#9-2 終着の六角堂|追憶のオリジン~氷の女王の眠る街

第2話 終着の六角堂
頭上のはるか上まである巨大な扉が、ゆっくりと開いていく。
ゴゴゴゴゴーーーー
扉の向こうは薄暗い前室。その先にアーチ状の入り口が薄く光っている。
そっと歩みを進めアーチの前まで来ると――、視界が一気にひらけた。
そこは、巨大な六角形の広間だった。
ドーム状の天井の真ん中には丸い天窓がある。
青白い光が広間を満たし、まるで海の底のように静謐だ。
天窓の真下に、一つの台座があった。
――だが、そこには何ものっていない。
「……いないの?」
ミミの呟きがドームに反響する。
視線をさらに奥へやると、二本の柱の間に、もう一つの台座が見えた。
そちらの上には、透明な箱のようなものが置かれている。
息をするのもはばかられるような静けさの中、五人はその聖域へと足を踏み入れた。
六角堂の造りは、故郷の教会塔とよく似ていた。祈りの間と光の間が合わさったような、荘厳で巨大な広間だ。
奥の台座へそっと近づく。
二本の柱の間に置かれた透明なケース。それをのぞき込んだタトが、思わず「はっ」と息を漏らした。
そこに、幻のような影があったのだ。
しかし、箱の中に横たわっていたのは、あまりにも小さな存在だった。
豪華なドレスをまとっているが、体はまるで子供のよう。深い眠りについているように見える。
「これが、私たちが探し求めた女王なの……? あまりに、小さすぎるわ……」
ルリが小さく肩を震わせる。
だが、ケース越しに見つめるその姿は、陽炎のようにゆらゆらと揺れていた。
焦点を結ぼうとするほど、輪郭が曖昧に溶けていく。
「これ、は……?」
タトの呟きに、イオが単調に答えた。
「ホログラムですね」
レイが眉を寄せる。
「反射か?」
「はい。別の場所から投影された、虚像です」
「……実体はどこにいるんだ」
レイが辺りを見回したその時、部屋の隅に鎮座していた「石」が、不自然な音を立てて動いた。
「女王には、触れられぬ……」
柱の脇に守護者のように置かれた、山のかたちをした石…よく見るとそこには、古びた老人のような顔が彫られていた。
岩の割れ目のような口が、ゆっくりと動く。
「女王は眠りについておるのだよ。永遠という名の深い眠りにね……」
「な、何者だ?!」
五人が瞬時に身構える。石は重々しく響く声で続けた。
「私はここに永く座しておる、ただの石だ。
はるか昔には『賢者の石』などと大層な名で呼ばれたこともあったが、今となってはただの記憶の番人よ」
「…女王は、どこにいるのですか?」
タトの問いに、賢者の石は台座の足元を視線で示した。
透き通った氷の床の、そのずっと深い場所に、ぼんやりとした人影が小さく沈んでいるのが見えた。
「こ、こんな…深い氷の中に……閉じ込めて、いるのか? あなたたちが、女王を、あんな冷たい中に……!」
ささやくようなタト叫びに、賢者の石は静かに答える。
「……いいや、守っているのだ。
こここそが、もっとも安全な揺りかごなのだろう」
「女王はそれ望んでいるの?」
タとは眉を険しく寄せた。
イオが、焦点を合わせようとするように、氷の下をじっと見つめている。
「彼女は傷つき弱っている。真実を見ないように夢の中にいるのだ」
「…それは幸せなことなのですか?」
尋ねたレイに、賢者は感情なく答える。
「必要なことだった……だが、守護者を退け、そなたたちが来た」
「僕たちは、女王に目覚めてほしいのです」
「……すべては運命じゃ。
だが、ドーマたちは手強いぞ。秘密を暴き、女王を苦しめる者を許すかのぅ?」
タトが台座に手をかけたその瞬間、
キィーーン、と耳を刺す音がドーム全体に鳴り響いた。
まるで警報音のように。
ミミが入り口を振り返った。
「なにか来る…!」
床の氷をつたって、水のような何かが台座へザーッと集まった。
「私は動けぬが、彼らは違う。自由な水と地だ」
賢者の石の言葉が終わらぬうちに、台座を守るように集まった何かが、床から氷の刃を突きだした。
ザシュッ!!
冷たい刃が、台座に触れたタトの腹部を貫いた。
反応する暇もなかった。
「うっ……!!」
「タト!!」
崩れ落ちるタトを、レイが抱きとめる。賢者の石は、その様子を冷徹に見つめていた。
「そなたは力を抑えているな。せっかく『木のエレメンタル』として、再生の力を持っているというのに。
自分の力が信じられず、頑丈な鍵をかけて閉じ込めている。だから、その傷一つ癒せぬのだ……」
凍てつく広間に、タトの汗がぽたりと落ちた。
(つづく)

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