#4-8 月夜に響く声|追憶のオリジン〜氷の女王の眠る街
前回の話
荒廃した町ヴァリスで、少女ルリは光のような存在だった。彼女は見よう見まねで癒しの魔法を使い、それには失われた詠唱が込められていた。そしてルリは、もう一つの「町の秘密」を語ろうとしていた――。
日が落ちる頃、
ルリが手配してくれた宿泊棟のそばにある、彼女の家の裏手に、三人はいた
マントをまとったルリが、裏口からそっと姿を現す。
「もう少しで日が落ちるわ。夜を迎える準備はできてる?この町では、暗くなったら外出禁止よ」
「ああ。分かってる」
空の色が薄れ、あたりが闇に落ちていく。
「火は使えないわ。光苔をあげる」
差し出された枝の先に、緑色の光が淡く灯っていた。
空にすっかり光がなくなると、ルリは小さな声で言った。
「こっちよ」
いつの間にか、霧が立ち込めていた。
暗がりの中、ルリを見失わないように後を追ってたどり着いたのは、
昼間に来た教会跡だった。
タトたちが崩れかけた階段を上がると、
石の影からゆらりと人の影が姿を現した。
三人は反射的に戦闘態勢をとった。
森で襲ってきた、あの影たちだ!
しかし、ルリは静かに言う。
「大丈夫よ。リラックスして」
そして、ぞろぞろと現れる影を前に、ルリはおもむろに歌い出した。
それは、切ない旋律でありながら、深い安らぎを与える鎮魂歌。
三人は言葉を失い、呆然と立ち尽くした。
〜
痛みは今 ここにありて
未来(とき)を助けん一歩とならん
震える心よ、この地に根ざせ
風に吹かれし魂も
星となりて
光と共に在らんことを
〜
その歌声は、暗い霧の空気に溶け込み、教会跡の廃墟に静かに響き渡る。
黒い亡霊たちが、ルリの周りに集まり、彼女を取り囲んだ。
「ル、ルリ…!」
タトが彼女をかばおうとすると、
「彼らはここを守っているだけ。こうして私の歌を聴きに来てくれるの。何もしないわ」
「ヴァリスの街に入ろうとしたり、危害を加えなければ、ただそこに漂っているだけよ」
ルリはそう言って、静かに歌い続けた。
霧が漂う闇の中に心地よく響く、やわらかな声。
タトはいつの間にか剣の柄から手を離し、ただ、その光景を見守っていた。
風が吹く。おぼろげな月、がれきや霧、夜さえも、
すべてがルリの舞台の演出のようだった――。
靄のかかった月が高くなる頃、四人は崩れた教会を後にした。
ぼんやりと立っていた影たちも、音もなく闇の奥へと去っていった。
「これが、この街の秘密よ」
「……みんなは知っているのかい?」
タトの心には、ただ静かな驚きだけがあった。
「いいえ。
信じないでしょうし、怖がるだけだもの。
それに、亡霊を癒やすことなんて、誰も興味がないわ」
「…じゃあ、なぜこんな事を?」
「彼らが、悲しんでいるように思えたからよ」
霧が流れた。
「…わたし、この街が好きなの。ここの暮らしを守りたいわ。
ね、お願い。
私も氷山へ連れて行って」
月に照らされたルリの顔は、真剣だった。
(つづく)
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