#4-7 花の香り|追憶のオリジン〜氷の女王の眠る街
一行は崩れた教会跡へ向かうと、
腰をおろし、差し入れで少し遅い昼食をとった。
ミミは早々に食事を済ませ、物珍しそうについてきた子どもたちと鬼ごっこを始めた。
「さっきのは……癒しの魔法?」
タトは、先ほどから気になってたことを口にした。
ティルに見せたあの不思議な光景と、唱えられた詩が、心に引っかかっていた。
「さあ…。昔、旅人に教わったの」
ルリは懐かしそうに目を細める。
「小さな頃から、私が歌ったり踊ったりすると、みんなが元気になるから、ずっとそうしてきたわ。
それを見た旅人が、『君には特別な力がある』って教えてくれてね」
「十年前の旅人?」
「ええ。 あの頃は、まだ長老が生きていて…私は今いるこの子たちみたいに、旅人について回っていたの」
「その時に、たまたま怪我した子がいて、旅人がその言葉で癒したの。目の前で見てて。彼の真似をしたら、私も少しだけ治せるみたいなの。」
「それは癒やしの魔法だ。しかも、詠唱が残っているものは極めて珍しい」
レイが身を乗り出して言う。
「本当はもっと長かったと思うけど、覚えられなくて。ふふふ」
レイは興味深そうに語った。
「ふつうは手をかざして痛みを和らげる程度で、効果は弱い。詠唱で傷がふさがるなんて、初めて見たよ」
「そうなの? 少しでも役に立てるなら、嬉しいわ」
ルリは自分の力に誇りをもっているようだった。
「この塔は、ずいぶん昔に壊されてね。亡霊が出るから、昼間でも誰も来ないわ」
荒れ果てたここが街の中心だったなんて、誰が思うだろう。
「でも、あなたたちが言う“オリジア”なら、私、見たことがあると思う。たぶん、あの旅人が持っていったわ」
レイの目が見開かれた。
「発掘されていたのか!」
彼の目はせわしなく泳ぎ、指であごをつかんだまま黙りこくった。
「ね、あなた達は、あの氷山へ行くんでしょう? 私も一緒に行きたいわ」
突然の申し出に、タトは戸惑った。
「えっ、でも…、キミがいなくなったらこの街はどうなる?」
「あら、私が一人くらいいなくても、なんてことないわよ」
事もなげにルリは笑った。
果たして、そうなのだろうか。
ティルは瓦礫にじっと身を潜めている。
「さ、これでこの街は全部よ。私、長の家に行かなくちゃ。」
立ち上がるとくるりと二人に向き直り、
「ね、夕方、うちの裏に来てくれる?」
そして言葉を切ると、ルリは二人に顔を寄せて、コソッと耳打ちした。
「もう一つ、秘密を教えてあげる」
ふわりと甘い花のような香りを残して、ルリは去っていった。
タトはそっとレイを見た。
だが、何かを考え込んでいて、特にルリを気にしている様子はない。
ルリの去った後を見つめる。
彼女の声の響きと甘い香りが、いつまでも消えずにいた。
(つづく)
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