#10-1 祈り歌(終)|追憶のオリジン~氷の女王の眠る街
第十章 エピローグ
最終話 祈り歌
頬をなでる風に、あの刺すような冷たさはなかった。
濡れた土の匂いと、遠くで崩れ落ちる氷山の残響。
レイは、静かに座るイオの肩越しに、空の色が薄いブルーに変わっていくのを見ていた。
ふと、足元で体を動かす音がした。
「……ん」
レイが弾かれたように視線を落とすと、寄り添って眠っていた四人の中で、一番端にいたタトが、ゆっくりと指先を動かしていた。
「タト!」
レイの声に、イオがわずかに身を乗り出す。
タトのまぶたが、震えながら持ち上がった。
「……レイ……?」
声は掠れていた。
だが、ゆっくりと開かれたその瞳は、まばたきするたびに、静かで強い光が戻った。
タトは自分の手を見つめ、じんじんと痛む体を確かめた。
それから隣で深く眠るミミと、守るように寄り添うルリ、
ミミとそっくりな女王の姿を見つめた。
「みんな、生きている……」
「うん。みんな、ここにいる」
レイが告げると、タトは安堵したように、深い息を吐いた。
ゆっくりと身を起こし、辺りを見渡す。
「氷山とパレスは、ぜんぶ崩れたんだね…」
「ああ。こんなに見晴らしが良くなった」
タトは座り直すと、まだ眠るミミの髪にそっと触れた。
「ミミが、女王だったんだ……」
「君は、これまでずっと女王に寄り添っていたんだね、タト」
タトは首を小さく振った。
「ボクは…ただミミと一緒にいて、驚いたり、笑ったり、助けてもらったりしていただけだ。
愛を与えてくれていたのは、ミミだよ」
レイはふっと柔らかく笑った。
「イオ……、賢者の石……」
タトがそれぞれを確認すると、石が言った。
「おぬしの頑丈な扉は、これから芽が出そうかのぉ?」
ふおっふおっ、と老人らしく笑う。
「ねえ、タト。日が昇る。
小さく見えるあの塔」
レイはそっとタトに顔を寄せ、耳元で囁いた。
「いい名前だろう?」
「うん……。最高だよ、レイ」
青からピンクに染まる光を背に、まっすぐに立つ塔のシルエット。
見つめるタトの横顔は、迷いのない静かな決意をたたえていた。
空は光をため込み、今にも太陽が顔を出しそうな明るさに、
ルリのまぶたも動き始めた。
世界が、動き出す。
「おはよう、タト」
タトは、差し込む朝日に目を細めながら、しっかりと頷いた。
そして、つぎつぎと目覚めるみんなに向けて、言った。
「おはよう、レイ」
「おはよう、みんな」
完

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