#9-5 目覚めと咆哮|追憶のオリジン~氷の女王の眠る街

第5話 目覚めと咆哮
女王は、その小さな両手をゆっくりと広げた。
指先に、光の粒が集まってくる。
それはまるで、この世界そのものが応えているかのようだった。
やがて――閉じたまぶたを開いたとき、
その声は、先ほどの、か細い声とは全く違っていた。
『われは女王……』
それは、天から注ぐような、地底から響くような声だった。
そのたった一声で、そこにいた誰もが一歩も動けなくなった。
理解ではない、本能。
この世界のすべてを、女王が握っている。
その圧倒的な支配と理が、一瞬で全神経を貫いた。
彼らは、この世界の『神』を目の前にしているのだ。
『ここは、どこぞ……』
しかし、その腹の底から唸るような声は、幼い子供の声だった…
まるで、ミミのような…
『塔は……どこじゃ……』
女王は宙に浮かんだまま、ゆっくりと見回した。
『見えぬぞ。わらわの塔はどこへいった…?』
世界の端々まで見渡すように、ぐるりと体を回す。
『壊れたのか……?すべて、壊れたのか……』
次の瞬間、
女王の体から、炎が噴き上がった。
ゴォーーーーーッ!
空間が歪むほどの熱。周辺の氷がいっせいに溶け出した。
パレスの天井が軋む。
壁がバラバラと崩れ始め、溶けた氷が水となってあふれ出した。
「ああぁ、女王がお怒りじゃ…」
賢者の声が頼りなく響く。
だが、誰も動けない。
タトはただ、女王をみあげていた。
出会えた安堵と疲労が混ざり合い、この気持ちが希望なのか、絶望なのか分からない。
ただ、目を逸らせなかった。
『壊れた…壊れた』
突然ルリが、糸が切れたように倒れた。
「ルリ!」タトがよろめきながら受け止める。
「壊れた…壊れた」
それを言ったのは、ミミだった。
ギョッとしてミミを見ると、女王と同じように、燃えている。
その金色の瞳は、どこか遠いところを見ていた。
ミミの体は、吸い寄せられるように中央の台座へと向かう。
(ミミ……だめだ、行くな)
タトとレイは恐怖と混乱で声を出すことすらできない。体は勝手にガタガタと震えている。
炎に包まれたミミを見つめ、二人はただ、ルリを抱きしめていた。
女王は、スーッと台座まで降りてくると、ミミと向かい合わせになった。
その姿は、まるで双子のようにそっくりだった!
ミミは、鏡のように向かい合った女王へ一歩進むと、その姿に重なった。
――取り込まれたのだ。
ミミの炎を得て、女王の炎はさらに膨れ上がった。
ボンッ!!
ゴオォォォォォーーーッ!!
その炎は空間を焼きながら広がってゆく。
今となっては、美しいパレスの天井は形もなく、はるか上空に自分たちが降りてきた螺旋階段が見える。
それらも氷柱と共にバラバラと崩れ落ちてくる。
溶けた水がゴウゴウと音を立てて周辺を流れていた。
(氷山が崩れる――森は、街は……)
思考は、そこで途切れた。
タトはルリと同じく、魂が抜かれたようにバタリと倒れた。
レイの伸ばした手をすり抜けて、二人の体はあふれた水にサーッと運ばれていく。
――女王の元に。
そして、二人は、女王の光と炎の中に――消えた。
「……!」
呆然と立ちつくしたまま、水に沈みそうなレイ。
イオは彼を抱えると、柱のうえに跳んだ。
女王の体は、三人を取り込んだまま、ゆっくりと宙に浮かび上がった。
途端、咆哮が響く。
「うおーーーーーん!!」
女王の口から響いたのは、赤獅子であるミミの咆哮だった。
(つづく)

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