落語の話。『悋気の独楽』演:三遊亭遊雀。
前回の、三遊亭遊七『粗忽長屋』に引き続き、浅草演芸ホールでございます。
おじいちゃんが出てきて安心するのは何故。
先入観というのはどうしてもあるもんで、遊七さんの時は、出てきたのがお姉さんというのが意外で、ちょっと「オヤッ?」なんて感じたもんですが。
出囃子と足音の区別がつかねぇくらい自然に、年寄りの噺家が出てくると、もう安心感しかない……だけど、ただの年寄じゃあ、こうはいかない。座布団の上に膝をついて、深々とお辞儀をするまでの所作、何百回何千回繰り返したら、こうも滑るような動きになるんでしょうね?
「ヒステリーおばさんVSクソガキ」という噺。
演目の『悋気の独楽』は、旦那の浮気に悩むお内儀が、小僧にそれを探らせるというお話。小僧さんは旦那とお妾さんに口止めされるけど、お内儀に白状させられる、という流れ。
クライマックスは、小僧さんがお妾さんの家から、お駄賃にもらってきた独楽をまわすところ。
三つの独楽はお妾、旦那、お内儀。毎日それを回して、旦那の独楽がどっちにに引っ付くかで、浮気をするか大人しくお内儀のトコに帰るかを決めるという。
旦那の独楽が、何度やってもお妾の方にくっつく。だんだんお内儀が怒り狂って、それを小僧が、だんだん面白がるようになる。
この「ヒステリーおばさんVSクソガキ」という構図、よく思いついたもんだ。アイテムが独楽で、ジリジリさせるところもクリティカル。
さらには、女性のキャラクター造形がスゴイ。
嫉妬にイライラしながら小僧を問い詰めるお内儀、手慣れた様子で小僧を丸め込むお妾さん、調子の良いそこの女中と、三者三様の女性が登場する。
その演じ分けがもう……神がかっていた!
頼れるお内儀さんが、子供みたいにキレる可愛さ。
お内儀さんについて。
最初は小僧に口を割らせるのに、別の使用人に見張らせていたとウソついたり、熊野牛王まで持ち出すような策略を講じるのが、話を聞くうちに感情が勝って、キーキー金切り声を上げるばっかりになってしまう。
その崩れていく感じが生々しくって。
小僧さんの方は、最初はその策略にハマって愕然としたり、熊野牛王のバチが当たって血を吐いて死ぬとおびえるとか、お内儀にいいように責め立てられる。でも、お内儀が嫉妬で頭に血が上ってキーキー言い始めると、それが楽しくなってしまったみたいにはしゃぎ出す。
独楽が回るたび、その逆転した様子がエスカレートしていくのが聞かせどころなのだろう。
お妾さんとその女中。
こちらの二人は、小僧さんが語る中で登場する。小僧さんが口調をマネして言っている、という体なんだけど、それでもお妾さんの艶っぽさや、女中さんのくだけた感じは際立っている。
小僧さんにお小遣いやら、キーアイテムの玩具の独楽をあげたりする甘やかしが、ちょうどお内儀が、叱りつけたり脅したりするところと前後して出てくる。思いっきり対比になっているのだ。さすが古典、構成が練り込まれているなあ。
小僧さんの煽りっぷりがまた過激で。
この、お内儀が厳しいコトをいうたびに、お妾さんは優しかったですよ、なんて話を持ち出す、コレ、小僧さんはワザとやってるワケじゃないんだろうなあ……でもその天然の煽りの才能が、また憎々しいのだ。
最後に、旦那の独楽が、お内儀の独楽をよけて、お妾さんの独楽に寄っていくところを、何度も生々しく実況してみせるあたりになると、もう自覚してきて、ワザとやってるようにしか見えなくて。
「独楽の話をしてるんですよ」っていう体で、旦那やお内儀に言いたいことを言う。この独楽の動きの実況が、この演目で一番の、噺家の腕の見せ所なんだろう。
この噺のヒロインは、お内儀ですね。
最初は、大店のお内儀という大変な勤めを果たしている、貫禄や手練れがありつつ、もう色恋なんて無縁、なんていう年齢を感じさせるような語り口。
だから、お内儀が旦那の浮気に怒るのが、最初は世間体なり体面なりの事に思える。
それがだんだん、そういう上辺がハゲて来て、ああ、なんだかんだ言って、このお内儀はまだ旦那に惚れているんだな、と感じられてくる。
でもやっぱり、嫉妬に駆られて、外面をかなぐりすててまでキレるというのは、旦那にまだ惚れてるのかなあ……
まだ若いころにも、こんな風にケンカしてたのかなあ……
なんて、怖いお内儀が、妙に可愛くなるところが、実に面白いのでした。
でもそう解釈すると、オチになる最後の小僧さんのセリフ、とんでもなく残酷だなあ……
七月十八日追記。
この次、色物を挟んで大トリ、というのが寄席のプログラムです。今回の色物は『俗曲』となっていました。何だろう?
