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#8-6 欠けた階段|追憶のオリジン~氷の女王の眠る街


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第6話 欠けた階段

タト・ミミ・ルリの三人は、上階へ確認に行った二人、レイとイオの帰りを待っていた。(8-4より続く)

突然、黙りこくったルリを、タトとミミは見つめていた。
ルリは、唇を噛んでかすかに震えている。

様子がおかしい。
以前のタトなら、何があったのかと踏みこんでいただろう。


でも、今ならわかる。

全身で触れられたくないと語っているその姿に、二人はそっと口をつぐんだ。


やがてミミはルリにもたれて、うとうととし始め、ルリもその幼い温もりに寄り添うように目をつむった。


そんな状況でも、タトはどこか安堵していた。

目の前に、ルリがいる。

ラーフェを出て意見が分かれ、ルリとイオの背中を見送ったあの時から、随分と時間が経った気がする。
こうして今、同じ空気を吸い、隣にいてくれる。
それだけで十分だと思った。


美しくしなやかな、憧れのルリ。
それでいて、どこか強かな柳のようなルリ。
タトは彼女に出会った時からいつも目で追っていた。

しかし、あの頃のざわついた心の違和感は、今はもうない。

タトは静かに理解していた。

彼女は彼女、自分は自分なのだ。
別の人間には、なれない。

だからこそ、ルリの苦しみを代わりに背負うことはできない。
けれど、こうして隣にいよう。


静けさの中、タトは素手で氷に触れた。階段の縁が不規則に欠けている。
指でその形をなぞりながら、タトの意識はいつの間にか、遠い記憶へと沈んでいった。



――ボクには、当然のように手にできると思っていた魔法がなかった。

期待されるのにいつも力が及ばない。
なぜ望む者に与えられないのだろう?

それなら、あるもので貢献しようと、がむしゃらにやってきた。


それが正しかったのだと、氷山の入り口に立ちふさがった、あの巨大な裁判官ドーマは言っているようだった。


けれど、胸の痛みは消えなかった。
自分が哀れなような、この気持ち。

ドーマもウォールも、自分と同じように見えた。
悔しくて、やりきれなくて――

もうそんな気持ちに、負けたくないんだ。


あの時、ボクは旅に出た。
それが、何の力もない自分ができる、唯一のことだと思った。氷山の中心にまで来れるなんて、考えもしなかった。

ボクは、他のオリジンを探して、助けてもらおうと思ったんだ。
あわよくば、有能なオリジンにバトンタッチして終わり。そこまでがボクの役割だと、勝手に決めていた。

だけど、みんなが不完全なんだと知った。
小さいミミも、育てのエリザも、賢いレイも、素晴らしい技術を誇るラーフェの街も、
そして、完璧な理想像に見えていた、ルリも。

不完全だからこそ、寄り添ってくれる人たちがいることに気がついた。

長く旅をする中で、彼らはきっと命を張ってでも仲間を守るのだと、どこかで理解した。

だって、ボクも同じ気持ちだったから。


離れていてもいつも思い出す故郷の人たち。
側にいて安心できる仲間たち。

なぜボクは長い間、一人きりだと思っていたんだろう。

だから、ドーマたちだってきっと同じなんだ――。



抱えた膝に額をつけて、タトも目を閉じた。

深く青く輝く氷山に、オリジア石の光が反射する。音もなく、吹き抜けから立ちのぼる靄。


長い時間が経っていた。

タトたちはひたすら、二人の帰りを待っていた。


――しかし、どれだけ待っても
レイとイオは、戻ってこなかった。


(つづく)


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