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色物『俗曲』演:檜山うめ吉。


一月も間が開いちまいましたが、浅草演芸ホールの寄席見物もトリでございます。寄席のトリを務める人には、主任なんて肩書があるようですね。そいつは初めて知ったなあ。その寄席を仕切る、総監督みたいなもんなのかしら。

大トリ前に色物。

大トリに限らず、寄席の噺というやつは、始まらないと演目が分からない。めくりに書かれているのは演者の名前だけ。
先にネタばらしをしてしまうと、夜の部らしく夜のお遊び、廓の噺でござんした。
大トリの前に、色物がございます。落語以外の、漫才やら曲芸やらのこと。今回、この大トリ前の色物は、俗曲……お座敷でのお遊びなんぞで、三味線に合わせて歌う曲でした。
担当されたのは、檜山うめ吉という方。

細くて小柄ですが、柳腰とはこういうものかと、立ち居振る舞いが既に艶のあるお姐さんで、桜色のお着物が、生まれながらの肌のように馴染んで、香るよう。
声も笛のように可愛らしくコロコロしていて、シャラリシャラリと流れるようなお三味に、軽やかに乗っかる涼やかさ。
とはいえ、唄の文句はクッキリとよく通り、お三味の響きも張りがあって、なよやかな見目のうらはらの、キビキビした芯の強さがうつくしい。

俗曲いろいろ。

『水の深き』

吉原……と書いて「なか」と読みたいところですね……柳橋あたりから、猪牙舟(ちょきぶね……イノシシのキバのような細身の小舟)に揺られて遊びに(ここは江戸っ子っぽく「あすびに」と訛りたい)行く道行きを、地名をつらねて表現する歌。だから地名を知らなきゃ分からない……はずなんだけど、艫に響くような三味の跳ねっぷり、川面に滑るような歌声、岸辺の人に呼び掛けるような言葉がけ。これから、ちょいと粋なひと時を過ごそうか、なんて気分がもりあがる。
〆の「お客だよゥーッ」なんてぇセリフが、なんともしびれるのだった。

『品川ジンタ』

猪牙舟に揺られるような雰囲気で、まるで江戸時代にタイムスリップした気分になって。でもそんなのは、自分とは縁のない遠い昔のお話と、ちょっと切なくなったところで、こちらの『品川ジンタ』が歌われる。

船は出てゆく煙は残る。残る煙が癪の種。

『品川ジンタ』

蒸気船のある時代まで近づいた。吉原はなくなっても、粋なあすびは滅びていないというお話……確かに、今この浅草演芸ホールだって、十分粋なのだ。

『箱入り旦那』

さてそんな、粋な姐さんの歌う「理想の男の三条件」とは?

うめ吉姐さんのオリジナル曲。今でも粋は生きているのだ。そんなメッセージが含まれたセトリ……あれ? このジャンルでも、セットリストって言っていいのかな。

『おきよシャモジはどこにある』

さてそんな大上段に構えるのは、それはそれで野暮という。粋ってのは難しいねと、ナンセンスな唄を、ポイッと入れるさりげなさがまたカッコいいなあ。この唄の内容、ホントに「シャモジが見当たらない」だけ。マジで。しかも短い。
しかし姐さんが、お三味の豆知識といった風情で、さらっと語るには、二分もない曲の中で、二回も変調すると。

お三味の、ギターのペグに当たる部分は糸巻という。キュッキュと巻いてチューニングする。フレットもない。弦は三本しかない。変調するときはチューニングをやり直す。
言われて見れば、今までもちょくちょく、弾きながら糸巻をキュッキュしてたような……

つまりこの『おきよシャモジはどこにある』という曲、唄の内容はおきよさんがシャモジをなくした、というだけ。でも二分に満たない中で歌い弾きながら、二回もチューニングをやり直すのだ。それも別の音階に。何それ怖い。

超絶技巧をアホな歌詞で打ち消す。そのとんでもない落差にメマイがする。もちろん、うめ吉姐さんにとってはお茶の子サイサイ節である。大喝采でありました。

『菖蒲の踊』

締めは舞踊。
季節に合わせて『菖蒲の踊(しょうぶのおどり)』を披露。
日本の舞踊を、生でちゃんと見るのは初めて。お正月のお神楽は何度か見たことあったっけ、なんてレベルだ。
ドキドキしちゃった。和服っていうのは、露出が少なくて、あまり色気が無いなんて思いこみがあったけれど、なかなかどうして、とんでもないですね。
ユルリと立った立ち姿が柔らかくって、腰を静かに回すたびに、着物がピンと張り詰めて、体の線を浮き上がらせる。手足の動きは小さくても、ふと浮くように裾や袂が閃いて、手首足首が白く光るのでした。

大トリは三遊亭遊之介。

まだこの時点では、大トリの演目は分からない。
ただ、檜山うめ吉さんの作った空気はすっかり昔の吉原。
この空気の中で廓噺となれば、そりゃあ面白くないわけがない。
期待はいやがおうにも高まるのでした。

七月八日、大トリの記事を書きました。
これにて浅草演芸ホール、四月下席夜の部のレポート、一巻の終わりでございます。読者の皆々様には、どうぞ最後まで、ごゆるりとお愉しみいただければ幸いでございます。

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