第33回:「歩幅」は自分で決めていい
前回、カナダのサンクスギビングデー(感謝祭)での体験を通し、日常で「ゆっくり歩くこと」がいかに難しいかというお話しをしました。今回はその「歩く速度」を、人生のキャリアや資産形成に当てはめて考えてみたいと思います。
人生という道をどう歩むか。そこには唯一の正解があるわけではなく、人それぞれのスタイルが存在します。
1. 三つの「歩き方」と、その根底にあるもの
人生の歩き方には、大きく分けて三つの歩き方があるのではないでしょうか。
1)わき目もふらず、最短距離・最速で目的地に到達することを目指す。
2)景色を楽しみ、時に回り道をしながら、目標に向かう。
3)特定の目的地を定めず、その時々の知的好奇心に従って歩む。
大学病院や大企業のような競争の激しい組織では、1)の「最速ランナー」が賞賛される傾向にあります。目標に最短で到達する効率性は、間違いなく一つの強力な能力です。しかし、早足になればなるほど視界は狭まり、いつの間にか自分の足元しか見なくなってしまうリスクも孕んでいます。
一般には、2)の人が多いのではないでしょうか。安心感、安定感のある中間層です。
そして、一定数の3)もいるでしょう。これらの人はどこに向かうか分かりませんが、時に誰も到達できないところに至る爆発力があります。
私は、どのような歩き方を選択したとしても、根底に「前進し続ける」という意志さえあれば、最終的に到達できる場所の高さに大きな違いはないのかと思っています。
しかし、「願わないことは実現しない」のもまた事実です。 歩き方の選択とは、目的地を変えることではなく、目的地に至るまでの「密度」をどう設計するかという選択なのです。
2. 「事象」ではなく「成長」を目標にする
「特定の役職に就く」「試合に勝つ」といった特定の事象をゴールに据えると、達成した瞬間に燃え尽きたり、達成できなかった時に深い喪失感に襲われたりすることがあります。
対して、「昨日の自分より一歩でも成長すること」そのものを目標に据えると、歩みはより安定し、燃え尽きにくくなります。 順位は他者との比較で決まりますが、成長の基準は常に自分の中にあり、それは一生涯更新し続けることができるからです。
3. 資産とキャリアに「複利」を効かせる
「ゆっくりとした歩み」をあえて選択することは、資産形成やキャリア形成において、独自の強みとなります。
資産形成:短期的なリターンを求めて急ぐのではなく、インデックス商品を中心とした長期投資を行い、複利の力が効いてくるまでじっと市場に「滞在」し続けること。
キャリア形成:短期的な評価や役職を求めて頻繁に環境を変えるのではなく、一つの領域や組織に深く根を張り、スキルの洗練や知見の体系化にじっくりと時間をかけて向き合うこと。
資産形成における「市場の滞在時間」がリターンを安定させるように、キャリア形成においても「現場や組織への滞在時間」が、短期間では決して構築できない圧倒的な「信用の複利」へと変わります。 顔を上げて周囲を見渡し、内なる関心に従って歩むことで得られる「余白」こそが、長期的なキャリアの強靭さを作ります。
最後に:自分だけの「内なるコンパス」
最短距離を走らなければならないという強迫観念から自由になると、人生はもっと創造的になります。
誰かと競って順位を気にする歩き方もあれば、昨日の自分より少しでも前進していれば良いと考える歩き方があってもいい。 大切なのは、前進し続けるための「願い」を胸に、自分自身の足で地面を踏みしめることです。
パソコンやスマホの画面を閉じ、あえて時間をかけてゆっくりと歩く。ふと顔を上げ、今の自分を包む景色を眺める。 その「余白」から生まれるひらめきを大切にしながら、これからも自分だけの歩幅で、一歩ずつ歩んでいこうと思います。
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