僕のありったけを、言葉に乗せる!」
レイはタトの耳元に口をつけ唱え始めた。
「血の流れを、止めよ。痛みよ、去れ。」
タト自身に聞かせる言葉でくさびを打つ。
続けて呪文を唱えた。古の言霊は風をまとい、タトの体の周りを巡る。
「そうだ、血を止めなくちゃ!」
ミミは自分のマントを脱ぐと、傷口に押し当てた。
「うっ……ゴホッ……」
タトの口から血が溢れる。
レイは血の気を失っていくその頭をギュッと抱きしめ、叫んだ。
「タト! 意識を飛ばすな! 自分でも癒すんだ、力を分けるから!!」
ミミも震える両手をタトの体に添え、自分の体温を分けた。
ガキン! バリン!
ルリは必死に身をかわし、叫びながら氷を砕いていた。
「よくもタトを……あんたたちが悪いのよ!私たちの町を!壊して、凍らせて!!」
気がつくとイオと二人、レイたちから離れた場所に追いやられていた。
いくら砕いても再生して襲ってくる。
「イオ、早く!イオ……?」
イオに目をやると、床の一点を見つめ動きが重い。彼の仮面の奥が不気味に明滅していた。
突然、駆動音が鳴り響く。
「……イオ……フィリア……。……トモニ……アユム……」
先ほど賢者の石が指し示した地下に、イオの瞳の照準が合った。
と、駆動音が止まった。ピッ、という電子音。
「……個体識別、完了。帰還を妨げる全プロセスを停止します」
そのあまりに無機質な動作に、ルリは息を呑んだ。
その向こうで、レイが叫ぶ。
「お願いだタト、君が言霊を聞いてくれないと!」
タトの意識が遠のいていく。
それを見たミミが、タトの両頬に手を当て歌い始めた。
「ひとつ、深き風よ
ふたつ、揺れる影よ
みっつ、灯をたずさえ……
魂のうたかたよ、
いまここにとどまり
凍える心に、ひとしずくの光を…… 」
それは、タトのあの、優しい歌。
ミミはじっとタトの目を見つめ、繰り返し、繰り返し、タトに言い聞かせるように歌った。
自身では発動しない癒しの詩を。あの時の自分に、タトが、ルリが歌ってくれた詩を。
初めて聞く子どもに歌い方を教えるように届くように、祈るように、唱え続けた。
タトの唇が、かすかに動いた。
「タト!よし!歌うんだ!」
レイから流し込まれた魔力と、ミミの歌に導かれて、
タトの「生きたい」という気持ちが、口から呪文を吐き出した。
「……イリース・ダムファム……」
タトがささやいた途端、全身から淡い緑の光が溢れ出した。
「木のエレメンタル」の保護と再生の枝が光と共に芽吹き、三人を包んだ。
それと同時に、たった今、再起動したイオが静かに片手を上げた。
「アーカ・ルミナ」
ただ一言。
彼が低く唱えた呪文により、ルリとイオに迫っていた氷の攻撃が、ガラス細工のように一気にはじけた。
パリンッ!!
「イオ……!!」
(つづく)

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