#9-9 女王の光|追憶のオリジン~氷の女王の眠る街
第9話 女王の光
レイは白鷹と共に、落下する女王を追った。
(間に合え――!)
その瞬間。
イオとともに、その身体を抱きとめた。
「女王!」「ミミ!」
女王は、小さな女の子の姿に戻って、眠っていた。
その顔は、氷の中で凍りついていた時のような静止ではなく、頬に赤みが差していた。
静かな呼吸が、小さな胸を上下させている。
「あっ」
レイが思わず声を上げた。
女王の体から、影がこぼれ落ちたのだ。
続いて、もうひとつ。
それは、タトとルリの体だった。
二人もまた、静かな寝息を立てている。
そして最後に――、
ころん、と転がるように、
ミミが現れた。
目の前に、女王を含めた四人の少女たちが、寄り添うように眠っている。
レイは長いため息をつくと、フッと微笑んで、その場に座り込んだ。
イオも静かに腰を下ろす。
一筋の暖かい風が吹いていた。
「……イオ。あの時、女王と心中するのかと焦ったよ」
「私は、女王の意志を形にし、この世界の人々と共に歩むために存在します」
「ははは。なら、僕らと同じだ」
「光栄です」
「……不思議だね。僕らはなぜ、女王に取り込まれなかったんだろう」
「はい。それは、我々が女王と同一ではなかったからでしょう」
「僕はオリジンだけど……違ったんだね」
「ええ。それもまた、必要な存在です」
レイは遠くを見つめた。
空は虹色に揺らいでいる。
溶けた氷は水となって火を消し、大地に染み込んでいく。
風が雲と煙を流し、極夜のような薄く、濃紺の空が見えていた。
ふと、遥か遠くに白く光るものがある。
目を凝らして、レイは叫んだ。
「あれは…空白の塔か!」
レイの指差す方を、イオは眼球を望遠モードにして確認する。
「そのようですね。地面の氷が溶けて、隆起した大地によって立ち上がったのでしょう」
「うむ…。あの塔は無傷じゃったか」
いつの間にか、賢者の石が、女王のそばに戻っていた。
「賢者の石…!無事だったのか!どうやってここへ?」
「わしは、最後まで女王を見守る者じゃからのぅ。女王がいる限り、わしもまた不滅よ。
…お前さんたちもな。女王が生きている限り、命は巡るのだよ」
レイの瞳には、得心の光が力強く輝いていた。
「うん……そうだね。
みんな、この世界の、ひとつなんだ」
石は満足そうに頷いて見えた。
「だが。これからが再び試練の道になるじゃろう。
女王は八百年の間、眠りについていた。心は幼く、未熟じゃ。時間がかかるじゃろう」
イオは女王のそばにぴたりと寄り添い、目覚めを待っている。
女王の体は、淡く七色に光り出していた。
「じゃがの、あの塔さえあれば、いずれは大丈夫じゃろう」
「あの、空白の塔…?」
「うむ。あの塔の真の名は――『未来の塔』じゃ」
「未来の塔……!
そうか、やっと名前が分かったよ」
レイは嬉しそうに空を仰いだ。
「未来の塔、か」
座り込んだその高台に、世界を支配していた巨大な氷山は、もうない。
彼らは、彼女たちの目覚めを待った。
空いっぱいに広がっていたオーロラのカーテンが消え、やがてブルーのグラデーションが変化していく。
夜明けが近づいていた。
変わりゆく色を見つめながら、レイは幼い頃に歌った詩を思い出していた。
〜
選ばれし 言の葉は
風をまといて
名もなき魂
すべてを描く
重なる 言の葉は
尊き我が主に
届かんと紡ぎし
風に託されし
霧はらう 言の葉は
明と暗のあわいを
照らして分ける
我らの世界
朝の光が
満ちゆくころに
祈りをうたう
祈りをうたう
始まりの言の葉
「おはよう」
〜
(エピローグへ)

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