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#8-10 遠き日の詩|追憶のオリジン~氷の女王の眠る街


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第10話 遠き日の詩


選ばれし 言の葉は
風をまといて
名もなき魂
すべては描けない

重なる 言の葉は
尊き我が主に
届かぬままに
風にさらわれし

霧はらう 言の葉は
明と暗のあわいを
照らして分ける
我らの世界

朝の光が
満ちゆくころに
祈りをうたう
祈りをうたう

始まりの言の葉
「おはよう」


レイは不意に気がついた。まるで眠りから覚めたように。

あれは、幼い頃に聞いた詩。


ここは今、氷山の螺旋階段だった。

靄(もや)が濃くなり、足元の次の段差も見えないほどの中、いつの間にか意識が遠のいていたようだ。

片手が氷壁の凹凸に触れる。杖の方位磁石を見た。

後ろにはイオの足音が聞こえる。

このままでいい。あとは進むだけだ。

足をとめる必要は、ない。



視界が白く反転し、氷壁の手触りがサーッと遠のいた。

また、いつかの時間にレイはいた。



どうなっている?

地図は?記録は?法則は?

みんな混乱している。


正しく戻さなければ!

正しく…?


何をもって…?



言霊を使う、か…?



『その薄汚い言霊で黙らせるのか!』

あの時のドーマの憎々しい叫びが差し込まれる。


「うっ…」体がこわばる。


違う、


『喜び、発展するためにあるんだ!』

タトが叫んでいる。

あの言葉は、タトが僕のために発したもの。


喜び……

そうだ、みんな苦しそうなんだ。

僕ができることを、この授かった力で。
皆のために、いや、僕のために。


「僕」が、

彼らに――して「欲しい」んだ!

「だから」使うんだ!!



タト、ミミ、どこだ――?


また、歌が聞こえる。


――選ばれし 言の葉は
すべては描けない

――重なる 言の葉は
届かぬままに


どこだ、答えて…、

応えて!
君の言葉を……!!



上る、上る、階段を登る。

靄が足元に立ち込める一本道を、下がっていても、上がっていても。


一周したら刻印をする。

氷の壁に杖の先をコン!と打ち付ける。言霊魔法が一瞬で数字を刻む。


この一歩とこの杖が、基準点だ。
これは、決してブレない。



遠くに人影が見えた。

誰かが門から入ってきたのだろうか?

この先は、頂上につながってーー?

ここはどこ?いつなんだ?そしてこの僕は……?


それでも。

それでも「僕」は、
境界を作る魔法を、

誰かを守るために唱えるんだ。


もう恐れなくていい。

自分の力を、使えるんだ。





タト、ミミ、ルリの三人は、ひたすら階段を降りていた。


何日くらい過ぎたのだろう。

無心に段差を下りる。靄で辺りが白んでも、晴れても、同じような景色を見る余裕もなく。

足は重く、関節が痛み、靴底がすり減る。
タトは無意識に呪文を唱える。
誰も気づかないうちに、体力が回復し歩く距離が伸びる。

その繰り返し。

誰も止まらない。止まれないのだろうか。


コツ、コツ、コツ…


三人の小さな足音はか細く、闇にすぐに消えていく。


そこにふと、違う音が重なった。


カツ、カツ…


「あら…?」

ルリが声をもらす。
その声に、タトもミミも足を止めた。


「はぁ、はぁ、はぁ」


三人とも息が上がっていた。


カツ、カツ、カツ…


歩みを止めたのに、足音が止まない。

音は靄の中、階段の下から聞こえてくるようだ。
徐々にはっきりと大きくなる。

タトは足を止めたまま階下をにらみ、鉈剣に手をかけた。



(つづく)


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