見出し画像

固定金利は情弱かも?という話

やや煽りがちなタイトルですみません。今週こんなポストがバズりました。

最近は日本の政策金利が上昇してきたことで、

「10年前に固定金利0.9%で買った当時の自分を褒めたい!」
「低金利だからって変動金利組んだ人は情弱だよな」
「これから組むけど変動か固定か迷う…」
「変動金利の連中は震えて待て」


などのポストが毎日のように流れてくるようになりました。
金利上昇=固定金利が有利という図式が多くの人の脳内にはあるようです。

しかし、本当にそうでしょうか?この記事ではそこに疑問を呈してみたいと思います。みんな何となく気になってるけど勘違いの多い変動金利vs固定金利どっちが有利!?のテーマについて解き明かします。

最後まで読んでいただければ、「あれ、震えて待ってるのはもしかして固定金利の方々では?」となるかも。


①変動金利と固定金利の仕組み

まず前提として、変動金利と固定金利は「何に連動して決まるか」が根本的に異なります。この違いを理解せずに変動金利と固定金利を語ることは出来ません。

◆変動金利は短期プライムレートに連動する

変動金利の基準となるのは、短期プライムレート(短プラ)です。短プラとは、銀行が信用力の高い企業に対して短期(1年以内)の融資をする際に適用する最優遇金利のことです。日本銀行が定める政策金利(無担保コール翌日物金利)に連動して動く仕組みになっており、基本的には日銀が利上げをすると短プラも引き上げられ、住宅ローンの変動金利も上がります。

ただし、政策金利が動いてから住宅ローンの金利が変わるまでには、通常3〜6ヶ月程度のタイムラグがあります。また半年ごとの見直しが一般的であるため、政策金利が上がってもすぐに返済額が増えるわけではありません。

◆固定金利は長期金利に連動する

一方、固定金利(フラット35などの全期間固定型)が連動するのは長期金利です。

長期金利とは、主に10年物国債の利回りのことです。国債の需給や将来のインフレ期待、世界の金融環境などを反映して市場で日々変動します。政策金利(日銀の意思決定)だけで決まるものではなく、市場参加者の「将来の金利はこうなるだろう」という期待が直接価格に反映されます。

◆金利上昇局面では、長期金利の方が圧倒的に早く上がる

短プラの基礎になる政策金利は日銀が毎月の会合で決めるもの、長期金利は市場が決めるもので、決める主体もタイミングもまるで異なります。

日銀が利上げを示唆したり、インフレ期待が高まったりすると、長期金利は市場が「先読み」して即座に動きます。一方、短プラは日銀の政策決定に紐づいているため、動くのは後です。市場が長期の金利上昇を予測すると、短プラを置いて10年先までの金利上昇を勝手に長期金利は織り込みぐわーーーっと上がってしまいます。

実際、2010年代には固定と変動の金利差は0.7%~0.8%あたりをうろうろしていたのですが、2025年に高市政権が誕生し、積極財政によるインフレ→将来の金利上昇を織り込み始めてから急上昇し今は2.2%を超えています。

出典:モゲチェック

つまり「金利が上がり始めてから」、「金利上昇が怖いから固定にしよう」と考えて固定を選ぶと、すでに将来を爆速で織り込んで高くなりきった固定金利を掴んでいる可能性があります。変動金利が固定金利に追いつくには、市場の読み通りに短プラが大幅に上昇し続ける必要があります。

②変動vs固定、どちらが得かは何で決まるか

住宅ローンの金利選択を巡る議論は、大抵「変動金利は上がるから固定が安心」か「いやいや固定は割高」という話ばかりですが、正しい問いが立てられていないので議論が収束しません。

どちらが得かを決めるにあたり、正しい問いは次の二つです。

◆第1:金利が何%になると変動が固定の総費用を上回るか

見るべきは金利の多寡ではなく、金利×ローン残高×年数で決まる総費用です。これをよく覚えておいてください。

この観点で見ると、実は返済初期のローン残高が多い時期に金利が低いことが有利という、鉄則が分かります。つまり、金利上昇が怖いからと言って先回りで急上昇した長期金利連動の固定金利で組むと、不利になる可能性がかなり高いです。以下のモゲチェックさんのグラフが非常に分かりやすい可視化になっています(グラフは元利均等)。

出典:モゲチェック

◆第2:その損益分岐点に到達するまでに何年かかるか

金利が上昇しても、変動の月々返済が固定を超えるまでにある程度の時間があります。極端な話、35年の返済期間中の、30年目で固定が総費用で有利になったとしても、そのまま固定の勝ちとは言いにくいです

理由は、割引現在価値と言って、経済的には5年後の1000万円と30年後の1000万円では前者の方が圧倒的に高く評価されるためです。具体的には初期に資本があった方が運用で増やすことが出来たり、インフレで金の価値が目減りしていくためですが、詳しくは後のシミュレーションで表現します。

この二つを計算した上でなければ、変動か固定かを判断することはできません。以下、2016年組と2026年組に分けて順番に見ていきます。

③2016年組の現在地

固定金利ですら0.9%という史上最低水準に低金利だった2016年1月に住宅ローンを組んで10年経った今どうなってるかをシミュレーションします。

◆月々の支払いの差

1億円・35年で住宅ローンを組んだとします。当時の選択肢は大きく二つ。

  • 変動金利:0.20%(大手ネット系銀行水準)

  • 固定金利:0.90%(フラット35等の全期間固定)

固定を選んだ人は、月々277,649円を35年間払い続けます。変動を選んだ人は、その後の金利環境に応じて返済額が変わります。実際の政策金利の動きに3ヶ月程度のラグを加味すると、以下のような推移になります。

変動金利組の返済額イメージ

2026年8月現在、変動を選んだ人の月々返済は固定金利を僅かに上回っており、これを見て多くの人が「固定の大勝利!」と思っているのが今です。

◆2026年8月時点での本当の差

月々の返済額だけ見ると変動が逆転されてますが、それは話の一面です。2026年8月時点でのローン残高を比較します。

固定を選んだ人の残債は約7,301万円。変動を選んだ人の残債は約7,087万円。変動を選んだ人のほうが、残債が214万円少ない状態です。

次に、10年間の月々支払い差額の累計を見ます。

固定の月々返済は277,649円、変動は当初246,546円から段階的に上昇して現在279,173円まで来ています。この差額を10年間積み上げると、変動の借り手の手元には352万円が残っています。金利が低い分だけ毎月の支払いが少なく、その浮いた分が手元に積み上がった計算です。

結果的に変動組は投資などの活動をしていなくても現時点で566万円ほど既に優位を築いている状況です。

さて、ここに前章で言及した割引現在価値(お金は早く手元にあるほど有利)という考え方が更に加わります。例えば変動金利を選んだことで毎月浮いたお金を、投資信託(オールカントリー)に積み立てていたとします。そうすると2026年8月には352万円の投資元本が538万円に増えて186万円も儲かっています。

この通り、早期に資金が手元にあるほど価値が高く、例のように投資に当てていれば後に大きな経済的優位性を得られます。
(※オルカンのリターンは一般的な指標となる年率7%と置きます)

このように、2016年に固定金利を選んだ人は、2026年現在で毎月の支払額が変動金利より安くなったから勝ちではなく、既に抱えてしまったビハインド(566万円~752万円)を、残り何年で取り返せるのか、が勝敗を決める命題になります。

◆さて固定金利勢はこのビハインドを取り返せるのか!?

以下の条件で固定金利が変動金利より有利になる条件は何なのか(変動金利が何%まで上がればいいのか)、シミュレーションをしてみます。

シミュレーション条件
・金利:今から10年間かけて〇%に線形に上昇し、その後完済まで横ばい
・投資:変動金利勢はオルカン538万円を年利7%で運用し追加入金は無し
・投資:固定金利勢は浮いた手取りを毎月オルカンに積み立てし年利7%

損益分岐点の結果は以下となりました。
①投資なし:変動金利が2.05%に到達が条件(24年後)
②投資あり:変動金利が3.25%に到達が条件(22年後)

投資なしはともかく、投資している場合の逆転は相当骨が折れますね。
金利が2.0%上昇(政策金利3.0%)になってそれが2051年まで継続する前提で、やっと2048年の完済間近に滑り込み逆転・・・という感じです。

これはまさに割引現在価値の重さが響いています。
変動金利勢は2026年時点で538万円のオルカンという大きな雪だるまを作っており、追加の雪(入金)を集めなくても転がっていくだけで勝手に雪だるまが年率7%ずつ増えるので複利が加速していきます。

逆に固定金利勢は2026年4月にようやく毎月の支払額が変動より少なくなったばかりで、雪だるまを作り始めたばかり。それも毎月1500円という極少額です。大きな雪だるまを転がしてる変動勢の横で小さな雪のかけらを集め始めている姿を想像してもらえれば、如何に大変なレースか分かるでしょう。

尚、政策金利が2036年に3.0%になりそれが2051年まで続く、というシナリオの現実性はここでは議論しません。そんな未来のことは分かりませんし、専門家でも外すようなことを素人の私が予想したとて到底保証できません。

ただ、以下は私の超個人的感想です。
政策金利3%というのは平成バブルが始まる前の1980年代後半の水準です。日本国はそこから失われた30年を過ごし、少子高齢化などの構造的な衰退に拍車がかかり、失われた40年に向かっています。特に経済が強くなる材料のないまま、次の30年を政策金利3.0%という高金利で維持することが可能なのかはやや疑問です。日本の景気サイクルを見ていると、一時的に高金利になっても数年で不景気が来て利下げするというサイクルが繰り返されていますし、次の30年もその可能性の方が高いかなと思います(個人的な感想です)。

日本の景気サイクルと金利の推移

④2026年から借りる人の分岐点

前章が本記事のメインですが、2026年から新規で借りる方向けに、変動vs固定どっちがお得!?シミュレーションを、同じ方法でやってみます。

シミュレーション条件
・借入金額:1億円を2026年8月に借り入れ
・変動金利:1.25%で当初借り入れ→10年間かけて〇%に線形に上昇し、その後完済まで横ばい
・固定金利:フラット35準拠で借入金利3.4%(当初5年は優遇金利2.4%)
・投資:相手方に対して月々有利な金額をオルカンに積み立て投資し、年利7%で運用。毎月の有利が無くなった時点で積み立てを停止し、その時点で保有する投資元本を年利7%で運用。

損益分岐点の結果は以下となりました。
①投資なし:変動金利が3.80%に到達が条件(32年後に逆転)
②投資あり:変動金利が4.12%に到達が条件(30年後に逆転)

はい、冒頭の章で述べた通り、金利が上がり始めた今から固定金利を組んでも、長期金利が先回りで暴騰しているので変動と大きな金利差が開いています。その結果、固定金利の逆転シナリオは尚更厳しく、投資ありだと政策金利約4.0%が2036年から2061年まで継続する必要があり、ほぼ平成バブル期のような金利がずっと続くことを想定する必要があります。

まとめ

本記事で持ち帰っていただきたいポイントは以下です。

  • 変動と固定は「連動する金利の種類」が異なる。変動→短期プライムレート(≒日銀の政策金利)/ 固定→長期金利(市場が決める)

  • 金利上昇局面になってから固定金利を選ぶと、市場がすでに「遥か将来まで先読み」した高い金利を掴まされるリスクがある。「金利上がってきて怖いから固定」は高コストになりやすい。

  • どちらが得かを判断する正しい軸は「金利の高低」ではなく、
    ①変動が固定の「総費用」を超えるのは金利何%のときか?
    ②その損益分岐点に達するまで何年かかるか?

  • あまり知られていない変動金利の優位性は以下
    ①ローンは残高の多い初期に金利が低い方ほど総費用が下がる
    ②将来のお金より、今手元にあるお金の方の価値が高く、投資に回せる

  • 2016年組の変動勢は10年間で566〜752万円の優位を既に築いており固定勢がこれを巻き返すには政策金利3%が2051年まで継続する必要がある。

  • 2026年現在から固定金利でローンを組む場合、変動金利より経済的有利になるには政策金利4%が2036年から2061年まで継続する必要があり、バブル期のような金利がずっと続くという前提が必要。

  • 将来の金利は全く分からないが、金利が高くなると不景気になってまた下がるという日本の景気サイクルを見ていると、高金利が長期間日本に貼り付くのは難しいのではないか…という超個人的な感想。

以上です。

私はこれらの前提が頭にあるので、「変動金利勢は震えて眠れ」、などの煽りポストを見ると、震えて眠っているのはどちらかというと固定金利の人のような…?といつも不思議に思います。

現時点で背負った大幅なビハインドを今から必死に取り返していくのは固定金利の人達だからです。

その勝敗は今後の金利のみに懸かっており、超低金利で30年延命してきた日本経済に、バブル期前後並みの歴史的な高金利の復活と長期定着を毎晩願わなくてはなりません。仮にそれだけの高金利が張り付く時代が来るなら不動産価格にもネガティブな可能性が高く、それはそれで持ち家の価値が暴落するので、別の意味で震えて眠る羽目にもなりそうです。

個人的には変動金利を選んでよかったと今でも強く思いますし、今から組む人に相談されたら迷わず変動金利を勧めますね。この記事を多くの方に読んで貰って、数えきれないほど繰り返されてきた変動vs固定の議論の解像度が上がり、少しでも前進すると嬉しいです。

ご相談フォーム

有料ですが、ご相談は1時間(2万円)の枠で受けてますのでどうぞ!

今後の市況見通し、買いの戦略(手堅い物件の選定)、売り方の戦略(値付けや上手い売り方)、買替の戦略、住宅ローンおよび投資ローンの知識、不動産を利確して入った金融資産をどうしているか、などが代表的な相談です。

様々なコネで情報収集してるので、表に流通していない市場情報や、Xで話すと角が立つ or 自分が不利になるので言えない情報などもクローズドな場なので話せます。不動産とお金に関することであれば毎日研究してるので結構詳しい方です。累計約500人ほどのご相談を受けています(2026年夏時点)。


他にも色々なnoteを書いています。

◆ローンに関する別note

◆先日初チャレンジの有料note(150人以上に買っていただきましたm(__)m)

◆1番いいねがついたnote

◆その他いろいろ


いいなと思ったら応援しよう!

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー