見出し画像

ある日のきおく:森の碑石②〜サイドストーリー

【背景】
追憶のオリジン本編から遡ること数年前。タトがまだ10歳前後の頃、希望の塔の街ルミナリーでのお話。

①からのつづき

ジルと話したその日の午後、タトはひとりで教会の裏手へ向かった。
モヤモヤとしたときは、決まってここに来てしまう。

来る途中、街の男たちが、
このあたりも、もうすぐに森に呑まれそうだ、と深刻そうに話ていた。


教会の裏は、大小さまざまな石がごろごろと顔を出している。
なかには、古びた文字が刻まれたものもある。

ジルに言われた言葉を思いおこしながら、タトはゆっくりと歩いた。
何とはなしに、珍しい石を探してしまうのは幼い頃からの癖だ。

ここの地面はいつも、少しずつ様子が変わっている。
木の根が土や石を持ち上げ、風景を少しずつ歪めていく。


今日も、ほら見つけた。
苔むした石の表面に、かすかに文字らしき線が浮かんでいる。

珍しく、読めそうだ――

そう思ってタトはしゃがみこみ、そっと苔や土を払った。

半分ほど埋もれたその石には、風化しながらも、まだ息づくような詩が残っていた。
文字のいくつかは欠けていたが、タトは想像で補いながら、心の中で読み上げた。

---

ひとつ、深き風よ
ふたつ、揺れる影よ
みっつ、灯をたずさえ
魂のうたかたよ、いまここにとどまり
凍える心に、ひとしずくの光を…
イリース・オムファム

―聖なる癒しの唄

---


なんて、美しい詩だろう。
タトはそう思った。
崩れた塔の一部だったのかもしれない。


そのとき、不意に――氷山のほうから風が吹いた。
冷たい。けれど、ただの風ではないような気がした。

タトはギクッと肩をすくめて、森の奥を見つめた。

あの向こうから、何かが迫ってきている。
氷山からの魔攻撃かもしれない。

胸の奥に冷たいものが走った。

タトは慌てて街の方へ駆け出した。


森が、もうすぐそこまで来ているんだ。

嫌な汗が背中をつたっていった。




(つづく)

→森の碑石③


いいなと思ったら応援しよう!

望月むう(ムーン)🐾|物語と思考|物語に浸りたい ここまで読んでくれてありがとう♡