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75歳・坂東玉三郎のモーニングルーティン 感性を濁らせない選択

歌舞伎俳優・坂東玉三郎さんは75歳・9時半起床。
そこから出かけるまでに3時間かけるという話を聞いて、わたしは少し安心した。

わたしは打ち合わせを午前中に入れない。起床してから、どんなに頑張っても出かけるのは11時になってしまうから。

まあそれは置いといて、坂東玉三郎さんの朝時間には、「丁寧に生きる」ということの本当の意味があった。

その話を聞いたのは、この日のトークイベント。
参加するきっかけはお正月新春特番で観た、マツコさんとの対談。すぐにチケットを申し込んだ。

わたしが訪れたトークイベントは開催42回目。42回も重ねてきたということは、同じ話を何度も聴いている方もおられるはずだ。それでも毎回満席になる。さすが千両役者である。

今回はじめて足を運んで、大人気の理由がわかった。
玉三郎さんの言葉は、とてもシンプルで、サラッとしか話さない。
多くを語らず、説得しようともしない。

けれど、響く人には魂の深いところまで届く言葉なのだ。心の栄養として。

9時半起床、3時間をかける朝のルーティン

「モーニングルーティンについて知りたい」という質問は、何度も寄せられるらしい。

玉三郎さんの起床は、9時か9時半。
この年齢だから目覚ましをかけなくても起きられるとおっしゃっていた。

まず41〜43度の熱めのお風呂を入れている間にキッチンへ行き、小松菜を半束使ったジュースを作る。キウイかイチゴに有機のトマトジュースを加えて、大きなコップで飲む。

このジュースを飲む習慣は、「免疫不全で余命宣告された友人が、徹底した食事療法で完治した」というエピソードがきっかけだそうだ。

その方からは「小松菜は1日1束食べなさい」と言われたそうだが、玉三郎さんはまだ少し免疫があるから半束にしているという。春の小松菜はとても苦いから、果物やトマトジュースで飲みやすくするのだそう。

その後、有機の煎茶を飲み、熱めのお風呂にサッと入ると、身体が目覚める。

朝食で使う食材、醤油や煎茶も有機栽培のものを選ぶ。味噌汁は薄めに作り、大きなお椀で2杯飲むのだそう。

野菜は火を入れたものがほとんど。ヒレかロースの薄切り肉をしゃぶしゃぶにして、胡椒と有機のお醤油をかけ、玄米で食べる。

有機栽培のお野菜は、ふるさと納税の返礼品だそうで、その瞬間、会場がふわっと微笑ましい笑い声に包まれた。玉三郎さんもふるさと納税するんだなあ。とみんなが思ったに違いない。

それから、抹茶と虎屋の羊羹。
羊羹のお気に入りは「夜の梅か、おもかげ。」虎屋さんでは羊羹のサイズは2センチが推奨だそうだが、玉三郎さんは1センチ。半分残して仏壇にあげる。

食事が終わると、ハワイ島のコナコーヒーと、ゴディバのチョコレート。音楽を聴いたり、会話を楽しんだりして、出かけるまでにだいたい3時間かかる。

「11時半に出るとなったら、私にとって早朝になってしまう」と笑っておられた。

心の底から美味しいと感じる食は、身体を作る

玉三郎さんがヒレやロースといった脂質の少ない食べ物を摂ることは、身体が資本であるお仕事だからこそ意識することだろうし、関節や筋のしなやかさにもつながるのだろう。

自分の世界観を信じ、心から美味しい、幸せだ。と思える時間を過ごすことは大切なことだ。

75歳とは思えない矍鑠かくしゃくとした姿勢とムダの無いプロポーション、肌つやは、こうした日々の積み重ねなのだろうと思う。

玉三郎さんは、若い方にこそ有機栽培の食材を勧めたいとおっしゃっていた。けれども、物価が高くなって買いにくいことも理解されている。それでも、こう話された。

「ファーストフードじゃない生活をしていただきたいの。ファストファッションじゃないものを着ていただきたいです。感性を濁らないようにするために。

その感覚がとてもわかる!
と、首をブンブンと上下させてしまった。

発展途上国の子どもたちと、わたしたちの選択

ファストファッションを作る発展途上国のドキュメンタリーを観たという話をされた。未成年の子どもたちが、夕方遅くまでミシンをかけて働いている。

「私たちが全く知らないところで、子どもたちがファストファッションの下請けをしている」

また海外の農地で飛行機から農薬を散布するドキュメンタリーを観たという。咳が出たり、目がチカチカしたりしても、作物を作り続けなければならない。

人口が増えて、食べ物が足りなくて、農薬を使わざるを得ない。

私たちはそういう構造の上に立っている。

玉三郎さんは、サラッとそう話された。

この年代の方が、食やファストファッションについて、これだけ問題意識をお持ちなことに驚いた。わたしの両親と同年齢。良い悪いという話よりも、大違いの価値観だ。

ギリシャの青とニューヨークの舞台芸術の変化

トークの合間に、ニューヨークとギリシャの旅行映像を見せてくださった。

玉三郎さんは1982年に初めてアメリカのメトロポリタンオペラハウスに出演され、今回は観客として訪れたという。

「人肌を感じる、そういうものから、だんだん遠くなっていく」

そう話されたのは、劇場の大型化にの代償についてだった。

江戸時代の歌舞伎小屋のキャパは500〜600人。ゴザをかけて、すぐ違うところに移動できる移動劇場だったのだそうだ。それがだんだんアカデミックになり、メトロポリタンオペラハウスは3700〜4000人規模になった。

メトロポリタンオペラハウス

メトロポリタンオペラハウスは、コロナを境に経営が悪化。舞台をやっても満席にならないそう。維持費だけで年間350億かかるということで寄付金が無ければ維持が難しく、閉鎖が危ぶまれているらしい。「人肌を感じる演技から遠くなる」という言葉が、ずっと心に残っている。

そして、ギリシャ。
エピダウロスという古代劇場の映像は、とても美しかった。5000人入る石の劇場。青い空と海。白い建物。

ブルーが好きな私は、いつかギリシャに行きたいと思った。かつては12時間ほどでヨーロッパに行けたのが、戦争によって飛行ルートが変わり、今は北回りで15〜16時間かかるのだそうだ。

友達は、作ろうと思って作るものじゃない

45分ほどお一人で話されたあと、「質問コーナー」に移った。この中で、30代の方から質問があった。

「気の置けない友達が1人もいません。友達がいなくても生きていけるのでしょうか?」

玉三郎さんは、少し間をおいてから、こう答えられた。

「友達は、作ろうと思って作るものじゃない。縁なんですよ」

そして、こう続けられた。

「今、友達がいる人って少ないんじゃないですか?AIが友達になる人もいるっていう話を聞いて、びっくりした」

「でも、携帯とかiPadとかじゃなくて、実際に会っている人たちの中に、本音を話せる人がいるかどうか、よく見て。そういう人がいないんだったら、あなたに、そういう人間性が無いってことになっちゃう。」

とてもシンプルな言葉だけれど、とても深い。

死別について 「一期一会」を生きる

ご夫婦で死別された方からの質問もあった。

玉三郎さんは、ご自身は夫婦での死別の経験はないけれど、と前置きして、こう話された。

「人間って、どこかでどちらかが先に別れていかなきゃならない運命にある」

そして、ご友人との別れについて語られた。
仕事仲間でありつつ色々なことを話した友人だったという、十八代目中村勘三郎さんのこと。相手役が多かった十二代目 市川團十郎さんのこと。

「この歳になると思うことなんですけども、いつ別れるか分からない。だから一期一会。」

「だからこそ、死の予感とともに芸が出てくる。芸術の感動が産まれる」

フランスの作家ジャン・ジュネは「演劇は墓場からしか生まれない」と言ったそうだ。

とてもサラッと、でもとても重い言葉だった。

休憩を挟んで、素踊り

後半は、素踊りだった。
亡くなった方を鎮魂するテーマの踊り。

実は今週、わたしが20代の頃からとてもかわいがってくれた方が他界したことを知り、さらにこの舞台の休憩中、祖母が召天したとメッセージが入った。

喪失感に感情が持っていかれそうになりながらも、理性で押さえつけ必死で舞台を凝視した。

玉三郎さんの踊りは、心が揺さぶられるほど美しい。先端という先端が全て美しいのだ。魂が入っている。

「演劇は墓場からしか生まれない」

「一期一会」

トークで聞いたばかりの言葉が、わたしの中で重なった。

感性100%で生きる人の、魂の純粋さ

玉三郎さんは、100%感性で生きている人だ。

魂が純粋な人。
とても大事なことを自分の次元でおっしゃる。

わたしがぼんやりと考えてきたこと。
伝統、手仕事、人と人が直接触れ合うこと、丁寧に暮らすこと。それはどういうことか?を本質でお話しされていた。

「人間に会いたいって思ったのかなって思いました」

パンデミックの時も、このトークイベントは満席だったという。玉三郎さんは、そう振り返られた。

人は、人に会いたい。
人肌を感じたい。
直接、言葉を聞きたい。

それは、とてもシンプルで、とても大切なことだと、改めて思った。

帰り道、私はずっと玉三郎さんの言葉を反芻していた。

「一期一会」
「人肌を感じる演技から遠くなっていく」
「ファストファッションじゃないものを着る」

どれも、とてもシンプルな言葉。でも、とても深い。

そして、これからもこうした言葉を大切にしながら、生きていきたいな、と思った。


玉三郎さんとマツコさんの対談の一部を起こした記事はこちら。現代に生きる私たちへ大切なメッセージが詰まってます。

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