見出し画像

【ひきこもり家族】染井為人|読了

ひきこもり当事者と、その家族の双方から描かれていく物語。

自立支援センターによって強制的に外へ連れ出された5人は、施設で共同生活を送ることになる。そこで起きる出来事や衝突、少しずつ見えてくるセンターの実態、そして当事者と家族それぞれが抱えてきた苦しさ。

題材はかなり重い。

でも文章のテンポはよく、社会問題を説明するための小説というより、まず物語として先が気になった。

そして読み進めるほど、「支援」や「自立」という本来は前向きなはずの言葉が、少しずつ怖く聞こえてくる。

そこが強く印象に残った。


「支援」という言葉が怖くなる


この作品を読んでいて何度も考えたのは、支援とは何なのかということだった。

子どもを助けたい。このままではいけない。でも、家族だけではどうすればいいのか分からない。

そんな状態が長く続けば、外部の誰かに頼りたくなる気持ちも分かる。

だからこそ苦しい。

良かれと思って差し出した手が、本人にとっても救いになるとは限らない。

本作では、

支援の名を借りた管理。
自立の名を借りた強制。
更生の名を借りた支配。

そんなものが見えてくる。

「本人のため」「家族のため」「社会復帰のため」。

正しそうな言葉が並ぶほど、本人が何を感じ、なぜ外へ出られなくなったのかが置き去りになっていく。その過程が怖かった。

外へ出すことと、その人を救うことは同じではない。

当たり前のようでいて、この作品を読むとその違いがかなり重く感じられた。


本人だけでも、家族だけでもない


良かったのは、ひきこもりを当事者だけの問題として描いていないところだった。

家族も疲弊している。

助けたいのに届かない。話したくても通じない。待つことにも限界がある。それでも、簡単に見捨てることはできない。

だから外から見て、「そんな支援センターに頼らなければよかった」と言うだけでは足りないように思えた。

もちろん、だから何をしても許されるわけではない。

でも、追い詰められた家族が「誰か何とかしてほしい」と思うところまで含めて描かれることで、一人だけを悪者にして終わる話ではなくなっていた。

本人の孤立。家族の疲弊。支援を求める側の切実さ。そして、その弱さにつけ込む仕組み。

誰か一人の問題ではなく、それぞれの限界が重なったところに歪みが生まれている。

そこが、この作品の重さだったと思う。


「社会復帰」より先に必要なもの


共同生活を送る5人も、最初から分かり合えるわけではない。

うまく話せない。ぶつかる。距離を取る。それぞれがそれぞれの事情を抱え、社会との関わり方にも不器用さがある。

それでも、同じ場所で過ごすうちに少しずつ関係が生まれていく。

ここが良かった。

社会の側から見れば、ひきこもりに対して「外へ出る」「働く」「自立する」といった分かりやすいゴールを求めたくなる。

でも、この5人を見ていると、その前に必要なものがあるようにも感じる。

自分がここにいてもいいと思えること。

誰かと少しだけ話せること。

完全には分かり合えなくても、一緒にいられること。

「社会復帰」より先に、「居場所」が必要なのかもしれない。

立派な場所でなくてもいい。きれいな関係でなくてもいい。

誰かに矯正される場所ではなく、自分が自分のままで存在できる場所。

彼らが不器用に関係を作っていく姿から、その切実さを感じた。


読みやすいからこそ、重さが入ってくる


題材だけを見れば、かなり重い作品だと思う。

ひきこもり。家族の疲弊。自立支援。強制と支配。社会へ戻ることの難しさ。

でも、読みにくい社会派小説ではなかった。

テンポがよく、物語として先が気になる。だからページは進む。

その読みやすさが、むしろこの作品では効いていた。

社会問題について説明されている感覚ではなく、登場人物たちを追っているうちに、気づけば「支援とは何なのか」「自立とは誰のためのものなのか」と考えている。

読ませる力と、考えさせる重さが分かれていない。

そこが良かった。


読後に残ったもの


『ひきこもり家族』を読んで残ったのは、「ひきこもりをどう解決するか」という単純な問いではなかった。

本人には本人の事情がある。

家族には家族の限界がある。

そして、本来ならその両方を助けるはずの「支援」も、やり方を間違えれば本人をさらに追い詰めるものになる。

だから、簡単に正解を決められない。

特に印象に残ったのは、「自立させること」と「その人を救うこと」は必ずしも同じではないということだった。

家から出た。

人と暮らした。

働いた。

それだけで、その人が抱えているものまでなくなるわけではない。

誰かともう一度関わるためには、その前に「ここにいてもいい」と思える場所が必要なのかもしれない。

読みやすい。でも、軽くはない。

社会問題を扱いながら、誰かを簡単に責めるところへ逃げず、当事者、家族、支援、それぞれの苦しさを物語として読ませる。

「助ける」とは、その人を自分たちの考える“正しい場所”へ戻すことなのか。

読み終えても、その問いが残った。

🔽書影や詳細はこちら(Amazonアソシエイトリンク)

当アカウントはAmazonアソシエイトに参加しており、リンクから収益を得る場合があります。

👇あわせて、こんな記事も書いています。

いいなと思ったら応援しよう!