鏡の揺らぎの共犯者01 |数字を手放した美容室が店販30万から1,000万円にたどり着くまで
—これは、実話の物語—
プロローグ 鏡の中の共犯者
鏡は、いつもそこにある。
私の迷いを、静かに映しながら。
もしかしたら鏡は、
ずっと私の共犯者だったのかもしれない。
ある夜、夢を見た。
女性が、声も立てずに泣いていた。
どこにいるのか。
なぜ泣いているのか。
それは、分からなかった。
ただ、何かをあきらめたように、
そこに座っていた。
両手が、膝の上で、静かに重なっていた。
ハッと、目が覚めた。
窓の外は、まだ暗かった。
夢だった。
でも、その夢は、なぜかすぐには消えなかった。
朝になっても、店に向かう車の中でも、
ふとした瞬間に浮かんでくる。
誰だったのだろう。
でも、なぜか他人とは思えなかった。
そんなことを思いながら、私はいつものように
美容室の鍵を開けた。
ドライヤーの音。
シャンプー台から聞こえる水の音。
甘い香りに混じる、少しだけ刺すような薬剤の匂い。
鏡の前で、少しずつ表情がやわらいでいく人たち。
いつもの美容室だった。
その日も、そうなるはずだった。
午後の光が、鏡の中でゆっくりと傾いていった。
閉店後の美容室は、少しだけ寂しい。
賑やかだった声が、すっと引いていく。
使い終わったクロスが、鏡の前に畳まれている。
掃ききれなかった細い髪が
床にほんの少し残っている。
冷たくなった椅子に、手をそっと置いた。
昼間の温かさは、もうなかった。
その夜。
長く一緒に働いてきたスタッフが、
私の向かいに座った。
コーヒーカップに両手を添えたまま
なかなか顔を上げなかった。
そして、静かに言った。
「もう、ついていけません」
それは、夢ではなかった。
私は何度も、鏡の前に立ってきた。
お客様の髪を見てきた。
スタッフの表情を見てきた。
でも一番、見ないようにしてきたのは
迷っている自分自身だったのかもしれない。
数字を追えば、何かが守れると思っていた。
大切な人と働くほど、言葉は難しくなる。
想いがあるほど、伝え方に迷う。
信じたいのに、不安になる。
任せたいのに、口を出したくなる。
守りたいのに、手放せない。
そんな矛盾を抱えたまま
それでも店を続けてきた
ひとりの美容室経営者の話だ。
あなたに、聞いてみたいことがあります。
あなたは、何を大切にしてきましたか。
そして
その大切なものを守るために、
何かを手放したことはありますか。
鏡の揺らぎの共犯者
* * 目次 * *
鏡の揺らぎの共犯者 02|
第一章 大切な人との共犯 →
鏡の揺らぎの共犯者 03|
第二章 スタッフとの共犯 →
鏡の揺らぎの共犯者 04|
第三章 場の空気との共犯 →
鏡の揺らぎの共犯者 05|
第四章 らしさとの共犯→
鏡の揺らぎの共犯者 06|
第五章 メッセージとの共犯→
鏡の揺らぎの共犯者 07|
第六章 絲との共犯→
鏡の揺らぎの共犯者 08|
第七章 「ことば」との共犯→
鏡の揺らぎの共犯者 09|
第八章 新たな共犯者→
鏡の揺らぎの共犯者 10|
最終章 光と影の共犯者→
鏡の揺らぎの共犯者 11|
エピローグ あなたとの共犯→
