ある日のきおく:森の碑石①〜サイドストーリー
【背景】
追憶のオリジン本編から遡ること数年前。タトがまだ10歳前後の頃、希望の塔の街ルミナリーでのお話。
*
「え?何でジュース作り職人になったかって?」
ジルは目を丸くして、思わず聞き返した。
タトからそんな相談が来るなんて、思いもしなかったからだ。
外では何でもできるふうに振る舞っているタトだが、仲間内では物静かで口数が少なかった。それは、気を許した人にしか見せないタトの“わがまま”だった。
その子が、こんなふうに正面から弱みを見せてくるなんて。
「なんだよ、いよいよ行き詰まったか?」
ついからかいたくなって、ジルはニヤリと笑う。
タトの眉がピクリと動いた。
……あ、これ、茶化しちゃダメなやつだ。
「あー、どうした、急に?」
柱にもたれたまま、タトは言いにくそうに口を開く。
「…まだ仕事が決まらないんだ」
「そういえば、色んな仕事を試してたな。気に入るの、なかったのか?」
「どれもそれなりによかった。だから、よけいに決めきれないんだ。」
「……ふうん。」
少し考えて、ジルは口を開いた。
「おまえは、あれだ。例によってまた、街のためとか、正しい場所はとか…そういうのぐちゃぐちゃ気にしてんじゃねーの?」
ベリーの実を潰す手を止めてタトの顔を見ると、どうやら図星だったらしい。タトらしいな。
「あのなぁ、私だって、薬とか調理とか、他にもいろいろ道はあったんだ。装備屋って道もあった。
でも、選んだのは私自身だ。誰かに言われたんじゃない。自分で、これにすると決めた。」
「お前だって、木こりになるって決めてもいい。力が足りないかも、とか、婆の手伝いが、とか――そんなの関係ない。結局は、自分が決めるしかないんだ。」
「……」
タトは腑に落ちない顔をしている。
「それにさ――例えば、ひとつに決めない生き方だって、あるんじゃねぇの?」
何気なく言ったつもりだったが、そのアイデアが気に入って、ジルはまた、ひとりニヤリと笑った。
(つづく)
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