#7-8 背後の影|追憶のオリジン~氷の女王の眠る街
【前回までのあらすじ】
氷山の頂上で裁判官ドーマと対峙したタト、ミミ、レイは一方的に有罪と凍結を宣告される。しかし、オリジア石の光に助けられ、ドーマとウォールが立ちはだかるパレスへの門に滑り込んだ。安堵したのも束の間、タトが倒れてしまい――。
7-8 背後の影
倒れ込んだタトの顔は、血の気がなく真っ青だ。
ぐったりとした体をレイが慎重に横たえる。
「ここでしばらく休もう」
改めて見渡すと、氷山の内側は巨大な空洞になっており、
切り立った氷の壁に沿って、地の底へと続く螺旋階段が、心細い糸のように刻まれている。
「床が氷だから、体がどんどん冷えちゃう……」
ミミが熱を分けながら心配そうにタトを覗き込む。
「ミミはそばにいてあげて。温かい飲み物を用意する」
手早く荷物を解くレイの手が、ピクッと止まった。
「誰だ?!」
門の向こうで影が揺らいだ。
二人はタトを背に、扉の外を睨む。
厚い氷に反射して近づいてくる気配。
ジャリ、ジャリ、と氷を踏む足音が、逃げ場のない空間に響いた。
ゆっくりと現れたその人影は、
長身でガッシリとした体格、銀色の仮面をキラリと光らせた男、イオ。そして、その彼を従えた美しい少女、ルリだった。
*
その意外な再会に、ミミとレイは一瞬、言葉を失った。
「タト!?」
倒れ込んでいるタトに驚いてルリが駆け寄る。
「ルリ……なぜ、ここに?」
やっとのことで声を出すレイ。
立ち尽くすレイの脇をすり抜け、ルリはタトの側に膝をついた。
「調子が悪そうね」
ルリはすぐに癒しの歌を口ずさんだ。
しかし、一回で止めた。
額を押さえて苦しそうに言う。
「…ごめんなさい、これ以上は…」
ルリも顔色が悪い。
やや生気が戻ったタトが弱々しく口を開いた。
「あ、ありがとう、ルリ……。ルリなんだね…随分、いいよ、君の声を聞くだけでも…」
「イオ、毛皮を敷いてあげて!」
「分かりました」
イオが背に担いでいた毛皮をひき、タトを軽々と持ち上げてそっと寝かせた。
それを見届けると、ミミがタッと駆け寄りルリに抱きついた。
「ルリ!!戻ってきたの?」
レイが眉を寄せる。
「ミミ!ルリは…」
ミミを諌めようとするレイの言葉を、ルリの声が遮った。
「ええ。とりあえずね」
レイは、厳しい目でルリを見た。
「……ラーフェへ行ったんじゃなかったのか?」
「ええ、行ったわ。
優しい忠告と共に、協力を断わられたの」
氷の壁を背に肩をすくめる彼女は、どこか捉えどころがない。
当然だと言うようにレイは深い息をついたが、そこには安堵も混じっていた。
ミミが抱きついたままルリを見あげる。
「それで追ってきてくれたの?」
「そうよ、ミミ。
あなたは無事?焼け跡を見たのよ」
ミミの髪を撫でながらルリは優しく尋ねた。
「うん!タトがね、一人にくっついて魔法が使えるようになったの!」
「まあ!!どんな魔法なの?」
「たぶん、木のエレメンタルだ」
レイが短く答えた。
「木の……。イオは知ってる?」
「いいえ。ラーフェにはいませんでした」
レイは二人を見据えて言った。
「なぜここへ来た?
返答によっては同行できない」
「レイ、そんなに警戒しないで。私一人では何もできないわ。
あなたたちと合流して、少し考えたいと思ったのよ」
「……。
イオは?どういうつもりだ?」
ゆっくりとイオに視線を移す。
「私は現状を観察し、求める人の役に立つためにいます」
ルリが柔らかく言う。
「みんな疲れているし、タトが回復するまで、ゆっくり話しましょう?
それにしても、氷山の中は空洞なのね。壁伝いに螺旋階段が掘ってあるわ…ここを降りるのかしら」
その穏やかさをレイは静かに遮った。
「その前に、どうやって下の氷門を?」
ルリの声は落ち着いている。
「イオが開けてくれたわ。
門の上にあったオリジア石も持ってきたのよ、ほら」
ルリは腰から、黒く輝く六角柱の石を取り出した。
それは、門番ウォールがいた、あの門のてっぺんに据えられていた石だった。
レイは目を見開いて、その石を見つめた。
(つづく)


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