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"お酒を飲むとよく眠れる"は、脳科学的には最大の誤解だった

こどもが寝た。

やっと一人の時間。ソファに座って、冷蔵庫から缶を取り出す。「ふう」と一息。「これがあるから今日も頑張れた」。ちょっと飲むと、体がほぐれる。目も重くなってくる。「やっぱりお酒飲むとよく眠れる」。

その感覚、本当によく分かります。

でも、実はこれ——脳科学的には「よく眠れている」ではなく「意識が落ちているだけ」なんです。

「眠らせてくれる」ことと「眠れる」ことは、まったく別のことです。そしてアルコールは前者であり、後者ではない。今日は、その仕組みをお伝えします。

◎ アルコールが「眠らせる」のと「眠れる」のは、まったく別のこと

アルコールは、脳の活動を抑制する「鎮静剤」として作用します。飲んだ後にうとうとするのは、脳が「眠った」からではなく「抑制された」からです。

ウォーカー博士(Walker, 2017)は、アルコール後の睡眠脳波を分析してこう述べています。「アルコールによる眠りは、自然な睡眠ではなく麻酔に近い状態だ」と。

麻酔をかけられた人が「よく眠れた」と言わないように、アルコールで落ちた意識は「質の高い睡眠」ではありません。脳波で見ると、アルコール後の眠りには本来の深睡眠の波形が出ておらず、「眠っているようで、脳は十分に休めていない」状態になっています。

「飲んだ日は翌朝すっきりしない」「寝たはずなのに疲れが残る」——その感覚は、正しいです。脳は実際に休めていません。


◎ REM睡眠が根こそぎ奪われる

アルコールが睡眠に与える最大のダメージは、REM睡眠の抑制です。

REM睡眠(夢を見る睡眠)は、感情の処理・記憶の定着・創造性の回復・脳の修復に関わる、睡眠の中でも特に重要な段階です。アルコールはこのREM睡眠を強力に抑制します。

エブラヒムら(Ebrahim et al., 2013)のメタ分析では、アルコールの摂取量が増えるほどREM睡眠の割合が減少することが示されています。ワイン1杯程度でもREM睡眠が平均24%減少するというデータもあります。

REM睡眠が奪われると何が起きるか。

感情がリセットされないまま翌日を迎えます。昨日のイライラが尾を引く。些細なことで怒りやすくなる。こどもへの接し方が荒くなる。夫との会話がぎこちなくなる——「お酒を飲んでいる日の翌日はなぜか調子が悪い」と感じるなら、REM睡眠の抑制が原因かもしれません。


◎ 「後半の睡眠」が崩壊する理由

アルコールのもうひとつの問題が、「後半の睡眠への影響」です。

アルコールを分解する過程で生まれる「アセトアルデヒド」という物質があります。これが体内で代謝されると、神経を刺激する作用があります。アルコールを飲んでから3〜4時間後、ちょうど睡眠の後半にさしかかる頃に、このアセトアルデヒドの代謝が活発になります。

結果として——深夜に目が覚める。眠りが浅くなる。夢をやたらと多く見る。朝方に何度も起きてしまう。

「飲んだ日の夜中、なんかよく目が覚める」という経験がある方は多いと思います。あれはアセトアルデヒドの仕業です。アルコールは入眠を早めるかわりに、後半の睡眠を根こそぎ壊します。


◎ 「少量なら大丈夫」も幻想だった

「ちょっとだけだから」「ビール1本くらいなら」——その感覚も、脳科学的には危ういです。

前述のエブラヒムらの研究では、「少量(低用量)のアルコール」でもREM睡眠の減少が確認されています。つまり、「少し飲むくらいなら睡眠への影響は軽微」ではなく、少量でも質の低下は起きている。

みんな"自分の体"の経営者です。「少量だから大丈夫」という判断は、見えていないコストを払い続けていることになるかもしれません。

お酒を楽しむこと自体は悪いことではありません。ただ、「お酒を飲むとよく眠れる」という誤解の上に眠りを設計していることの「コスト」を、知っておいてほしいのです。


◎ 「夜のお酒をやめたら、翌朝の頭の軽さが全然違った」

ある30代のお母さんのお話をさせてください。

「毎晩缶ビールを1〜2本飲むのが習慣で、それがないと眠れない感じがしていた」という方がいました。「飲まないと眠れないし、飲んでいるおかげで眠れている」と思っていたそうです。

2週間だけ、就寝前の飲酒をやめてみてもらいました。最初の3〜4日は確かに寝つきが少し遅くなった。でも1週間後、「翌朝の頭の軽さが全然違う。今まで飲んで眠っていたのは、眠れていたんじゃなかったんだ」と話してくれました。

愉しむことは自分を癒すこと——お酒を楽しむ時間があっていい。ただ、それを「眠りの手段」として使うことをやめたとき、本当の意味での眠りと回復が始まります。


◎ まとめ

今日お伝えしたことを、3つに整理します。

・アルコールは「鎮静剤」であり、睡眠誘導剤ではない。意識を落とすが、脳は休めていない
・REM睡眠を抑制し、感情処理・記憶定着・翌日のパフォーマンスを著しく下げる
・アセトアルデヒドの代謝で後半の睡眠が崩壊する。少量でもその影響は出る

睡眠はスキルであり、手段です。「お酒で眠る」から「自分の力で眠る」へ——その一歩が、翌朝の自分を変えます。

——今日も、お喜楽さんに行ってらっしゃい


■ 参考文献

・Walker, M. (2017). Why We Sleep: Unlocking the Power of Sleep and Dreams. Scribner.
・Ebrahim, I. O., et al. (2013). Alcohol and sleep I: Effects on normal sleep. Alcoholism: Clinical and Experimental Research, 37(4), 539-549.
・Roehrs, T., & Roth, T. (2001). Sleep, sleepiness, and alcohol use. Alcohol Research & Health, 25(2), 101-109.


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