見出し画像

【変身】フランツ・カフカ(高橋義孝 訳)|読了

ある朝、目を覚ますと、グレーゴルは巨大な虫になっていた。

理由はない。前触れもない。そして最後まで、なぜそうなったのかは説明されない。

この理不尽さが凄かった。

でも、読み終えて強く残ったのは「なぜ虫になったのか」という謎以上に、虫になったことで、それまで当たり前だった人間関係が少しずつ崩れていくことだった。

異常な出来事から始まるのに、本当に怖かったのは、そのあとに続いていく日常の方だった。


「なぜ」は最後まで分からない

『変身』には、最初から大きな「なぜ」がある。

なぜグレーゴルは虫になったのか。

普通なら、物語のどこかで原因が明らかになると思う。

呪いなのか。

病気なのか。

何かの象徴なのか。

でも、この作品は答えてくれない。

グレーゴル自身も理由を突き止めようとはせず、物語は虫になったという異常な事実をそのまま受け入れて進んでいく。

そこが不思議で、怖かった。

ありえないことが起きているのに、世界はその理由を説明してくれない。

しかも、それでも生活は続く。

仕事はどうするのか。家族はどうするのか。これからどうやって生きるのか。

異常な出来事が起きた瞬間より、その異常を抱えたまま日常が動き続ける方が、だんだん恐ろしくなっていった。


虫になったことより、役割を失うことが怖い

グレーゴルは、それまで一家を支える存在だった。

働く。

お金を稼ぐ。

家族の生活を支える。

その役割を果たしているあいだは、彼には家庭の中での居場所があった。

でも、虫になって働けなくなる。

その瞬間から、家族にとってのグレーゴルの意味も少しずつ変わっていく。

戸惑われる。

恐れられる。

邪魔にされる。

そして、負担になっていく。

ここがかなり苦しかった。

人間としての価値と、「何ができるか」があまりにも近くに置かれている。

働けること。

家族を支えられること。

誰かの役に立てること。

それを失ったとき、自分には何が残るのか。

虫になるという極端な出来事を描いているのに、そこから見えてくるものは妙に現実的だった。

「もし自分が突然、役に立たなくなったら」

そんなことまで考えてしまった。


家族を完全には責めきれない

もちろん、読んでいるとグレーゴルの家族に腹が立つ。

それまで家族を支えてきた人間なのに。

自分の意思で虫になったわけでもないのに。

どうしてそこまで扱いが変わるのかと思う。

それでも、家族だけを一方的に責めることもできなかった。

彼らにも生活がある。

働かなければならない。

恐怖もある。

疲れもある。

突然、家の中に巨大な虫が存在するようになったという現実もある。

最初は心配していても、その状態がずっと続けば、人間の感情は変わってしまう。

そこが余計に怖かった。

家族が特別に残酷な人間だから、というだけでは終わらない。

追い詰められたとき、人は相手を「大切な人」ではなく「負担」として見るようになるかもしれない。

そう考えると、簡単に他人事にはできなかった。

そして、それを理解できてしまう自分にも少し嫌なものが残る。

この言い切れなさが、『変身』の重さなのだと思う。


人間であることは、何で決まるのか

グレーゴルは姿こそ虫になってしまうけれど、内側では家族のことを考えている。

周囲の言葉も理解している。

感情もある。

それでも外から見れば、もう人間には見えない。

では、人間として扱われるために必要なのは何なのだろう。

見た目なのか。

言葉が通じることなのか。

働けることなのか。

誰かの役に立つことなのか。

読んでいると、だんだん分からなくなってくる。

虫になったことでグレーゴル自身が変わった部分もある。

でも、それ以上に大きく変わっていくのは、周囲がグレーゴルを見る目だった。

人間だったはずの存在が、少しずつ「それ」として扱われていく。

その変化が、虫になったことそのものより怖かった。


答えがないから、読み終えても終わらない

結局、グレーゴルが虫になった理由は分からない。

なぜこんなことが起きたのか。

何を意味しているのか。

すべてが明快に説明されることもない。

でも、だからこそ読み終えてから考えてしまう。

もし原因がはっきりしていたら、「そういう物語だった」と整理できたかもしれない。

でも『変身』は、その逃げ道を与えてくれない。

虫になるという出来事だけを置いて、そこから人間や家族、仕事、役割、価値が崩れていく様子を見せる。

そして最後まで、その意味を読者に返してくる。

答えがないから、物語が読み終わったところで閉じない。

これは何だったのか。

なぜこんなに嫌なものが残るのか。

そう考え続けてしまう。

その余白まで含めて、この作品の強さなのだと思った。


読後に残ったもの

『変身』を好きか嫌いかと聞かれると、少し難しい。

嫌いではない。

でも、素直に「好き」と言うのとも少し違う。

それでも、読後に残ったものはかなり強かった。

虫になった理由が分からないこと。

役割を失ったことで、人間としての居場所まで失っていくこと。

それを見ながら、家族を完全には責めきれないこと。

そして、

もし自分が突然、誰かの役に立てなくなったら。

そんなことまで考えてしまう。

虫になるというありえない物語なのに、そこから見えてくる人間関係や生活の現実は、妙に身近だった。

だから怖い。

悲劇なのに大げさに叫ばない。

異常なのに説明しない。

そして、答えもくれない。

グレーゴルが虫になったこと以上に、虫になった彼を取り巻く世界がそのまま続いていくことの方が怖かった。

読み終えても簡単には片づかない。

だからこそ、今も読み継がれている作品なのだろうと思う。

☃️ここまで読んでくださってありがとうございました。
ミステリ中心に読書の感想を書いています。
気が合いそうだと思ったら、フォローしてもらえたら嬉しいです。

🔽書影や詳細はこちら(Amazonアソシエイトリンク)

当アカウントはAmazonアソシエイトに参加しており、リンクから収益を得る場合があります。


👇合わせてこちらもご覧ください

いいなと思ったら応援しよう!