#8-10 遠き日の詩|追憶のオリジン~氷の女王の眠る街

第10話 遠き日の詩
〜
選ばれし 言の葉は
風をまといて
名もなき魂
すべては描けない
重なる 言の葉は
尊き我が主に
届かぬままに
風にさらわれし
霧はらう 言の葉は
明と暗のあわいを
照らして分ける
我らの世界
朝の光が
満ちゆくころに
祈りをうたう
祈りをうたう
始まりの言の葉
「おはよう」
〜
レイは不意に気がついた。まるで眠りから覚めたように。
あれは、幼い頃に聞いた詩。
ここは今、氷山の螺旋階段だった。
靄(もや)が濃くなり、足元の次の段差も見えないほどの中、いつの間にか意識が遠のいていたようだ。
片手が氷壁の凹凸に触れる。杖の方位磁石を見た。
後ろにはイオの足音が聞こえる。
このままでいい。あとは進むだけだ。
足をとめる必要は、ない。
*
視界が白く反転し、氷壁の手触りがサーッと遠のいた。
また、いつかの時間にレイはいた。
どうなっている?
地図は?記録は?法則は?
みんな混乱している。
正しく戻さなければ!
正しく…?
何をもって…?
言霊を使う、か…?
『その薄汚い言霊で黙らせるのか!』
あの時のドーマの憎々しい叫びが差し込まれる。
「うっ…」体がこわばる。
違う、
『喜び、発展するためにあるんだ!』
タトが叫んでいる。
あの言葉は、タトが僕のために発したもの。
喜び……
そうだ、みんな苦しそうなんだ。
僕ができることを、この授かった力で。
皆のために、いや、僕のために。
「僕」が、
彼らに――して「欲しい」んだ!
「だから」使うんだ!!
タト、ミミ、どこだ――?
また、歌が聞こえる。
――選ばれし 言の葉は
すべては描けない
――重なる 言の葉は
届かぬままに
どこだ、答えて…、
応えて!
君の言葉を……!!
上る、上る、階段を登る。
靄が足元に立ち込める一本道を、下がっていても、上がっていても。
一周したら刻印をする。
氷の壁に杖の先をコン!と打ち付ける。言霊魔法が一瞬で数字を刻む。
この一歩とこの杖が、基準点だ。
これは、決してブレない。
遠くに人影が見えた。
誰かが門から入ってきたのだろうか?
この先は、頂上につながってーー?
ここはどこ?いつなんだ?そしてこの僕は……?
それでも。
それでも「僕」は、
境界を作る魔法を、
誰かを守るために唱えるんだ。
もう恐れなくていい。
自分の力を、使えるんだ。
*
タト、ミミ、ルリの三人は、ひたすら階段を降りていた。
何日くらい過ぎたのだろう。
無心に段差を下りる。靄で辺りが白んでも、晴れても、同じような景色を見る余裕もなく。
足は重く、関節が痛み、靴底がすり減る。
タトは無意識に呪文を唱える。
誰も気づかないうちに、体力が回復し歩く距離が伸びる。
その繰り返し。
誰も止まらない。止まれないのだろうか。
コツ、コツ、コツ…
三人の小さな足音はか細く、闇にすぐに消えていく。
そこにふと、違う音が重なった。
カツ、カツ…
「あら…?」
ルリが声をもらす。
その声に、タトもミミも足を止めた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
三人とも息が上がっていた。
カツ、カツ、カツ…
歩みを止めたのに、足音が止まない。
音は靄の中、階段の下から聞こえてくるようだ。
徐々にはっきりと大きくなる。
タトは足を止めたまま階下をにらみ、鉈剣に手をかけた。
(つづく)
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