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【ショートショート】眠れぬ夜の物語 第二夜 #162 まちがえて届いた明日

「チッ、またか」 ポストから朝刊を引き抜き、日付を見て眉をひそめた。

4月15日。

今日はまだ十四日だ。
昨日も同じだった。
なんだこれは?
どうせ近所のガキの悪ふざけだろう。
そう思ってページをめくり、指が止まった。

【地域ニュース】四月十四日午前七時二十分、〇〇交差点で歩行者の男性が自転車と接触。軽傷。

被害者欄に、僕の名前。
服装欄には、玄関にかかっているネイビーのコート。
壁の時計を見る。まだ七時前だ。

「……これから、起きるのか」

僕はすぐにコートを脱ぎ捨て、グレーのジャケットに替えた。
家を出る時間も十分遅らせる。
交差点も避ける。
遠回りすれば済む話だ。

歩きながらスマホで新聞の電子版を開いた。
さっきと同じ「明日」の紙面が、そこにもあった。

すると、目の前で文字が躍動し、記事が書き換わった。

(え?)

【訂正:午前八時十分】〇〇駅ホームにて男性が階段で転倒。右腕を骨折。

(骨折だと?)

僕は駅の階段を避けた。
列を離れてエレベーターへ。
その瞬間、また画面が切り替わった。

【再訂正:午前八時十五分】地下鉄車内の混乱に巻き込まれた男性が線路に転落。意識不明の重体。

「は……?」

避けるたびに、ひどくなっていく。

僕は地下鉄を降りた。
タクシーもやめた。
会社へ向かうのもやめた。
もうどこにも行かない。
何もしなければ、何も起きないはずだ。

公園のベンチに座り込み、震える指で最終面を開く。

【お悔やみ】〇〇 〇〇様(僕の名前) 四月十五日、心不全のため死去。公園にて発見。

「ふざけるな……!」

スマホを消した。
すると、一枚の薄い紙が膝の上に落ちてきた。
ただ、小さな活字だけが整然と並んでいた。

【編集後記】
本紙は予言ではありません。
「配達済みの明日」を拒否された読者様の、変更履歴(ログ)です。
本日は「軽傷」で終了するはずの最適な記事をお届けしておりましたが、読者様より度重なる訂正希望(回避行動)があったため、システム上、より確実な終止符へと修正を行いました。

追記:最初に配達される未来が、その方にとって最も慈悲深いものとなっております。

「うっ!」

心臓がきゅっと絞まった。
視界が激しく揺れる。

最初の記事。
ほんの少し痛いだけで、明日以降も続いていくはずだった人生。
僕は、それすら嫌だった。

膝の上で、紙がカサリと乾いた音を立てた。
さっきまではなかった一行が、滲み出すように浮かび上がった。

【最終版】これにて、本紙の配達は終了いたします。


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