ある日のきおく:森の碑石②〜サイドストーリー
【背景】
追憶のオリジン本編から遡ること数年前。タトがまだ10歳前後の頃、希望の塔の街ルミナリーでのお話。
*
ジルと話したその日の午後、タトはひとりで教会の裏手へ向かった。
モヤモヤとしたときは、決まってここに来てしまう。
来る途中、街の男たちが、
このあたりも、もうすぐに森に呑まれそうだ、と深刻そうに話ていた。
教会の裏は、大小さまざまな石がごろごろと顔を出している。
なかには、古びた文字が刻まれたものもある。
ジルに言われた言葉を思いおこしながら、タトはゆっくりと歩いた。
何とはなしに、珍しい石を探してしまうのは幼い頃からの癖だ。
ここの地面はいつも、少しずつ様子が変わっている。
木の根が土や石を持ち上げ、風景を少しずつ歪めていく。
今日も、ほら見つけた。
苔むした石の表面に、かすかに文字らしき線が浮かんでいる。
珍しく、読めそうだ――
そう思ってタトはしゃがみこみ、そっと苔や土を払った。
半分ほど埋もれたその石には、風化しながらも、まだ息づくような詩が残っていた。
文字のいくつかは欠けていたが、タトは想像で補いながら、心の中で読み上げた。
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ひとつ、深き風よ
ふたつ、揺れる影よ
みっつ、灯をたずさえ
魂のうたかたよ、いまここにとどまり
凍える心に、ひとしずくの光を…
イリース・オムファム
―聖なる癒しの唄
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なんて、美しい詩だろう。
タトはそう思った。
崩れた塔の一部だったのかもしれない。
そのとき、不意に――氷山のほうから風が吹いた。
冷たい。けれど、ただの風ではないような気がした。
タトはギクッと肩をすくめて、森の奥を見つめた。
あの向こうから、何かが迫ってきている。
氷山からの魔攻撃かもしれない。
胸の奥に冷たいものが走った。
タトは慌てて街の方へ駆け出した。
森が、もうすぐそこまで来ているんだ。
嫌な汗が背中をつたっていった。
(つづく)
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