#8-6 欠けた階段|追憶のオリジン~氷の女王の眠る街

第6話 欠けた階段
タト・ミミ・ルリの三人は、上階へ確認に行った二人、レイとイオの帰りを待っていた。(8-4より続く)
突然、黙りこくったルリを、タトとミミは見つめていた。
ルリは、唇を噛んでかすかに震えている。
様子がおかしい。
以前のタトなら、何があったのかと踏みこんでいただろう。
でも、今ならわかる。
全身で触れられたくないと語っているその姿に、二人はそっと口をつぐんだ。
やがてミミはルリにもたれて、うとうととし始め、ルリもその幼い温もりに寄り添うように目をつむった。
そんな状況でも、タトはどこか安堵していた。
目の前に、ルリがいる。
ラーフェを出て意見が分かれ、ルリとイオの背中を見送ったあの時から、随分と時間が経った気がする。
こうして今、同じ空気を吸い、隣にいてくれる。
それだけで十分だと思った。
美しくしなやかな、憧れのルリ。
それでいて、どこか強かな柳のようなルリ。
タトは彼女に出会った時からいつも目で追っていた。
しかし、あの頃のざわついた心の違和感は、今はもうない。
タトは静かに理解していた。
彼女は彼女、自分は自分なのだ。
別の人間には、なれない。
だからこそ、ルリの苦しみを代わりに背負うことはできない。
けれど、こうして隣にいよう。
静けさの中、タトは素手で氷に触れた。階段の縁が不規則に欠けている。
指でその形をなぞりながら、タトの意識はいつの間にか、遠い記憶へと沈んでいった。
*
――ボクには、当然のように手にできると思っていた魔法がなかった。
期待されるのにいつも力が及ばない。
なぜ望む者に与えられないのだろう?
それなら、あるもので貢献しようと、がむしゃらにやってきた。
それが正しかったのだと、氷山の入り口に立ちふさがった、あの巨大な裁判官ドーマは言っているようだった。
けれど、胸の痛みは消えなかった。
自分が哀れなような、この気持ち。
ドーマもウォールも、自分と同じように見えた。
悔しくて、やりきれなくて――
もうそんな気持ちに、負けたくないんだ。
あの時、ボクは旅に出た。
それが、何の力もない自分ができる、唯一のことだと思った。氷山の中心にまで来れるなんて、考えもしなかった。
ボクは、他のオリジンを探して、助けてもらおうと思ったんだ。
あわよくば、有能なオリジンにバトンタッチして終わり。そこまでがボクの役割だと、勝手に決めていた。
だけど、みんなが不完全なんだと知った。
小さいミミも、育てのエリザも、賢いレイも、素晴らしい技術を誇るラーフェの街も、
そして、完璧な理想像に見えていた、ルリも。
不完全だからこそ、寄り添ってくれる人たちがいることに気がついた。
長く旅をする中で、彼らはきっと命を張ってでも仲間を守るのだと、どこかで理解した。
だって、ボクも同じ気持ちだったから。
離れていてもいつも思い出す故郷の人たち。
側にいて安心できる仲間たち。
なぜボクは長い間、一人きりだと思っていたんだろう。
だから、ドーマたちだってきっと同じなんだ――。
*
抱えた膝に額をつけて、タトも目を閉じた。
深く青く輝く氷山に、オリジア石の光が反射する。音もなく、吹き抜けから立ちのぼる靄。
長い時間が経っていた。
タトたちはひたすら、二人の帰りを待っていた。
――しかし、どれだけ待っても
レイとイオは、戻ってこなかった。
(つづく)


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