真空管ギターアンプを作ろう~⑥楽しいお買い物編
1 前回までのあらすじ
前回、突如として現れた近代兵器、LTspiceの実戦配備により、自分でいじくった回路に自信を持つことができた経緯をご報告した。今回、いよいよ完成した回路図片手に、部品の発注やレイアウトの検討をしていくことになるわけだが、その前に…
2 LTspiceにハマる…
LTspiceの導入にあたって、実は書籍を一冊購入していた。「LTspice 電子回路シミュレータ 著者:北川章夫 工学社発行」である。ネット上でいくらでもマニュアルや使い方を参照できるのに、どうしても紙媒体が欲しくなってしまうのはなぜなのだろう…
LTspiceについてのコメントをいただいたその日の夕方にはAmaz〇nでポチっていたのだが、数日後、書籍が届いたころには、既になんとかシミュレーションを走らせることができていた…遅かりし由良之助…
まあ、せっかく買ったのだから、と手に取ってみるが、参考書籍を最初から最後までしっかり読み込むなど、時間が無限にある若者だけの特権である。おっさんには、もはやそんな贅沢な時間の使い方など許されない。まずは目次で絞り込み、斜め読みの技術を駆使して…などと思いながら書籍を開くと…なんと、ギターのピックアップやエフェクターについての記載があるじゃないか!これでは今夜も眠れない…
書籍に導かれるまま、まずは、クリーンなギターサウンドの音声ファイル(.wav)をアンプ回路に通して、出力音を聞くという作業を行ってみた。


10秒程度のシミュレーションに数分待たされるものの(それは安物パソコンの処理能力の問題だよ…)、画面上にはしっかりと増幅された波形のグラフが表示されている。早速出力された音声ファイルを再生してみると…
しっかりと張りのあるチューブアンプっぽい音が!!
これまでの周波数特性のシミュレーションと違い、音声ファイルを使うと音の変化がはっきり確認できる。
時間を忘れ、トーンコントロールやボリューム、部品の定数を変えてはシミュレーションを走らせては出力ファイルを聞き比べ…
おっと、あぶない。これでは実際に作り始める前にシミュレーションで満足しそうではないか…回路上のスピーカーはただの8Ωの抵抗だし、出力トランスだって自分でそれっぽくデータを入れて作ったものでしかないことをすっかり忘れていた…
そろそろ寝るかと先ほどの書籍を布団に持ち込んでパラパラ見ていたら…ハーモニクスの周波数分布のグラフ化?!奇数次倍音とか偶数次倍音とかいうやつか。これはもうひと頑張りする必要がありそうだ…

睡魔と闘いながら、どうにか「歪み解析」によるハーモニクスの周波数分布を可視化することに成功した。青い方がギターの入力信号、そして赤い方がアンプの出力における(たぶん)ハーモニクスの様子である。
これで、アンプを通した音が豊かな倍音を含みそうだというところまで確認できた。
こんな具合にLTspiceは実に楽しく、もっとちゃんと勉強して使いこなせるようになりたい、と思う。しかし、本プロジェクトはあくまでも真空管ギターアンプを作ろう、であり、真空管ギターアンプをPC内で再現しよう、ではない…しかも、LTspiceをいじっているときの時間の溶け方は異常である…
さっさとリアルな世界に戻らなくては!
3 部品の選定
というわけで、部品の選定をしながら実際のレイアウトを検討する。再びアナログなアプローチに戻り、手書きの実体配線図を作ることになるのだが、そのためにはまず部品を決める必要がある。以下、ある程度グループごとに選定した部品たちを紹介していきたい。
【タレットボードを使おう】
まずは、内部配線の方法である。
現在市販されているアンプの多くは、工場での大量生産を前提としたプリント基板が使用されている。しかし、ヴィンテージといわれるような古いモデルや現代でも少量生産・手作りのモデルでは、部品同士を直接結合するpoint-to-pointという手法が採られている。これは部品同士を直接接合するため、信号の劣化が少ないことや、部品の交換が容易であるため事後的なチューニングがやりやすいといったメリットがある。
自作アンプの場合、わざわざプリント基板を作る必要はないため、おのずとpoint-to-pointでやることになる。もっとも、これにもいろいろな方法がある。ラグ板を使ったり、タレットボードと呼ばれる端子付きの基板を使ったり、果ては完全に空中配線というような感じのものまで、ビルダーによってそのアプローチはさまざまである。
今回はタレットボードを使ってみることにした。

【シャシーとトランス】

【シャシー~ゼネラルトランス・2MM-170】
シャシーは、キャビネットを設計する際に先走って決定していたものである。
なお、このあとレイアウトの検討を進めた結果、寸法的には十分な余裕があることが確認できた。
まずは一安心である。このシャシーのサイズではダメだった、ということになると、既に公開済みのキャビネット設計編を全面的に改訂しなければならなくなってしまう。まさに公開先に立たず、というやつである(おい、おっさん!)。
【電源トランス~ゼネラルトランス・PMC-3206】
回路の検討の出発点となったDr.Zのmini Zが250Vであったことから、250Vが既定路線となる。
問題は容量(アンペア数)である。
電源トランスの容量は、出力管のプレート電流+スクリーン電流+プリ管のプレート電流の合計を上回る必要がある。
参考書やインターネットを頼りに見様見真似で書いてみたロードラインから算出された出力管のプレート電流は約46mAであった。他方、LTspiceを用いたシミュレーションでは50.6mAとさらに高い。まあ、出力トランスのデータは自分で無理やり作ったものだし、こちらはアテにすべきではないのかも…
そうすると、50mAのトランスでは足りない。が、100mAのトランスは結構なお値段…
LTspiceのシミュレーションでは合計57mA。つい数行前に「アテにすべきではない」と書いたそばから恐縮だが、ここはひとつ自分で作ったデータを信じてみようではないか。 まあ、ギターアンプにおいては定格ギリギリとか定格オーバーなんてザラにあると聞くし…というわけで、60mAのPMC-3206に決定である。
【出力トランス~ゼネラルトランスのPMF-6WS】
ここも、アテにならないはずのLTspiceによるシミュレーションの結果に基づいての選定である。
本回路の出力は、計算上5wに届くかどうかであり、同社には5w対応の出力トランスPMF-5WSもある(し、そっちの方が結構安い…)。しかし、自作のデータに基づいて音声ファイルを出力させたシミュレーションの結果では、PMF-5WSよりもPMF-6WSの出音が好ましかったのである。
大は小を兼ねる、ということわざもあるくらいだし。もっとも、「スコップで耳かきはできないが、耳かきで雪かきはできる」という亡き祖父の名言も一理あるからな…
そんな戯言はさておき、おつぎはハードウェア(シャシーに装着される部品)である。
【ハードウェア】

このあたりは、一般的にギターアンプに使われるブランドなどで揃えた感じで、それほど拘りがない部分である。
ACインレットはヒューズボックス内蔵式にしてみた。これは、少しでもシャシー加工の手間を減らそうという企みである。
そして、いよいよ主役たる電子部品たちの登場である。
【選りすぐり(?)の電子部品たち】

【抵抗】
耐圧が必要なところには酸化金属被膜、セメント等を使い、それ以外は普通の金属皮膜抵抗を使う方針である。1/2Wだと炭素被膜より金属被膜の方が入手性が高いからである。
ただし、プリアンプのプレートに電気を供給する2か所(R3、R7)だけはあえてカーボンコンポジット抵抗を使うことにした。
カーボンコンポジット抵抗は、ヴィンテージアンプに使われていた旧来型の抵抗器であり、ノイズや安定性の点で炭素被膜抵抗や金属被膜抵抗に劣るとされている。どうしてわざわざそんなものを使うのか?それは、R.G.Keenさんというアンプ、エフェクターの大家(?)の「Using the Carbon Comp Resistor for Magic Mojo」という論説に触れたことがきっかけである。この論説の骨子は次のとおりである。
「ヴィンテージアンプにカーボンコンポジット抵抗が使われているのは、当時それが入手できる抵抗だったからにすぎない。カーボンコンポジット抵抗だから良い音になる、というわけではない。
カーボンコンポジット抵抗は、ノイズが多く、抵抗に大きな電圧が入力された状態では抵抗値自体が変化し、信号に歪みが生じる。この歪み(resistor distortion)こそが、カーボンコンポジット抵抗の神話の正体である。
『そう、たしかにカーボンコンポジット抵抗はほんのちょっとは歪みやがる、でもその歪みは俺たちが好むあの感じなんだぜ(the resistors are distorting, but in a way our ears like.)』
しかし、このカーボンコンポジット抵抗がもたらす「歪み」は、歪みとしては聞き取れないくらいの色付けであり、かつ、電圧が高く(100V以上)、信号の振幅が大きいポイントでなければ発生しない。低電圧や信号が弱いところにカーボンコンポジット抵抗を使っても、求める「歪み」は得られず、ただノイズが大きくなったりするだけである。
カーボンコンポジット抵抗を使うポイントがあるとすれば、それはプレート抵抗である。プレート抵抗はアンプ内で最も高い信号電圧を運ぶものであり、プレート抵抗の変動は信号に影響を及ぼすからである。」
http://www.geofex.com/article_folders/carbon_comp/carboncomp.htm
実に論理的である。かつてカーボンコンポジット抵抗てんこ盛りのエフェクターを自作したりしていた身としては耳が痛い…カーボンコンポジットのようなビンテージ系部品は耳に優しいはずなのに…
とにかく、この論説に基づいて、プレート抵抗にカーボンコンポジット抵抗を投入することにした、というわけである。
【コンデンサ】
これから作るアンプは何かのレプリカを目指しているわけではない。そのため、Fenderのツイードトーンを狙うならBlue Moldedでしょ、とかMarshallやVOXのブリテッィシュサウンドならMustardじゃないと、みたいな沼には入らずに済む。
したがって、基本的には部品の配置がしやすい形状と手ごろなお値段という基準で選択している。
なお、トーンの0.0068uF(C5)については、回路検討の出発点となったDr.Zのアンプがオレンジドロップを使っていることから、Dr.Zに敬意を払う趣旨である。
【真空管】
現代の知識と技術でヴィンテージアンプに迫るサウンドを目指すには、真空管それ自体にも高いクオリティを求めてしかるべきである。そうであれば現代管などはもってのほか、やはりNOS(New Old Stock)のMullerdなどが望ましいであろう、といったことを妄想しながら、なるべく安くて信頼できるものを入手する。なにせ、この企画はちゃんと動作するかどうかというレベルなのだから。
【まとめ】
さて、現時点の費用であるが、大物が17,080円、ハードウェアが4,608円、部品たちが17,587円…総額は39,275円(送料含まず)である(追記:2026年2月24日現在の総額は、送料込みで42,304円となった)。
完成までには、さらにキャビネットの木材とスピーカーユニットが加算されることになる…
「贅沢な遊びだな、おい!」と薄っぺらな財布から悲痛な叫びが聞こえてくるようであるが…
いやいや、Fenderの’57Champなんて今や20万円出しても買えないし、VOXのAC4だってハンドワイヤードなら15万円する時代じゃないか。
ここで薄っぺらなお財布に同情して撤退なんかしようものなら、LTspiceまで実戦配備され、既に相当な時間を投入して取り組んでいるこのプロジェクトの成果物が3分の1スケールのアンプの模型では、もしかしたらわずかな期待とともに読んでいただいているかもしれない読者の方(そんな奇特なかたなんていらっしゃるのか?!)に申し訳が立たない。

というわけで、来週からの節約生活を固く誓いながら、いざ部品発注!!
4 次回予告
発注した部品たちが届くのを待ちながら、レイアウト、実体配線図の作成を行っていくわけである。いつになったら実際の作業が開始されるのか、自分でも先が見えなくなってきているところではあるが、
次回は、「真空管ギターアンプを作ろう~⑦レイアウト完成編」!
