見出し画像

【読書】多数決は「仕方なく」行うもの~勝手に応援!『ビッグイシュー日本版』(VOL.529 2026.6.15)~

『ビッグイシュー日本版』を勝手に応援する記事、第132弾です。
そもそも「『ビッグイシュー日本版』とは何か」をご説明した第1弾は、以下をご覧ください。


今号の特集は、「社会運動って何?」です。


「今、社会運動はSNSを中心に発信されていますが、特定のSNSが消えたら、2020年代の私たち若い世代の運動が歴史から消えてしまうのではないかという危惧もありました」

p.8

中村眞大さんの指摘に、なるほどと思いました。SNSはデータなわけですから、消える時は一瞬ですよね。「社会運動や政治参加は、自分たちが幸せに暮らすためのひとつの手段」(p.9)という指摘にも同感です。


「相手が無知だと決めつけ、見下した態度で説明すること」(p.9)を意味するマンスプレイニングという言葉は初見でした。そんなことをしないようにしなければ。


第二次トランプ政権の悪夢の中、(中略)ニューヨークは、ブラウンの肌の色をした若き民主社会主義者ゾーラン・マムダニを市長に選出した。マムダニは「アフォーダブルな都市」を公約の柱に掲げた。「アフォーダブル」とは平均的な財布で暮らすことができる、という意味で、裏を返せば、これまでのニューヨークはもはやアフォーダブルではない、ということでもあった。

p.11

マムダニ市長は「無償保育の対象年齢の引き下げを発表したり、より暮らしやすいニューヨークを実現するための駒を地道に進めている。同時に、すでに、廃止するとしていた路上生活者のキャンプの一掃を再開して、支援団体からの抗議を受けている」(p.11)と、まだ評価が定まらない人ではあるようですが、少しでもニューヨークを良い方向に進めてくれるよう、祈っています。


1590年から1877年までの間に記録された一揆の件数は3710件で、1年平均約13回、月1回はどこかで一揆をしていた計算になる。

p.12

結構一揆って、行われていたんですね。


近代になってできた村長とか町長という「長」のつく役職は、江戸時代には存在しない。村でも町でもトップは1人ではなく3人だった。村では「庄屋または名主」「組がしら」「百姓代」という3つの役割があり、彼らが代官や藩役人と年貢率やその他の交渉をおこなった。その時に持っていく交渉内容は住民の「寄合」で決められる。議会のようなものだが代議制ではなく、一家に一人が必ず出席する。

p.12

「トップは1人ではなく3人」、そして代議制ではなく合議制というのが面白いです。


このような合議制は鎌倉時代からあり、特に村に影響を与えたと思われるのは、僧侶の世界の「サンガ」という制度だった。合議制による集会のことで、話し合いが原則だが決まらなければ一枚の紙に二つの意見を書き、それぞれが賛成する方に線を引いて多数決する。その線のことを「合点(がってん)」と言った。江戸時代の寄合では何日もかけて熟議をするが、それでも結論がでなければやはり多数決にした。多数決は「仕方なく」行う方法だったのである。

p.12

なるほど、「多数決は『仕方なく』行う方法だった」のですね。


藩専売制とは、繭や藍など換金できる産物を、藩が農民から安く買い叩いて高く商人に売る方法である。藩に買い占められると、農民は市場に出せなくなり換金ができない。現金収入が少なくなるのである。

p.12


武士は自分の銃を持っておらず百姓は持っていた。猪などから農地を守るためである。

p.13

これ、意外でした。


そもそもテロは生活の必要から行われるのではなく、権力闘争である。テロリストは邪魔者を殺す。したがって江戸時代においてテロは農民ではなく武士や浪士が行うものだった。桜田門外の変や坂下門外の変などでは幕府高官を狙った。生麦事件その他の外国人殺傷、そして1863年の英国公使館焼き討ち事件等々の「攘夷」は外国人排斥テロである。この放火テロは高杉晋作と久坂玄瑞が計画し、火をつけたのは井上馨、伊藤博文などだった。明治政府を作った人々は、もとテロリストなのである。しかも井上馨と伊藤博文はその直後、知らぬ顔をして英国へ留学している。この伊藤博文が朝鮮半島の植民地化に尽力したことは知られている。

p.13

初代首相がテロの実行犯だったとは。そんな彼がテロで殺されたとは、皮肉です。


特集以外では、まず「スペシャルインタビュー」のレイの以下の言葉が印象的でした。

「女性がチャートを独占しているからといって、音楽業界が『正された』とは言えません。まだ先は長い。変わったと思いたいけれど、舞台裏は相変わらずで、権力の不均衡は続いているし、女性は今も男性と同等に扱われたいと願ってる。誰もがわかっていることです」

p.6

イギリスがそうなら、日本はまだまだ先は長いです。


オーストラリア南西部の港湾都市アルバニーで行われている、使用済みのカキの貝殻をリサイクルし、破壊されたサンゴ礁を再生する取り組み「食べた後の殻を捨てないで(Shuck Don't Chuck)」というプロジェクトは興味深いです。「現在までに、約1000tの貝殻を回収し、12haのサンゴ礁を再生できることを証明し」(p.17)たそうです。「今ではオーストラリア南部のほぼ全州で同様の活動をしており、サンゴ礁が失われた場所を特定しつつ、プロジェクトをさらに拡大している途中」(p.17)だとのこと。大切なのは、「消費者が持ち込みやすい場所に貝殻の回収箱が設置されてい」(p.17)ること。一般市民が気軽に取り組めなければ、続きませんよね?


「布施祐仁の点滅する平和のシグナル」も、これまでの2回同様、示唆に富んでいました。

日本は1976年、三木武夫内閣の時に、武器輸出を事実上全面的に禁止した。「平和国家としての立場から、武器輸出によって国際紛争等を助長することを回避するため」というのが、その理由だった。
一方、高市内閣は、武器輸出によって同盟国・同志国の抑止力・対処力を強化することが、平和にとってプラスになると捉えている。

p.19

三木内閣の考え方のままで良かったのに。

川原泉の「アップルジャック」に「ほんとにねえ…もし女がこの世を支配していたら 戦争も口喧嘩ぐらいですむのにね」(川原泉、『空の食欲魔人』、1994、p.95)という名言があり、ずっとそれを信じていたのですが、残念ながら違うのかもしれません。

↑kindle版


戦争を抑止するための軍拡が結果的に戦争の危機を高めてしまうことを「安全保障のジレンマ」というが、東アジアはまさにこれに陥りつつあるように見える。

p.19

本当に!


『チョルノービリ・マニュアル 原発事故を生きる』の紹介記事も興味深かったです。

著者のブラウンさんは、科学技術である原子力が、身体と生命を管理する支配体制をどのようにつくってきたのか、その特徴を核や放射能被害の面から長年調査してきた。

p.20

同原発事故後、当時のソ連政府や関係団体などは被爆地域の住民に向けて多数の「マニュアル」を作成して配布したが、それによって人々が「やすやすと騙され、生き残るためのマニュアルが嘘の塊と気が付いた時にはもう遅かった」(同書・「日本語版への序文」)という。そこで同書では、原発事故をめぐり、中央と地方政府、科学者、原子力産業、西側諸国などが複雑に絡み合う権力構造があることを、膨大な資料と証言をもとに描き出した。

pp.20-21

同書が日本翻訳大賞を受賞したことへの、ブラウンさんの感想も良いです。

「翻訳チームの受賞をうれしく、誇りに感じている、翻訳者がそれぞれ膨大な時間を捧げ、Zoomで集まりながら取り組んだ共同作業で、AIで組み立てられるようなものではない、本当の意味での集合知だった」と讃える。

p.21


なおこの記事は以下のリンクから、全文読むことができます。


『わたしの聖なるインド』のノウシーン・ハーン監督のインタビュー記事も、大変勉強になりました。

人口数はいまや14億6000万人を超え、中国を抜いて世界一となったインド。約80%(約11億人)がヒンドゥー教徒だが、14%(約2億人)がイスラーム教徒、2.3%がキリスト教徒、1.7%がシク教徒……と多民族・多宗教の人々が暮らしている。しかし2014年にインド人民党のモディ政権となって以降、ヒンドゥー至上主義が台頭、イスラーム教徒排斥の動きが強まっている。

p.22

インドは主にヒンドゥー教徒の国、パキスタンはイスラーム教徒の国として戦後独立したわけですが、思った以上にイスラーム教徒はいるのだなと思いました。ちなみにパキスタン国内のヒンドゥー教徒の割合は2023年現在1.6%だそうです。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/pakistan/data.html#section1


冒頭、カメラは2019年12月の「市民権改正法(CAA)」成立を機に起こった学生たちによる抗議運動を映し出す。CAAとは、イスラーム教徒を除く宗教的少数派の難民の市民権申請手続きを緩和するもので、イスラーム教徒を意図的に排除する目的で制定されたといわれる。

p.22

CAAに加え、モディ政権が新たに推し進めようとしていたのが”インド人であること”を証明する国民登録の制度だ。
「国民登録に必要な書類として要求されたのが、インドで生まれ育ったことを証明する公的な書類です。しかし、貧困層や女性、性的マイノリティの人たちはそうした書類をもっていない人も多い。そうした人たちが生きていくことに非常に大きな影響を及ぼしうる法律だと感じたことで、連帯が広がっていったのです」

p.23

CAAへの抗議には「女性たちがその最初のステップを踏み、それを見て他の人たちが続いた」、「特徴的だったのは、マイノリティの人々がともに路上に出たこと」(p.23)だそうです。

ヒンドゥー至上主義など捨て、多民族・多宗教の人々が共存するインドであってほしいものです。


マイ・オピニオンで井上陽子さんが報告されていた、京都府立植物園存亡の危機の話には驚きました。

2020年、京都府から突然「北山エリア整備基本計画」(植物園を出入り自由な緑化公園にし、バックヤードを縮小して商業施設を建て、すぐ隣にある京都府立大学の体育館を1万人収容のシアターコンプレックスにする案)が発表されたからです。

p.26

植物園を縮小して商業施設! 大学の体育館をシアターコンプレックス! 古都がやることとは思えません。3年間の地道な計画撤回運動の末、「ようやく24年3月に計画の見直しに追い込むことができたのですが、まだ京都府側は計画の完全撤回を表明してはいません」(p.26)とのことです。この件は注視していかねばなりませんね。


28ページの「ホームレスの実態に関する全国調査(概数調査)」(26年1月、厚労省)についての記事も気になります。

人数は過去最少を更新したものの、前年比の減少幅は110人(4.2%)とこれまでで最も小さな下げ幅にとどまりました。
また、性別を目視で推認できた人のうち、男性は2346人から2190人へと前年比で約7%減少していましたが、女性は163人から192人へと約18%も増加。都道府県別に見ても、減少傾向が続いている地域(東京都、福岡県など)がある一方、減少から微増に転じた地域(大阪府、神奈川県など)もあるなど、従前とは異なる傾向が見られます。

p.28

本調査についてはこれまでも、調査対象が屋外にいる人に限られていて、ネットカフェや知人宅など、広い意味でのホームレス状態にいる人たちが対象から外されている点も限界として指摘されてきました。

p.28

ネットカフェにいる人、かなり多いのではないでしょうか。また、屋外にいても「襲撃等を恐れて一晩中歩き続けている人」は、把握できませんよね。


今号は、普段以上に学びが多かったです。


『ビッグイシュー日本版』のバックナンバーは、街角の販売者さんが号によってはお持ちですし、サイトからは3冊以上であれば送付販売していただけます。


コロナ禍のあおりで、路上での「ビッグイシュー」の販売量が減少しているそうです。3ヵ月間の通信販売で、販売員さんたちを支援することもできます。


もちろん年間での定期購読も可能です。我が家はこの方法で応援させていただいています。


見出し画像は、今号の封筒に貼られていたシールです。「小商い」で発送作業をしてくださった安東さん、いつもありがとうございます。




いいなと思ったら応援しよう!

margrete(まるぐれーて) 記事の内容が、お役に立てれば幸いです。頂いたサポートは、記事を書くための書籍の購入代や映画のチケット代などの軍資金として、ありがたく使わせていただきます。