真空管ギターアンプを作ろう~③回路検討 その1編
1 前回までのあらすじ
もらいものの電動サンダーをもっと使いたい→ギターの次はアンプじゃないか、という発想で、真空管ギターアンプを作ってみよう、というのがテーマである(①構想編)。
まずは電子回路の勉強をしながら作成するアンプの回路を考える、はずであったが、キャビネットについて検討しているうちに、いつの間にか1/3 scale full tube amp cabinetが生み出されてしまったところまでが前回ご報告したところである(②キャビネット設計編)。
今回はいよいよ、文系脳と電気回路の格闘、その顛末の一端をご覧いただきたい。
2 参考書など
いつかは自らの手でフルチューブアンプを作る日が来るであろうことに備えて、どこのご家庭にも真空管アンプに関する書籍の数冊くらいはあるはずである。
当然、我が家の本棚にも何冊かの書籍が…

これらの書籍を参考書代わりに、いざ回路の検討!なにぶんにも文系脳なので、…(以下省略)。
3 参考回路はDr.ZのMini Z
【mini Z ≠ 京商のラジコン】
いざ検討!!とはいっても、完全にゼロの状態から真空管の回路を理解して回路を作るなんて無理無謀な話である。なにかパクり元参考になる回路を見つけて、それをベースに勉強していこう。まあ、かのレオ・フェンダー先生のChampの回路だって、そのベースはRCA Receiving Tube Manualに掲載された回路図だとかいう話もあるし…
というわけで、真空管アンプに関する基本的な知識をひたすら吸収しながらネットの海を漂流していたところ、「mini Z」なるアンプの回路図を発見した。
「mini Z」と言っても、京商の手のひらサイズのラジコンではない(あれはあれで面白そうだが…)。アメリカのDr.Zというメーカーが出していた出力5Wくらいの小さなアンプである。プリ管に12AX7、パワー管にEL84を使用し、コンボモデルは10inchスピーカー搭載。なんならこれを丸パクリ完コピすればいいんじゃないの、ってくらいにお誂え向きである。
このmini Zの回路図や、Fender Champの回路図、参考書やインターネット上の情報などを駆使した結果、なんとなく回路が出来上がった。
出来上がった回路の説明、の前にちょっとだけ「電気回路」についてのお話…
【電気回路、回路図と知的所有権について】
「電気回路」というグレーゾーン
電気回路を図示した「回路図」は、書籍などの著作物と同様に、その作成者の著作物として保護の対象となる(著作権法上の「図形著作」)。また、部品を実装する「基板」のデザインなども著作物として取り扱われる。ある電機回路が特許を取得しているならば、それをパクれば特許権侵害である。
しかし、「電気回路」それ自体=「回路図」に書かれる前の特定の部品の組み合わせという概念は、直接には著作権法による保護の対象とはならないとされている。これは、概念それ自体は「アイディア」にすぎず、回路図として図面化されたときにはじめて著作権法の対象物となるという考え方によるものである。したがって、「電気回路」それ自体はそれをパクったとしても法的な問題はない、かのような扱いを受けている。
エフェクターの話
電気回路は、その権利性がグレーゾーンにある。そのため、先達が考えた電気回路に後進が手を加え、ブラッシュアップがなされてきたという側面がある。作成者以外の者が利用し、手を加えることができるという意味では、ある種の「オープンソース」であると言えるかもしれない。
しかし、電気回路それ自体は知的財産権としての保護がなされない、とか、基板のレイアウトを丸パクリしなければ問題ない、というような捉え方がどのような事態をもたらしただろうか。例えば、エフェクターの世界である。
エフェクターの世界では、個人や小さなガレージメーカーが独創的なサウンドのエフェクターを作り出し、それを著名アーティストが使うことで世に広まる、といった素敵なストーリーがいくつも知られている。
しかし、いつころからか、個人や小さなメーカーが時間を費やして作り上げた独創的なサウンドのエフェクターが、しばらくたったら中華ブランドに丸パクリされ、しかもそっちの方が安いから本家が売れなくなってしまうなどという現象が横行するようになってしまった。さらに、それなりのネームバリューを持つブランドさえも、今現在は作られていないから、という理由で少し前までガレージメーカーが作っていたエフェクターを臆面もなく市販している。また、実際はパクりなのに、あたかも自分で設計したかのように喧伝するようなメーカーもある。結果、独創的なガレージメーカーは縮小したり、つぶれたり…
「オープンソース」は、あくまでも作成者がソースコードを無償で公開し、その利用、改変について承諾をしているものである。しかし、エフェクターの回路のパクられ元は、大資本のメーカーがそれをパクってビジネスをうまくやることを承諾していたわけではないし、そんなこと承諾するはずがないのに…
知的財産権の本質
そもそも、著作物に知的財産権として法的保護が及ぶのはどうしてだろうか?その作者の思想・アイディアが実体化されたものが著作物だからである。
思想・アイディアは個人の人格・尊厳そのものである。これが外部化した表現活動の自由・権利は、当然、最大限に保障されなければならない。そして、保障されるべき事由・権利には、自らの思想・アイディアを剽窃されない権利が含まれていなければならない。であれば、本来は、結果として他者の思想・アイディアを剽窃=丸パクリするような行為は法的に規制すべきであろう。
エフェクター業界の惨状は、電気回路という創造物に対する権利保障の不足の証左ともいえるのだ。
「私的使用」だとしても…
著作権法は、「私的使用」についての例外を規定している(同法30条1項)。例えば、今回のこの企画で、私がネットで拾ったどこかのアンプの回路を完全にコピーしたとしても、それが「私的利用」の範囲内である限りは法律上の問題はない。
しかし、たとえそれが「私的使用」であり、形式的には著作権法などの法令に違反しない行為であるとしても、胸にチクりと刺さる棘が…
「私的使用なのだから、丸パクリしても全く問題ない!」というのでは、そのオリジナルのアイディアを生み出した人への敬意が何もないんじゃないか、ということである。
一から十までオリジナルの回路を作り上げることなんてできない以上、誰かのアイディアに頼らざるを得ない。でも、その回路を作り上げた人、そのアイディアに対して敬意を払いたい。では、どうすればいいのだろう…
私の現時点での結論は、「丸パクリだけはしない」ということである。たとえ、それが性能向上につながらないとしても、あるいは無意味だったり逆効果になったとしても、まずその回路の意味(オリジナルのアイディア)を自分なりに考え、それに何か手を加えることがオリジナルの作成者に対する敬意を示すことになるんじゃないだろうか、と。
まとめ
なんだか長くなってしまったが、端的にまとめると、私的利用でも丸パクリはしたくないんだよな~、というだけのお話である。
余計なおしゃべりはそこそこにするとして、以下、Dr.ZのMini Zなどを参考にして最終的に決定した回路やその検討過程などを、①12AX7の電圧増幅回路回り=プリアンプ部分、②EL84の電力増幅回路=パワーアンプ部分、そして③電源に分けてまとめていくことにする。
そんな回路じゃ火を噴くぞ!的なご助言があれば、なんとか作業開始前にこっそり教えていただきたい…感電とか出火とか、ネタ的には面白いのだろうが、責任ある社会人(え?どの辺りが?)としてはネタより身の安全である。
3 プリアンプ部(12AX7)
【暫定回路図】
勉強および検討の結果、作成した回路図は次のとおりである。

ご覧の通りのFender Champ的な回路である。少し離れたところから、薄眼で見れば、ほとんど一緒である。
Champとの違いは、初段の下にあるスイッチと回路図の真ん中あたりにある。
では、ギター信号の流れにしたがって、回路を見て行こう。
【入力抵抗】
inputから入ったギターの信号が最初に出会う部品、R4(抵抗)は、アンプが空中の電波を拾っていきなりラジオになっちゃったりすることを避ける役割をもつ(Grid Stopper register)。
Fender Champ(5F1)の回路図を一見すると、ここは68kΩになっている。しかし、よくよく信号の流れを確認すると、input1とinput2のそれぞれに68kΩの抵抗があり、真空管側から見るとこの2つの抵抗は並列関係にある。したがって、実際の抵抗値は34kΩである。
オーディオの世界では、ここに抵抗を置かない、というような運用もあるらしいが、とりあえず付けておいた方が無難だろう。少しでもピュアな信号がアンプに入ってほしいという願いを込めて、控えめに27kΩとしてみた。
【12AX7初段~スイッチ一つでFenderからMarshallまで?!】
ギター信号は、いよいよ真空管へと流れ込んでいく…
R1はプレート抵抗(plate load register)と言われ、R5のカソードバイアス抵抗(Cathode register)との組み合わせで真空管の増幅率を決定する。100kΩ~220kΩが一般的であり、ここはオーソドックスに100kΩにしておく。R5のカソードバイアス抵抗も、やはりオーソドックスに1.5kΩである。
「オーソドックスに」って何よ?真空管なめてるの?という罵声が聞こえてきそうである。いや、このあたりに関しては、ロードラインの引き方とか増幅率の計算の仕方とかいろいろ勉強はしたのだが、ここに開陳できるほど頭の整理ができていないので…
さて、R5のカソードバイアス抵抗と並列に置かれた2つのコンデンサ(C2,C3)をスイッチで切り替えられるようにしてみたのが、本機の回路の一つのポイントである。
このコンデンサはカソードバイパスコンデンサ(Bypass Cap)と言われる。コンデンサは容量が大きいほど低域を通すという特性を持つので、ここの容量が小さいほど低域がタイトになるようだ。実際に使われている値はアさまざまであり、Fender Champ(5F1)では25μFであるが、伝説のアンプビルダーDumbleの手になるOverDriveSpecialでは10μFが、ケン・フィッシャーのTrainwreckのExpressなどでは5μFが使われている。本機の定数をどうしようか、と思っていたところ…
参考にしている書籍の一冊である「真空管ギターアンプ・実用・バイブル」(内容は非常に詳しく、専門用語が入り混じるにもかかわらず、ロック・音楽業界特有のノリまで余すところなく翻訳されており、大変素敵な一冊である)の中に、この初段のコンデンサを切り替える方法が掲載されていたのである。これでTweedトーンからMarshallのプレキシサウンドまで思いのままだぜ!的なことが書かれていたが、本当にそんなに効くのだろうか…
【ボリュームポット周り】
Champでは初段と2段目の間には1MΩ/Aカーブのボリュームポットしかない。これに対して、参考回路であるDr.Zのmini Zでは、①信号と直列に100kΩの抵抗が入っており、②1MΩボリュームポットには1MΩの固定抵抗が並列に接続され、ボリュームの後ろにも1MΩがある。
このMini Zのボリューム周りの回路の仕組みを理解していきたいところであるが、はてさて…
まず①100kΩの直列抵抗は、2段目に入る信号を減衰するだろう。2段目における増幅率とバランスを取るためだろうか。う~む、これはあってもなくても良いような…
次はボリュームポットである。②の固定抵抗が並列接続された1MΩのボリュームポットは、1MΩが並列に接続されることによって、実質的に500kΩのボリュームポットになる。このようにボリュームポットに抵抗を並列接続させることは、単にボリュームとしての抵抗値を変えるだけではなく、ボリュームカーブも変化することになるので、もしかすると使い勝手の面での工夫が兼ねられているのかもしれない。さすがに、本当は500kΩのポットでいいんだけど、1kΩのポットの在庫がいっぱいあるから、ってことはないだろう…
さらに、このボリュームポットの500kΩは、R7と合成される結果、2段目の負荷抵抗が333kΩになる(ボリュームポットが1kΩであれば500kΩ)。このあたりは、2段目の動作に影響するので、何か意味がありそうだ。
などといろいろ考えてはみたものの…そこに何か工夫がなされているのはわかるが、具体的にそれがどのような効果をもたらすのかはよくわからない…つまりは、全然わからない、ということである。
まあ、こんなところで考え込んでいても進まないので、ここは先達の知恵をそのまま拝借することにした。したがって、この部分はDr.ZのMini Zの回路のままである。
【トーンコントロール回路】
アンプに余計な機能は要らない。どんな音量でも最高のサウンドでトーン調整の必要なんかない、というのが理想である。が、いきなりそんな素敵なものができるわけもないし…やはりトーンコントロールは欲しいな。
しかし、トーン回路は、それを通すことによって大なり小なり信号が減衰されてしまう。今回のように増幅段が少ない小出力アンプではこの信号の減衰は軽視できないだろう。
そこで、トーン回路による信号の減衰が少ないことを重視し、FenderのPrinceton(回路としては5F2A)のトーン回路をお借りすることにした。これは、ざっくり言えば、ボリュームポットにハイパスコンデンサ(C5 500pF)を追加してFenderアンプのbrightスイッチがオンになっている状態を作りつつ、このハイパスコンデンサへの信号ラインにトーンポットを割り込ませることで、トーンポットを絞れば高域がC4のコンデンサを経てグラウンドに流れ、音が丸くなる、ということだと思われる。
トーンの効きはボリュームの設定の影響を受けることになりそうだし、そもそもあまり効きが良くない、という情報もあるが、そもそもこの回路はギターのトーンコントロールみたいなものだし、一応つけておきたいくらいのものなので、高望みはしないでおこう。
【12AX72段目~カソードバイアス抵抗の設定】
2段目のプレート抵抗は初段同様の100kΩ、R8のカソードバイアス抵抗は2.7kΩ、C6のカソードバイパスコンデンサは0.68μFにした。
FenderやVOXでは、初段も2段目も、カソードバイアス抵抗は1.5kΩとしていることが多い。本機も、初段に関しては、プレート抵抗が100kΩならカソードバイアス抵抗は1.5kΩでいいだろう、という軽いノリで決定した。
その流れからすれば、2段目も1.5KΩにするのが無難である。
しかし、参考回路であるDr.ZのMini Zでは、2段目のカソードバイアス抵抗は2.7kΩ、カソードバイパスコンデンサは0.68μFという組み合わせになっているのである。
カソードバイアス抵抗を大きくすると、真空管での増幅率は下がる。よく歪むアンプにしたいなら、ここの増幅率は下げないほうがいいような気もするが…どういう意図なのか…
他のアンプはどうなっているだろう、と調べてみたところ、Marshallのプレキシ期の1959などでは、ハイトレブルチャンネルの初段に2.7kΩと0.68μFの組み合わせが採用されている。ノーマルチャンネルの方は、250μFという大容量のコンデンサに対して、抵抗値は820Ω。ノーマルチャンネルの方がハイトレブルチャンネルよりも増幅率が上がっているのである。このMarshallの例からすると、カソードバイアス抵抗値の決定要素として、並列接続するコンデンサの容量との兼ね合いもありそうである。
増幅率を上げ過ぎて出力段に過大な負荷がかかるというのも危険だろうし、「Marshallがプレキシに使っていた定数である」というのは、それだけでかなり魅力的である。そこで、まずはMini Z同様の定数、つまりMarshallのハイトレブルチャンネルな定数を援用することにする。
なお、もし増幅率が足りなければ、R8に3.3kΩの抵抗を並列に追加するだけで、合成抵抗値は1.485kΩ≒1.5kΩになるので、組み上げ後の調整で十分対応可能である。
4 まとめ
以上が今回構想した真空管ギターアンプのプリアンプ部分の回路とその説明である。
次回は、今回に引き続き、EL84の電力増幅回路=パワーアンプ部分と③電源のそれぞれについてまとめ、使用部品の選定などに話を進めていきたい。
というわけで、
真空管ギターアンプを作ろう~④回路検討 その2編をお楽しみに!!
