大企業で新規事業、失敗の理由はクロージングが下手すぎること
大企業の中の新規事業も、個人の副業もフリーランスも、契約をとらないと商売ははじまらない。
お客さんに買いたいと思わせるオファーの最低条件は
お客さんが直面してる根本的な課題はなんなのか
どうやって解決するのか
その結果どんな未来が得られるのか
金額(必要な対価は?)
これらが明確なこと。
逆に言うと、このどれか1つでもかけたら買われない。
わかりきったことなのに、最後の「金額」をずーっとずーっと提示できずに、新規事業で大失敗した話をしよう。
ミッションは10年後に100億円規模の利益を上げること
「次の収益の柱になる新規事業を作れ。」
5年後には10億円の利益を上げる事業、10年後には100億円規模の利益を上げる事業を作れと言われてた。そんなわけで、大きな商売になりそうなアイディアを探して、実現に向けて地道に取り組む。
ひとつのアイディアに、工場向けの脱炭素サービスを売るものがあった。
100億円の設備を売るために、まずは2000万円のスタディを売る
商品は100億円の設備。
でも、いきなり100億円の設備投資の判断はできないので、まずは2000万円のスタディを売る。
スタディの中身は場合によって異なるけどだいたいこんな感じ。
・設備の設計図
・お客さんに用意してもらうものリスト(土地、電力、水など)
・設備の金額(お客さんの仕様によって設計も金額も変わる)
・設備導入の定量的な効果
このスタディの金額は、設備の複雑さ、どこまでの精度、深さで検討を行うかによって500万円レベルから2億円レベルまで、千差万別なのである。
営業の大事な仕事はスタディの発注を受ける前に、顧客と予算とスコープをしっかりとすり合わせること。
失敗:いつまでたっても金額を提示できない
スタディの予算とスコープをすり合わせる段になって、わたしはいつまでたっても決着をつけることができなかった。
わたしが思い描いていたステップはこうだった。
顧客に次のステップとして、有償検討に進むことを提案する
顧客の予算をヒアリングする
予算に合わせてスコープを定めて顧客と合意する
スコープに基づき社内で見積を取る
金額提示前の社内稟議を通す
顧客に金額を提示する
顧客が社内決裁を通す
社内決裁という面倒な手続きの前に、顧客とおおよそ予算とスコープを合意して、あとの面倒な手続きをスムーズにする。そんな作戦だった。
金額のヒアリングができない
ところが、さっそくつまづくことになる。顧客の予算のヒアリングができないのだ。金額を言ったらその金額になってしまうと思っているのか、もっと安くなるかもしれないというスケベ心があるのか。
予算はいくらですか?1000万円ですか?2000万円ですか?その間くらいですか?
はじめてのことに保守的過ぎて、社内見積が出せない
ようやく予算感がつかめたと思っても、今度は社内に壁がある。
新規事業だから、もちろんはじめての要素がある。「はじめてだから見積が出せない。マージン載せて高めに出そう」と、やたら保守的に見積り、リスクを全部お客さんに寄せた提案をしようとする。
そんな社内勢力と戦い、サービス提供者として取れるリスクは取り、現実的な金額に落ち着かせるのに苦労した。
社内稟議も全然通らない
ようやくそれなりの見積ができても、稟議で既存事業の利益率と比べられて全然通らない。
いやいやいや、見積でリスクプレミアのってるんだから同じ基準で見るのは違うでしょ。
すったもんだを経て、実際のステップはこうだった
顧客に次のステップとして、有償検討に進むことを提案する
顧客の予算をヒアリングする
(業界の慣習で)関係者が集まる会議では、金額の話ができない
クローズドに担当と直接電話で話しても、のらりくらりとかわされる
曖昧なやりとりが永遠に続き、進まない
予算に合わせてスコープを定めて顧客と合意する
スコープに基づき社内で見積を取る
はじめての業務でデータがないため見積が出せない
不確定要素があると全てマージンを載せて、見積が高くなる
金額提示前の社内稟議を通す
新規事業なのに既存事業と同じ基準でみられる
顧客の予算内の金額だと稟議が通らない
顧客に金額を提示する
顧客が社内決裁を通す
そうして、顧客に金額提示する前に、「状況が変わりました」と顧客からお断りの連絡があった。
失敗の原因:失注が怖い、お客さんが離れるのがこわい
顧客が興味を示してから、オファーを出すまでの3か月近くかかった。
その原因をいくつかあげよう。
1. 商品・サービス設計の問題
① 標準化不足
決まったパッケージ、金額がないから、いちいち顧客とすり合わせる必要がある
・新規事業のため標準的な価格体系が存在しない
・毎回カスタマイズが必要で、都度見積→承認プロセスを経る必要があり効率が悪い
② 提供価値の不明確さ
2000万円の時点で値段を理由に顧客がGoサインを出さないなら、そもそも提供価値を見直すべきだった。しかし、戦略的判断のミスでその顧客をつかまえることにリソースを全振りしてしまった
・根本的な価値提案が顧客に響いていない可能性を見過ごした
・個別顧客への対応に集中し、商品自体の改善を怠った
2. 組織・プロセスの制約
① 担当者に権限がない
顧客側の決裁権を持つ人と直接話せないし、自分も見積価格の決裁権を持っていない
・意思決定者同士の直接対話ができず、稟議を通さないと価格もスコープも決められない構造
・決裁をもらうまでに何人もの人を経るので、いろいろな視点からコメントがつき、差し戻しを何度もくらう。
② 承認プロセスの硬直性
承認プロセスが決まっていて、例外や権限移譲がないから、承認プロセスを通すことが目的となり、事前に顧客とスコープ・価格合意してから進めようとする
・社内承認プロセスが複雑で時間がかかる
・プロセス回避のため事前調整に過度に依存
3. コミュニケーション・商習慣の問題
① 業界慣習による制約
無駄な業界慣習で、複数人いる会議の場でストレートに予算や見積の話ができない
・オフィシャルな場での金額議論がタブー視される文化
・建設的な議論を阻害する形式主義
② 情報収集プロセスの非効率性
ハイボールを投げるのが怖いから、顧客の予算を聞き出す前に社内の見積作業を始められない
・顧客の予算情報なしに社内作業を進めることへの不安
・情報収集と見積作業の順序が逆転している
4. 心理的・戦略的判断の問題
① 失敗への過度な恐怖
断られるのが怖くて、なんとか顧客がうんと言うオファーを作ろうと、顧客の都合に合わせすぎてしまう
・拒絶への恐怖が適切な価格設定を阻害
・顧客に過度に迎合する姿勢
② 機会損失への過度な懸念
なぜ怖いのかと言うと、前例主義により全然新規事業が立ち上がらない中、興味を持ってくれたお客さんを逃したくないという強い気持ちが働いてしまった
・新規事業の困難さからくる過度な期待と執着
・一つの機会への依存度が高すぎる戦略
10億円の設備投資案件。日本初の事例になるかもしれない。目が出なければもう数ヶ月で事業撤退の兆しが見えていた中、興味を示してくれた数少ない顧客を前に、私は冷静さを失っていた。『何としてでもこの案件を取らなければ』という思いが、商品の根本的な問題を見えなくしていたのだ。
顧客の予算に無理やり合わせようと人員を削ったり、品質下げたり、利益を削ったりして調整するという、力技で押し切ろうとした。でも硬直した承認プロセスと、前時代的で非効率な業界慣習のせい(おかげ?)で話がまとまらずに、とん挫したのだ。
もしやり直せるなら、基本に立ち返る
まず、自分がコントロールできるものとできないものにわける。
コントロールできることはこのあたりだ。
・コミュニケーションの方法
・会議でなにを議論するかと言う会議設計
・戦略的判断:顧客と予算が折り合わないときに、赤字を出してでも特定顧客との契約を取りに行くか、金額としていくらまでなら許容できるか(判断の後、実際に契約できるかはまた別)
逆に、コントロールできないのに事前の根回しでどうにかしようとしていたのがこのあたりだ。
・見積の結果、どういった金額が出てくるか
・承認プロセスにおいて、どんなコメントをもらうか
・承認プロセスのルールや承認基準
・顧客の予算
コントロールできるものの中で、一番重要だったと思うことがこれ。
・戦略的判断:顧客と予算が折り合わないときに、赤字を出してでも特定顧客との契約を取りに行くか、金額としていくらまでなら許容できるか
金額を明確にしてオファーを出すということは、相手に進むか進まないか選択を迫るということ。赤字を出してでも取りに行くのか、いくらまで持ち出しても事業として成り立つのかという全体像に立ち返っての判断ができていなかったから、だらだらとオファーまでの時間を引き延ばしてしまっていた。
断られたら、商品の価値提案が間違っているのか、ターゲット顧客が間違っていたということ。
つまり断られることも、事業の方向性を正すための重要な進捗なのだ。
今だったら、こうする
・コミュニケーションの方法
事実ベースでサクッと質問する。
工場単位で決裁権を持っている上限金額はいくらですか。今期スタディに使える予算はいくらですか。
回答がなければ、ないままで次に進む。
・会議でなにを議論するかと言う会議設計
新規事業なんだから、業界慣習なんてわけのわからないものに縛られず、必要なことは明確に公の場で議論して、決める。
だいたい公の場で言えなくて、個人的な電話でだけ言えるって何なの?どうせ○○社のXXさんと電話で予算について話しました、なんてメールで社内報告回すでしょ。
オープンに率直に、会議で話す。
・戦略的判断:顧客と予算が折り合わないときに、赤字を出してでも特定顧客との契約を取りに行くか、金額としていくらまでなら許容できるか
もしあなたも今、『この顧客を逃したら終わりだ』と思いながら価格提示を先延ばしにしているなら、一度事業の大きな絵姿に立ち返ってほしい。
目の前の顧客からズームアウトし事業全体を見渡すと、いくらで契約できればそもそも事業が成り立つのかがわかる。自社で支払えるコストが決まっていれば、顧客の予算ありきではなく、自社サービスを起点に価格がつけられる。提示した価格が折り合わなければ、それ以上は事業が成り立たないので、商品設計を見直すか、ターゲット顧客を見直す必要があることがわかる。
金額を決めてオファーを出そう。
その結果がYesであれNoであれ、進捗であるということを肝に銘じたい。
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