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「難しいこと」と向き合う

 子どもの頃は、自転車に乗るのも、本を読むのも難しかった。それがいつの間にか当たり前にできるようになり、「難しい」と感じることは減っていった。そして、大人になって「難しい」と感じることは意図的に避けて生活することも多くなった。

 昨日は友人とスキーへ行った。友人は初心者のため、何度も転びながらゲレンデを滑り降りた。しかしその度に起き上がってまた滑り出し、自分からリフトに乗ってふたたびコースに立った。

 大人になった今、仕事でも学業でもない難しいことを無理して続ける必要はない。それでもあきらめずに続ける姿に感銘を受けた。


簡単そうに見える難しいこと

 現在、イタリアのミラノコルティナで冬季五輪が開かれている。さまざまな競技の中継を見ているが、選手はいとも簡単にその競技をやっているように見える。だが、いざ自分でやってみようと思えば、ほとんどの人は全くできないはずだ。

 私は全国大会の出場経験もあるスキー上級者だが、毛色の違うビッグエアなどでは、そもそも怖くて助走をつけてジャンプ台に侵入することさえできないと思う。スケート靴を履けば、4回転どころか1回転もできないだろう。

 五輪に出場している選手は、その競技に必要な技術と身体能力を鍛え上げ、すでに十分な実績をのこしているからそこにいる。中には上位の差が極めて僅差の種目もある。選手にはコントロールできない細かい条件の違いなどでメダルの色が変わったり、メダルに届かなかったりすることも多々あるだろう。

 昨日のフィギュアスケート男子フリーでも、いつも素晴らしい演技をするような鍵山優真やイリア・マリニンがミスをする場面があった。簡単そうに滑っているように見えても、それを再現する体や心の状態、リンクなどの条件がそろっていないと難しくなるのだと想像する。


金メダルより「候補でいること」が難しい

 ここで、私の好きなノルウェーのアルペンスキー選手、ヘンリック・クリストファーセンの言葉をあげたい。彼はスキーの最上位カテゴリーであるワールドカップの舞台において10年以上にわたってトップ選手であり続けている。しかし五輪の金メダルは取れていない。そのことについて、彼は国際スキー・スノーボード連盟(FIS)のポッドキャストで「金メダルを取るよりも、その候補でいることの方が難しい」という趣旨の発言していた。

 個人的な解釈を加えると、アルペンスキー競技は雪の状況やスタート順など、自分でコントロールできない条件の有利不利がある。そう捉えた場合、4年に1度の一発勝負という特性のある五輪は実力以外の要素にも左右されうる非常に難しい競技といえる。しかし、長年にわたってトップであり続けるという実績は、継続して好成績を収めている証明である。ある意味で金メダルよりも難しく、価値のあることという見方ができる。

 そして、「勝つことを期待される」ということは、「すでに何度も勝っている」ことの裏返しである。実績のない選手に勝つことへの期待は集まらない。そのプレッシャーに打ち勝って勝利した選手は、もちろんすごい。しかし「勝つことを期待される立場」にある時点で、すでに勝者なのだと私は思う。

 クリストファーセンの言葉は、五輪スポーツを観戦する上で新たな視点を与えてくれる。それとともに、プレッシャーに直面する多くの選手にも「この場に立っている時点で勝者」という気持ちを持っていてほしいと願う。


難しいことばかりなアメリカ生活

 長々と書いてきたが、自分が「難しい」と感じていることは、アメリカに来て格段に増えた。というか、難しいことばかり。言葉も、人との付き合い方も、自分の生き方の方向性を決めることも難しい。

 唯一、難しいと感じなくなったのは、テレビCMでよく見る損害保険会社「Liberty Mutual (リバティ・ミューチュアル)」の音楽(フレーズ?)を外さずに言えるようになったことだ。CMの終わりに流れるフレーズ「Liberty Liberty Liiiberty~ Liiiberty♪」がくせになるのだ。ニュースでもスポーツ中継でも頻繁に流れるため、合わせて言うのを楽しんでいる。


 日本にいれば、ある程度のことは分かるし、分かった気にもなれる。しかし、異文化の中にいると分からない、難しいことばかりだ。英語の本を読んでいると、意味が分からない単語や言い回しがたくさん出てくる。でも、中高生の頃は日本語の本でも分からない言葉が多々あった。

 いつの間にかその感覚を忘れ、それを避けながら生活していたのだと思った。私は、大人になったが「難しさ」と向き合えると思うし、向き合える人間であり続けたいとも思っている。スキーに臨む友人と、五輪選手の姿を見て感じた。



きょうの1曲

サンボマスター  -  世界はそれを愛と呼ぶんだぜ




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