ep.3 第2話《承の章》あの選択は必然だったのか
カイが芸術学院への進学を決めた日、
家族会議はわずか十分で終わった。
=============
第1話《起の章》を読んでない方は
ぜひ こちら を先にお読みください
=============
「本気なのか?」
父は信じられないという顔だった。
「モイラは宇宙工学者を推奨しているんだぞ」
母も困ったように言う。
「失敗確率が高いって
結果も出ているんでしょう?」
カイは黙っていた。
反論できなかった。
モイラの予測は間違わない。
それは世界中が認める事実だったからだ。
だが、それでも。
「自分で決めたいんだ」
ようやく絞り出した言葉は、それだけだった。
父は大きくため息をついた。
「好きにしろ」
その声には、父親としての期待と共に――
失望が滲んでいた。
―――――
一年後。
芸術学院の入学試験会場。
結果表示のホログラムが空中に浮かぶ。
受験番号を探す。
何度見てもなかった。
不合格。
カイはしばらく立ち尽くしていた。
周囲では歓声が上がる。
泣き出す者もいる。
だがカイには何も聞こえなかった。
ただ一つの言葉だけが頭の中を回り続ける。
「失敗確率八十二・四%」
モイラが示した数字だった。
その予測は見事に的中していた。
帰宅途中、巨大スクリーンに流れる広告が目に入る。
『モイラはあなたの最善の未来を示します』
カイは思わず苦笑した。
その通りだった。
少なくとも今のところは。
―――――
二年後。
カイは小さなデザイン会社でアルバイトをしていた。
生活のためだった。
夢だった絵は売れない。
応募したコンテストは落選。
投稿した作品は埋もれる。
誰にも評価されない。
一方で高校時代の同級生たちは違った。
宇宙開発局へ進んだ者。
量子工学研究所へ進んだ者。
医療技術者になった者。
誰もが順調だった。
ある日、同窓会が開かれた。
久しぶりに再会した友人のサトシが言う。
「モイラってすごいよな」
皆が笑う。
「俺なんて最初は研究職なんか嫌だったのにさ」
「今じゃ天職だよ」
「俺も」
「私も」
次々に賛同の声が上がる。
誰も不満を持っていない。
少なくとも表面上は。
そして誰かが尋ねた。
「カイは今どうしてる?」
一瞬、空気が止まった。
カイは曖昧に笑った。
「まあ……それなりに」
その場の誰にも悪意はなかった。
だからこそ辛かった。
帰り道。
夜風が冷たかった。
カイは独り言のように呟く。
「やっぱり、間違ってたのかな……」
その夜。
久しぶりに例の本を開いた。
『未来は偶然から始まる』
あの日拾った本。
何度読んでも著者の名前だけは奇妙だった。
百年以上前の人物。
数学者。
そして未来予測理論の先駆者。
カイは端末で著者について調べてみた。
すると一つの古い論文が見つかった。
半ば忘れ去られた研究記録だった。
彼は何気なくページを開く。
そこに書かれていた一文を見て、
カイは息を止めた。
『予測とは未来を知ることではない。』
『人が選ぶ確率を知ることである。』
カイは眉をひそめた。
意味が分からない。
未来を知るのではない?
ではモイラは何をしているのだろう。
彼はさらに読み進めた。
『予測を信じる人間が増えるほど、予測は正確になる。』
『なぜなら人々は予測された未来を選ぶからだ。』
カイの胸がざわついた。
もしそうなら――。
モイラは未来を当てているのか。
それとも――
人々がモイラの示した未来へ
《歩かされて》いるだけなのか。
窓の外では無数の光が瞬いている。
その全ての人々が、今もモイラの予測に従って生きている。
ふと背筋が寒くなった。
その時だった。
端末に一件の通知が届く。
送信者不明。
件名もない。
本文は短かった。
『君は疑問に気づいたようだ。』
カイの心臓が跳ねた。
続く文章を見て、彼は凍り付く。
『もし真実を知りたければ、
旧モイラ研究棟へ来なさい。』
『予測できない未来について話そう。』
差出人の名前はなかった。
だが最後に、一つだけ記号が添えられていた。
――M。
カイは画面を見つめたまま動けなかった。
まるで誰かが、自分を見ているような気がした。
=============
第2回≪承の章≫はここまでです。
第3回≪転の章≫では
キーパーソンがカイの前に現れます。
ぜひフォローしてカイの挑戦を見届けてください。
第1回≪起の章≫は こちらから 読めます
=============
ここまでお読みいただき有難うございました。
共感いただける方が多いと嬉しい限りです。
よろしければ フォロー や ♡ を押しておいていただけると励みになります。
=============
※趣味で以下も配信しています
▶ RC住宅を推奨しているのは
こちらのYouTubeチャンネル
▶ 建築施工管理技士を目指す方は
こちらのYouTube こちらのnote
▶ 土木施工管理技士を目指す方は
こちらのYouTube こちらのnote
▶ 建築のプロとして情報発信しているのは
こちらのnote
▶拙著を紹介しているのは
こちらの出版社
▶電子書籍は
・工務店が語らない13の裏事情
・RC住宅に至る21のエピソード
・木造と同等価格のRC住宅
・家選びに必須の13の検討課題
