#4-6 不思議な詩|追憶のオリジン〜氷の女王の眠る街
《前回の話》
やっとたどり着いたヴァリスの町は荒廃し、町長は葉巻と酒にまみれた男だった。亡霊など不穏な噂も広まる町で、出会った少女は光のように明るく美しい。タトとミミは彼女に魅了されながら町を案内されるのだった。
ルリの案内で集落を巡り、最後の町へ差しかかったとき──
レイが、おもむろに口を開いた。
「……誰かが、ずっとつけてる」
「えっ?」
レイは何か短い言葉をつぶやいた。
すると──
「うわっ!?あ、足が……?勝手に……!」
廃墟の影から、ひとりの少年が転げ出る。
もつれた足が地面に絡まり、額を石に強く打ちつけた。
「ティル!?」
長の家にいた、あの少年だ。
ルリは駆け寄ると、出血した額に布を当てて押さえた。
「じっとして。…頭を打ってるわ」
傷の様子を確認すると、彼女は手をかざし、深く息を吸うと、
歌うように詩を唱えはじめた。
〜
ひとつ、風よ
ふたつ、影よ
みっつ、灯を
魂よ今ここにとどまれ──
イリース・ダム・ファム
〜
その声は、歌とも呪文ともつかない響きで風の中に解けてゆく。
ルリの手のひらにかすかに光がともり、
ティルの額の傷が、すうっと消えていった。
タトたちは息を飲んでその様子を見つめた。
だが、手当てされた少年は、三人を鋭くにらみつけると、何も言わず駆け去っていった。
「なに、あいつ……変なやつ」
ミミがあきれたように言う。
ルリはその背を見つめながらつぶやいた。
「ティルもこの町を心配しているのよ。ちょっと不器用なだけで、悪い子じゃないわ」
タトは胸が、ざわりとした。
(今のは、なんだったんだ?)
レイのつぶやき。
ルリの詩と不思議な力。
そして、あの少年…ティル。
混乱と漠然とした不安が、胸の奥に静かに広がる。
タトはルリの横顔をそっと見たが、彼女は走り去った後を無表情に見つめるだけだった。
*
昼どきになっていた。
ルリは町の広場で歌い、踊った。
その歌声は、風に乗り、瓦礫の町を優しく包むように響く。踊りは、まるで花が咲き乱れるように華やかで、
その空気に自然と楽器や手拍子が加わる。
人々は仕事の手を止め、ルリを囲み笑い声を交わした。
「ルリ、ほら焼き芋ができたぞ!」
「昨日とった木の実よ、食べて行きなさい」
皆が嬉しそうに、次々と差し入れを運んでくる。
ルリは、気取ることなく笑って応えた。
「ありがとう。
ふふ、じゃあ、この実をいただこうかな。こっちは彼らにあげていいかしら?」
*
「あー楽しかった!
ね、最後に教会跡に行きましょうよ」
昼時が過ぎ、皆が仕事へと戻る姿を見送ると、ルリは三人を誘った。
その時タトは瓦礫の陰からこちらをうかがう人影に気づいた。
また、ティルだ。
彼は身を潜めたまま無言で、だたじっとこちらを見つめている。
ルリはその様子に、気づいているのがいないのか、ふっと微笑むと、教会跡へ足を向けるのだった。
(つづく)
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