#9-1 氷山の底|追憶のオリジン~氷の女王の眠る街

第九章 オリジアの光
第1話 氷山の底
タトたちは、世界の中心にそびえる、巨大な氷山の中にいた。長い歴史で災害を起こしてきた中心でもある。
この氷山の底に、女王のパレスがあるのだ。
一ヶ月、あるいは数週間だったかもしれない。足先の感覚はとうにぼやけ、滑り止めの刃がザリッと氷をかむ感触だけが伝わる。
この静かな道が永遠に続くのではないか――いっそ、続いてほしい。ミミはタトの後ろで、ふとそんなことを考えていた。
しかし、長い長い下山の末に、ある時、その階段は終わった。
コツリ。
最後の段差を踏み終えた。
そこは、洞窟のようなひらけた氷の空間だった。五人は降りてきた上空を見上げ、たたずむ。
「物音一つ、しないね」
空間にミミのささやき声が響いた。
中央に氷の破片が散乱している。
タトはひざまずいて、そのカケラを一つ拾ってみた。
「新しい欠片だ…ウォールとドーマはここまで落ちたのだろうか……」
光に透かしてみる。だがそれは、ただの氷だった。
こここそが、氷山の底。
まるで他人の家にこっそり入り込んでしまったような緊張感に、五人の白息が小さく消える。
冷たく巨大な氷壁、天井から無数に突き出す氷柱以外、何もない。
「僕たちは、とうとうここまで来た。この先に何があろうとも、進むよ」
そっと告げるレイの言葉に、みんなが頷いて並んだ。
少し歩くと、氷柱の奥に通路が続いていた。
柱のような巨大な氷柱を、タトが指先を触れて歩く。その奥に、彫刻が見えた。……いや、それは氷ではない。
「これは……建物の円柱だ!なんて緻密なレリーフなんだ…」
両脇にそそり立つ、岩のような氷の中に、すごい数の柱がずっと先へと続いている。
足元には、整然と敷かれた石が白く光っていた。
「ここは洞窟じゃない。僕らはもう、パレスに入っているんだ……!」
まったく生き物の気配のない静寂に、ルリが掠れた声をこぼした。
「……まるで、時間が死んでいるみたいね」
吸い込む息は重く痛い。
レイは黙々と先頭で足を運び、ルリは緊張で顔がこわばっていた。ミミはタトにピタリと寄り添い、そしてイオは、音も立てずにゆっくりと四人の後をついてくる。
やがて、その場所は現れた。
六本の柱にささえられた巨大なペディメント。奥には、重厚な扉が見える。
「……大きい!」
五人はその巨大な柱をくぐり、扉の前に立つ。
「うわぁ…」とミミがのけぞるように見あげた。
これまでの二つの門と、比べ物にならないほど高い。扉の周りには、天井まで豪華な金細工が彫られている。
扉は分厚い氷で閉ざされ、永い沈黙を保っていた。
「ミミ、溶かしてくれるかい?」
「うん」
ミミが氷の表面に手を当てると、手のひらからボゥッと炎が噴き出した。氷がパキパキと音を上げる。
ミミはさらに力を込めた。全身から炎を上げ、マントがバタバタと騒ぐ。
一面をおおっていた氷が音を吹き上げ、みるみる蒸発していく。
シューーーーーッ
白煙が晴れると、そこには鈍く光る扉があらわになった。
「ふうっ。溶けたよ」
「ミミ、力のコントロールが本当にうまくなったね」
タトの言葉に、ミミは誇らしげににっこりと笑った。
タトはレイと共に、濡れた扉に手をかける。
静かで冷たいこの場所に似合わないほど、心臓が熱く脈打っている。
この中に、女王がいるのかもしれないのだ。
二人は足を踏みしめて、力いっぱい扉を押した。
ギ、ギギ……ゴゴゴゴゴーーー
凍てついた沈黙を切り裂いて、巨大な扉が動く。
扉のすき間からサーっと、外よりもさらに冷たい冷気が駆け抜けた。ルリが思わず身震いした。
今、女王の住む宮殿の扉が開かれようとしていた。
(つづく)

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