見出し画像

好きな名前の男と付き合ってはいけない

幼い頃、ものすごく惹かれる名前があった。

男の子の名前だ。決して、珍しい名前ではない。
でも、響きが柔らかくて、まっすぐな印象を与える。

どこで知ったのかというと、弟と一緒に見ていた「激走戦隊カーレンジャー」の青いヒーローの名前からだ。青はかっこよくて爽やかなのにこの優しい名前が意外としっくりくる。

将来、子どもにはこの名前をつけたい、と思い、この名前が好きなまま大人になった。

20歳になって、好きな人ができた。
なんと、彼の名前は、私が幼い頃好きだった名前だった。
しかも、さらにいいことに、名前の最後「樹」しか想定してなかったのに彼は「紀」だったのだ。これはさらに好感を持った。

その名前が好きだったから、好きになったのではない……とは言い切れない。名前を呼ぶうちに、銅鑼が鳴るように好きになっていった。

名前とは関係ないけど彼を一番好きになった瞬間は、彼の失恋話を聞いたときだ。普通、人に話す時は事実や感情を順を追って説明するものだが、彼は「夕陽がマンションに反射していた」とか、ちょいちょい情景描写を挟んでくる。小説か!

私は、彼と付き合うことになった。それで、名前を呼ぶことで好きな名前をずっと堪能した。大変お恥ずかしい話だが、時々、最初の文字を「にゃ」に変えて呼ぶバカップルムーブもしていた。

温泉みたいに優しい人で、飄々としていた。そうそう、自分が書いた小説の話で恐縮だが、ブラッククリスマス(のちの人事部付 真田雪乃の議事録)の「黒木さん」は彼がモデルなわけではないけれど、彼と出会わなかったら書けなかった人物だ。いや、1%ぐらいはモデルにしてるかもしれない。

付き合う中で困ったことがあった。

彼と付き合い続けて結婚したら、子供に同じ名前はつけられないではないか。私は、誰かと付き合っていたらその人の苗字に合う名前を考えてしまうのが常だった。男の子版、女の子版両方考える。暇になると、常に子供の名前を考えるのだ。でも、男の子の名前は、小さい頃から思っていたその名前以外考えられなかったから、何も思いつかなかった。

その後、好きな気持ちが消えたわけではないけれど、私たちは別れることになった。5年間ほど付き合っていたけれど、夢を追う彼を純粋に応援する気持ちは、早く結婚したい私が一緒にいることで邪魔になってしまう、と思ったのだ。結婚への焦りとか、イライラとかを、彼には感じずに、好きなまま閉じ込めておきたかった。

「元彼」になった彼の存在は大きすぎて、その後の恋愛はなかなかうまくいかなかった。でも、ようやく私にも結婚相手が見つかった。夫のことを愛しながらも、彼と付き合っていた期間を超えられるか、密かにビクビクしながら過ごしていた。今は交際期間と合わせると夫との結婚生活は7年。すでに元彼を、単なる思い出として思い出すことができる。

結婚4年目ぐらいで妊娠した時、お腹の中の子が男の子であることが判明した。

赤ちゃんの名前を考えていた時、幼い頃からずっと好きだった名前のことを思い出した。

そして、首をブンブン横に振った。
絶対ダメだ。子供に元彼の名前をつけるなんて。
あんなに好きだった名前が、「元彼」の名前になってしまった。
別れても「元彼」であることは消すことができない。

だから、あんなに夢想していた名付けが全く思い浮かばず、夫とうんうん考えて、結局夫のお母さんにつけてもらった。(ちなみにものすごくいい名前で、三本の矢で有名な戦国武将にちなんでいる。プライバシーとかなければ今すぐここに書きたいぐらいだ)

私は、人生の教訓を得た。
子どもにつけたいぐらい、好きな名前の人とは付き合ってはいけないのだ。

付き合っていたら、子どもにその名前はつけられない。
別れても、やっぱり子どもにその名前はつけられなくなるからだ。

(了)


読んでいただきありがとうございました。
大塚ぐみさんの「 #なまえ百景 」に参加します(2回目)

1回目は、自分の苗字に関する過去記事で参加しました。
あまりの盛り上がりに、新作を出してみたくなりました。

読んでいただき、ありがとうございました!

普段は小説やエッセイを書いています。
引き続きよろしくお願いいたします。

(好きな名前の男が1%ぐらいモデルになってるかもしれない小説)

(好きな名前の男が1%ぐらいモデルになってるかもしれない小説その2)


いいなと思ったら応援しよう!

亜麻布みゆ📕言の葉みゆフィーユ チップのご検討、ありがとうございます。 3歳児を育てつつ、スキマ時間に創作を続けています。 いただいたチップは、家事の時短や創作時間の確保に使わせていただき、より楽しい文章をお届けする力に変えていきます。応援が本当に励みになります。