娘が「ママ役やるね」と言った日
「私がママ役やるね。」
娘はそう言って、シルバニアファミリーのお母さん人形を手に取った。
「じゃあパパは?」
「パパはお仕事。」
私はお父さん人形を持って、
「いってきまーす。」
と言う。
「いってらっしゃい。」
……
返事が、一瞬だけ遅れた。
娘はそんなことには気づかず、小さなお皿を並べ始める。
「ご飯できたよー。」
「赤ちゃんも一緒ね。」
もう次のお話が始まっていた。
私は笑いながら遊んでいたけれど、少しだけ上の空だった。
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保育園へ迎えに行く夕方。
あちこちから、
「ママー!」
という声が聞こえてくる。
娘もいつものように私を見つけると、
「パパー!」
と走ってくる。
その景色は、いつものことだ。
だから娘がママ役を選ぶことも、きっと何も特別じゃない。
今日のおままごっこで、その役をやりたかった。
ただ、それだけ。
なのに私は、その一言を聞いて、少し先のことを考えてしまった。
いつか娘は、自分の家と友達の家の違いを知るんだろうか。
そのとき私は、どんな顔で話を聞くんだろう。
どんな言葉を返すんだろう。
考えても答えなんて出ない。
それでも考えてしまう。
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「パパ、お仕事終わったよ!」
娘がお父さん人形を迎えに来る。
「ただいま。」
そう言って、お父さん人形を椅子に座らせる。
「ご飯できてるよ。」
「いただきます。」
「いっぱい食べてね。」
娘は次々と物語を進めていく。
私は少し遅れて、その物語に戻った。
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遊びが終わると、娘は人形を一つずつ箱へ戻し始めた。
「また遊ぼうね。」
「うん。また遊ぼう。」
私も一緒に片付ける。
お父さん。
赤ちゃん。
テーブル。
お皿。
そして、お母さん。
全部きれいに箱へ戻したはずなのに、
「私がママ役やるね。」
あの一言だけは、なかなかしまえなかった。
あの言葉に意味があったのは、
たぶん私だけだった。
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ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
このnoteでは、3歳の娘との暮らしや、シングルファザーとして感じたこと、人事として働く日々の中で心に残った出来事を綴っています。
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