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知識|知らないものに、センスは働かない

知識


前回は、ビジネスセンスを「違和感を拾う力」として書いた。

売上、会議、顧客、数字、組織。

そこに出ている小さなズレを、手遅れになる前に拾えるかどうか。
その差が、ビジネスセンスに見える。

前回の記事はこちら

ただ、ここで一つ問題がある。

知らないものには、違和感を持てない。

市場の崩れ方を知らなければ、危ない成長に気づけない。
組織が壊れる前兆を知らなければ、現場の沈黙を流してしまう。
数字の歪みを知らなければ、売上が伸びているだけで安心してしまう。
顧客が離れる前の空気を知らなければ、解約が出るまで問題に気づけない。

センスは、何もないところから湧いてくるものではない。

知っているから、気づける。
見たことがあるから、疑える。
比べる対象があるから、ズレが見える。

知らないものに、センスは働かない。


センスは、知識の量ではなく、比較対象の量で決まる


ビジネスセンスという言葉は、どこか感覚的に聞こえる。

勘がいい。
発想が鋭い。
判断が早い。
空気を読むのがうまい。

そう見える人は、特別な直感を持っているように見える。
でも実際には、頭の中に比較対象が多い。

似た会社を見ている。
似た市場を見ている。
似た失敗を見ている。
似た組織の崩れ方を見ている。
似た数字の歪みを見ている。
似た顧客離れを見ている。

だから、目の前の出来事を見たときに、過去のパターンと照合できる。

「この伸び方は危ない」
「この会議の増え方は、決まっていない会社の症状だ」
「この採用の仕方は、入れた後に崩れる」
「この売上は、取るほど現場が壊れる」
「この市場の見方は、前提を間違えている」

こういう判断は、何もないところから出ているわけではない。

知識と経験が、頭の中で比較対象になっている。
その比較対象があるから、違和感を拾える。


センスの正体は、知識そのものではない

蓄積された知識が、目の前の現実とぶつかったときに生まれる違和感である。

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知識がないと、異常を普通だと思ってしまう


怖いのは、知らないことではない。
知らないまま、普通だと思ってしまうことだ。

たとえば、売上が伸びている会社がある。

毎月の売上は上がっている。
新規顧客も増えている。
営業資料も整ってきた。
採用も進んでいる。

表面だけ見れば、順調に見える。
でも、知っている人は別のところを見る。

粗利は残っているのか。
受注単価は下がっていないか。
解約率は上がっていないか。
顧客獲得コストは重くなっていないか。
営業の工数は増えすぎていないか。
現場の対応負荷は見えているか。
キャッシュは本当に残っているか。

こういう見方を知らないと、売上の伸びだけで安心してしまう。

成長しているように見える会社ほど、内側では無理をしていることがある。

売上を取りに行くほど、利益が残らない。
顧客を増やすほど、現場が疲弊する。
採用を増やすほど、責任が曖昧になる。
会議を増やすほど、意思決定が遅くなる。

知識がないと、この状態を異常だと思えない。

むしろ、
頑張っている会社に見える。
前に進んでいる会社に見える。
成長している会社に見える。

でも、構造を知っている人には、別のものが見えている。

伸びているのではなく、無理をしている。
管理しているのではなく、資料が増えているだけ。
任せているのではなく、責任を曖昧にしているだけ。
市場を見ているのではなく、都合のいい数字を見ているだけ。

この違いは、才能ではない。
知っているかどうかで決まる。

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現場で起きる「知識不足」は、かなり見えにくい


知識不足は、本人には自覚しづらい。
なぜなら、知らないことは疑えないからだ。

たとえば、TAMを見る。
市場規模が大きい。
成長率も高い。
競合もいる。
投資家にも説明しやすい。

だから、この市場は魅力的だと思う。

でも、
市場が大きいことと、自社が勝てることは違う。
市場が伸びていることと、利益が残ることも違う。
顧客がいることと、今の自社が届けられることも違う。

この違いを知らないと、TAMを見ただけで市場を見た気になる。


組織では

優秀な人を採った。
役職もつけた。
会議にも出している。
数字も持たせている。

だから、リーダーが育っていると思う。

でも、
役職を渡すことと、責任を渡すことは違う。
数字を持たせることと、判断基準を渡すことも違う。
会議に出すことと、意思決定に参加させることも違う。

この違いを知らないと、育成しているつもりで依存を増やす。

経営管理では

KPIを置いた。
予実管理をしている。
会議で数字を確認している。
資料も毎月作っている。

だから、管理できていると思う。


でも、
数字を並べることと、意思決定に使うことは違う。
差異を見ることと、打ち手を変えることも違う。
報告することと、会社を動かすことも違う。

この違いを知らないと、管理しているつもりで会社は止まる。

知識不足は、何かを知らないだけでは終わらない。
見えているものの意味を、間違える。

そこが怖い。


知識は、答えを出すためではなく、問いを持つためにある

知識というと、答えを知っていることだと思われやすい。

でも、ビジネスにおける知識は、答えを出すためだけにあるわけではない。
むしろ、問いを持つためにある。

売上が伸びている

そこで終わらせずに、「この売上は利益を残しているのか」と問えるか。

市場が大きい

そこで終わらせずに、「この市場で自社はどこから取れるのか」と問えるか。

採用が進んでいる

そこで終わらせずに、「人が増えて、責任は明確になっているのか」と問えるか。

会議が増えている

そこで終わらせずに、「何を決める会議なのか」と問えるか。

KPIを見ている

そこで終わらせずに、「この数字は次の打ち手に接続しているのか」と問えるか。

知識がある人は、すぐに答えを出す人ではない。
見るべき論点を増やせる人だ。


事業を見る立場になると、表面上の順調さに安心してはいけない

数字、顧客、組織、会議、現場の空気を並べて見たときに、どこかがズレていないかを問う必要がある。

その問いを持てるかどうかは、知識の量で変わる。

知らなければ、問いは生まれない。
問いがなければ、違和感も拾えない。

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知識は、現場とつながって初めてセンスになる


ただし、知識を集めるだけでは足りない。

本を読んだ。
フレームワークを覚えた。
市場分析を学んだ。
会計を勉強した。
組織論を知った。

それだけでは、センスにはならない。
知識は、現場とつながって初めて使える。

たとえば、

3Cを知っているだけでは意味がない。

顧客、競合、自社を並べて、今どこにズレがあるのかを見なければいけない。

SWOTを知っているだけでは意味がない。

強み、弱み、機会、脅威を整理して、何を選び、何を捨てるのかまで決めなければいけない。


TAMを知っているだけでは意味がない。

大きな市場を見て満足するのではなく、自社が実際に届く顧客、勝てる切り口、取れる順番まで考えなければいけない。


KPIを知っているだけでは意味がない。

数字を並べるのではなく、どの数字がズレたら、どの打ち手を変えるのかまで決めなければいけない。


知識を持っていることと、使えることは違う。


センスがある人は、知識を現場に当てる

この会社では何がズレているのか。
この市場ではどこが見えていないのか。
この顧客は何にお金を払っているのか。
この数字は何を隠しているのか。
この会議は何を決めていないのか。
この組織はどこで責任が止まっているのか。

知識を、現場の違和感にぶつける。
そこで初めて、知識はセンスに変わる。

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比較対象が少ないと、判断は好みになる


比較対象が少ない人は、判断が好みになりやすい。

この施策は良さそう。
この市場は伸びそう。
この人は優秀そう。
この資料はきれい。
この会議は前向きだった。
この数字は悪くない。

もちろん、感覚は大事だ。
でも、比較対象がない感覚は危ない。

過去に
似た失敗を見ていなければ、危ない兆候を見落とす。
似た市場を見ていなければ、大きさだけで判断する。
似た組織崩壊を見ていなければ、沈黙を安定だと勘違いする。
似た数字の歪みを見ていなければ、売上の伸びを成長だと思い込む。

比較対象があるから、違和感を持てる。

「あの会社も、最初は同じように売上が伸びていた」
「あの組織も、退職者が出る前に会議で本音が消えていた」
「あの事業も、市場規模は大きかったが、顧客獲得で詰まった」
「あの採用も、優秀な人を入れたのに責任設計で崩れた」

こういう引き出しがある人は、目の前の現象を単体で見ない。
だからこそ、判断が少しずつ磨かれていく。


センスは、突然鋭くなるものではない

比較対象が増えた分だけ、少しずつズレに気づけるようになる。

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明日使える基準


知識を増やすときは、ただ情報を集めない方がいい。

大事なのは、判断に使える形で残すことだ。

見るべきは、次の5つ。

1つ目

どんな前提で成り立っていたのか。

その成功や失敗は、市場、顧客、タイミング、組織、資金のどの条件で起きたのか。


2つ目

どこでズレが出たのか。

数字なのか、顧客なのか、組織なのか、会議なのか、責任なのか。


3つ目

最初にどんな前兆があったのか。

売上、解約、現場の空気、会議、チャット、顧客の反応のどこに出ていたのか。


4つ目

なぜ見落とされたのか。

都合のいい数字を見ていたのか。
現場の声を拾っていなかったのか。
比較対象がなかったのか。
誰も責任を持って見ていなかったのか。


5つ目

自分の会社ならどこに出るか。

この事例が自社で起きるなら、どの数字、どの会議、どの顧客、どの組織の空気に出るのか。

知識は、覚えるために集めるのではない。
だから、センスを磨きたいなら、まず知るしかない。

ただし、知識を増やすだけでは足りない。

その知識を、今いる会社、見ている市場、向き合っている顧客、動かしている組織に当てなければいけない。

そこまでやって初めて、知識はビジネスセンスになる。


市場を見るとき、TAMだけを見ていると判断を間違える。

市場規模を見ているようで、実は自社が勝てる条件を見ていないことがある。

その話は、過去にこちらの記事でも書きました。
「〖市場〗①TAMを見ている会社は、なぜ負けるのか」

ビジネスセンスは、知識なしには磨かれません。
ただし、知識を集めるだけでも磨かれません。

知識を、現場の違和感にぶつける。
そこから、判断に使えるセンスが少しずつ育っていきます。


次回は、「文脈」について書きます。

同じ打ち手でも、会社によって正解は変わる。

このテーマに少しでも引っかかった方は、スキやフォローをしてもらえると嬉しいです。

次回以降も、ビジネスセンスを才能ではなく、実務で磨ける判断基準として分解していきます。

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