【なぞなぞエッセイ】私の名は。
自分の名字が、嫌いだった。
名字で呼ばれるだけで、からかわれているのではないか、そんな被害妄想があった。
私は、両親からつけてもらった下の名前を気に入っていた。
ひらがなで柔らかさがあり、明るい響き、そして前向きに進める名前。
今でも、この名前、私にぴったりだと思っている。
だから、下の名前で呼んで欲しいと思っていた。
しかし、私は下の名前で呼んでもらえたことは、あまりない。
なぜなら、名字にあまりにもインパクトがありすぎるからだ。
私の名字は、漢字で一文字、2音。
下の名前はスルーされ、「〇〇ちゃん」「〇〇さん」と名字で呼ばれることがほとんどだ。
この名前のせいで、下の名前が呼ばれない。
そして、最大の嫌いな理由は、名字が持つ意味である。
小学生の時、漢和辞典を使う授業があった。
担任は、「自分の名前を調べてみましょう!」と言った。
クラスメイトは分厚い漢和辞典を開き調べ始めた。
しばらくすると、担任が呼びかけた。
「みんな、調べられたかな?じゃあ、発表してみよう!」
最初に将くんが指名された。
「ええと、将っていう字は、リーダーシップだったり、未来だったり…って言う意味です!」
そして美華ちゃん。
「華やかという意味です」
啓子ちゃん。
「啓は教え導く…っていう意味でした。」
私に、当てるな、当てるな…。
そう思う時ほど、当てられる。
案の定、先生は私を当てた。
「あ、名前がひらがなだから、名字を調べてくれたんだね。どんな意味だった?」
私は渋々立ち上がる。そして、ボソボソと言った。
「濁った…池のことです。」
からかう人はおらず、皆、押し黙った。
その静寂が、かえって苦しかった。
自分がこの名字である、という運命を呪った。
成長するにつれ、名字で呼ばれることも慣れてきた。
「濁った池なんですよ〜イヤですね〜」と自分で言えるぐらいには。
それでも、下の名前で呼ばれる人に、嫉妬してしまう。
下の名前が同じ人がいたら、私が名字で呼ばれ、もう一人の子は下の名前で呼ばれる。そんな状況がほとんどであった。
自分の名字は、名前以上に多く呼ばれると思う。
だから、自己認識にも影響した。
まあ、こういう名字で生まれてるし、そんなに上手くいくことないよ。
そんなあきらめが、自分の人生観の中に生まれていた。
予備校で、講師の質問を順番待ちをしていた時、同じく待っていた子に話しかけられた。
上品で可愛らしいけれど、どこか不思議な雰囲気。
浪人生特有のピリピリした感じがなく、私は彼女に好感を持った。
彼女は医学部を受験するというので驚いた。
「お名前は、なんていうの?」
彼女に問われた私は、名乗った後、
「正直、自分の名字、好きじゃないんだよね。だって、なんか汚いし。」
そう付け加えると、彼女は驚いて目を丸くした。
「とっても素敵じゃない。だって、そこには妖精さんが住んでるのよ。」
この話を、度々思い出す。
彼女自身が、妖精さんだったんじゃないかって思う。
やがて、結婚して私は全く異なる名字になった。
この名字は、日本人のよくある名字ランキング10位以内に入る。
旧姓のフルネームは、多分一度聞いたら忘れない名前となる。
だが、今のフルネームは、ありふれ過ぎていて、きっと何回か聞かないと覚えられないだろう。
だが、それは私にとってとても生きやすいことだった。
名前で目立たない。電話で言っても聞き返されない。
珍しい名字ですね、って言われない。
大勢の中に埋もれることができる。
そう思っていた、ある時。
福島県の猪苗代湖のあたりに旅行に行った。
そこには、私の名字に関するものがある。
1時間ほど山道を歩くと、一面に広がる紅葉の間から…それは見えた。
あえて湖と呼ばれないそれは、底が見えなかった。
でも…かつての辞書の定義のことなど、忘れさせるぐらいだった。
ターコイズの宝石の色をなしていた。
美しい。
それが、美しいと形容されることって、あるのだろうか。
「妖精さん」の彼女のことを思い出した。
今、それは趣味や「推し活界隈」でよく使われる用語となっている。
「夢中になる」という意味で使われているらしい。
確かに、そこに入ってしまうと、もう一生出てこれないような恐ろしさもある。
文具とか手帳とか声優とか、さまざまなものにそれはあり、みんな、ハマっている。なんと、動詞にもなっているようだ。
これを使う人は、それのこと、どう思ってるんだろう?
汚い?濁ってる?それとも、ターコイズブルーを思ってくれてるだろうか?
さて、ここで「なぞなぞ」である。
私の名字はなんでしょう?
きっとみんな分かったと思う。
ちなみに、私のペンネームは旧姓フルネームのアナグラムにしている。
嫌い嫌いと言いながら、付き合ってきた。
結局は離れがたいものになった。
なんで濁ってると言われるのか、それはきっと、生命や栄養素がたくさんいて、賑わっているからだ。妖精もいるし河童もいる。楽しいところである。
そして、そこに入った人たちは、出られないぐらい夢中になる。
実は、私にぴったりで、目指すところの名前ではないか。
名字が嫌で嫌でたまらなかった私。
こんな名前で「なぞなぞ」をしようと思うなんて…
まったく、想像もできなかった。
私は何も頑張ってない、私の名字が頑張って掴み取った未来だ。
でもやっぱり、名字では呼ばれたくはないな。
名字で呼ばれるのは、距離感じるものだ(笑)
「あ、わかった!」と思って、コメントしてくれる時は、答えそのものを言わずにコメントしてみてくれると嬉しいです。
(追記)
大塚ぐみさんの「 #なまえ百景 」に、過去記事ながら参加します!
素敵な企画ありがとうございます!
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3歳児を育てつつ、スキマ時間に創作を続けています。
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